保険監督者国際機構(IAIS)と持続可能な保険フォーラム(SIF)は7月31日、気候変動リスク対応に向けた保険監督当局の現行方針を整理したレポート「Issues Paper on Climate Change Risks to the Insurance Sector」を発表した。同レポートは、各国の保険監督当局に対する方針ガイドラインを示したものではなく、あくまで現行の各国での考え方を整理したものと位置づけられている。
同レポートは、SIF加盟国のオーストラリア、ブラジル、フランス、イタリア、オランダ、スウェーデン、英国、米カリフォルニア州、米ワシントン州の各保険監督当局が中心となり、2018年3月に公表された市中協議文書に対して寄せられたコメントを踏まえて作成された。4月にはパブリックコメントも受け付け、市場関係者や政府当局、NGOから20の意見を得た。日本の金融庁は5月からSIFの正式メンバーとなったためか、中心メンバーの中に金融庁の名前はない。
今回のレポートは、気候変動が保険業界に対し大きな影響を与えるという認識を高めることに置かれている。そのため、物理的リスク、移行リスク、負債リスクや近年頻発する異常気象を踏まえ、現状と各国当局の考え方を整理した。2017年には、自然災害による被害総額は3,400億米ドルとなり過去2番目に大きい規模に。保険カバー資産の損害も1,380億米ドルと過去最大となった。損害の83%は北米に集中しており、巨大ハリケーンによる影響が大きい。ハリケーンによる損失は2000年から2016年までの平均の約5倍にも増加した。大規模山火事による被害がそれに追い打ちをかけている。
増大する自然災害による損害は、保険金支払いだけでなく、保険業界の投資にも悪影響を及ぼす。自然災害により行政に財政負担がかかると、国債や地方債のリスクが高まる。また気候変動対応のため不動産に対する省エネ規制等が導入されると投資先の不動産価格にも影響を及ぼす。同レポートは、それぞれについて数ページずつを割き、詳細な論述を行った。
同レポートは、国際的な保険監督の枠組みである「保険コアプリンシプル(ICP)」からも、気候変動に関する保険監督の必要性にも言及した。また、各国の保険監督当局が取りうる対応として11項目を挙げ、ストレステスト、シナリオ分析、エクスポージャー分析についても触れた。
4月に実施されたパブリックコメントでは、チューリッヒ生命や英ロイズ・オブ・ロンドンは賛同を表明する一方、国際協同組合保険連合(ICMIF)は中小保険会社にとって新たな規制が経営負担になることへの危惧も訴えた。また、米国からは米国損害保険協会やオクラホマ州保険局、シンシナティ保険等からは反対意見が相次いだが、IAISは今回のレポートの趣旨に合わないとして意見を退けた。日本損害保険協会も意見を提出し、気候変動対応議論は時期尚早で、同レポートが提起するようなシステミックリスクだとは思わないと反論。各国の個別事情を尊重し、国際的ではなく国別の法規制を要求した。そのうちの多くは同レポートの最終版には反映されなかった。但し、カリフォルニア州保険局が、SIFに対し、TCFDへ情報開示の義務化を促し、FSB(金融安定理事会)とG20は義務化に向け具体的な検討をすべきだと要望したコメントについては、その章では当局の対応例を書く場所でSIFへの要望を記すべきではないと指摘し、削除させることに成功した。
【参照ページ】New paper calls on insurance sector to intensify climate risk scrutiny
【参照ページ】保険監督者国際機構(IAIS)・持続可能な保険フォーラム(SIF)による「保険セクターにおける気候変動リスクに関するイシューペーパー」の公表について
【参照ページ】Consultation: Draft Issues Paper on Climate Change Risks to the Insurance Sector
【レポート】Issues Paper on Climate Change Risks to the Insurance Sector
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