CSR報告に関する国際フレームワークとしてはGRIが有名だが、中東のイスラム圏では独自の動きが生まれている。イスラムの教義とCSRの概念を掛け合わせた新たなCSR報告フレームワーク、Islamic Reporting Initiative(以下、IRI)をご存じだろうか。
IRIはイスラムの価値観に基づいてCSR評価を行うための報告基準で、企業の成長を実現するメカニズムとしてCSR報告の活用を推進するため、今年の3月に立ち上がったイニシアチブだ。イスラムの事業慣行の特徴を踏まえ、企業に対してCSRや慈善活動に関する効果的な報告の枠組みを提供しており、企業の持続可能な価値向上と成長を支援している。
IRIを設立したのは、UAEに本拠を置き、過去10年以上に渡り数多くのイスラム企業のCSRを支援しつつ政府やNPOと協働してきたサステナビリティ・コンサルサルティング会社のEMGだ。
IRIのミッションは、イスラム世界における経済的機会を責任ある形で拡大させ、CSR報告をあらゆる業界、企業における標準的な取り組みとすることだ。IRIのCSR報告フレームワークは包括的なトリプルボトムラインに関する効果的な測定、報告のための基準および方法を提供している。IRIが掲げるIslamic Social Responsibility Code of Conduct(イスラムの社会的責任行動規則)の中には下記が含まれる。
- 社会的投資
- 若者のエンゲージメント
- 従業員の国有化(グローバルな多文化枠組みの中における)
- 経済に基づく知識の向上
- STEMスキル育成および知識の移行
- 長期的な事業価値の創造
- 組織的な慈善行動
- 環境的に持続可能な測定基準
- 経済的な貢献(持続可能な雇用など)
イスラムのCSRを推進する新たなイニシアチブの誕生に際し、EMGのCEOでIRI顧問委員会会長を務めるDrs Daan Elffers氏は、Middle East Businessの記事の中で「中東地域はCSR分野のグローバルリーダーになる極めて大きなポテンシャルを持っており、安定的かつインクルーシブな社会を創造しながら持続可能な成長を実現するためのインスピレーションを他の国々に与えるだろう。IRIはイスラムの規範と価値観に沿った、初めての中心的なCSR報告基準になることを目指している。我々は、IRIは企業や機関のサステナビリティという財産を創造する可能性を秘めていると信じている」と語る。
Drs Daan Elffers氏が語る通り、中東は今後CSRの分野において世界を牽引する存在となる可能性がある。なぜなら、イスラムの価値規範とCSRの概念との間には高い親和性があるからだ。その一つとして挙げられるのが「慈善」の考え方だ。イスラムにとって弱者を救う慈善は信者の義務であり、社会や環境問題を解決するために個人と企業が協力するという考え方が深く根付いている。
そして二つ目は「イスラム金融」だ。イスラム金融はイスラムの教義に基づく金融手法で、金利という概念を用いない点が特徴的だ。中東・東南アジアのイスラム圏において社会的責任投資の市場規模が急速に拡大している背景には、このイスラム金融の存在がある。このように、イスラム圏においては寛容と責任の文化が既に構築されており、CSRの考え方の拠り所となっているのだ。
今や世界のCSRの軸足は徐々に欧米からアジアや中東など他地域へと移りつつある。IRIのような新たなCSR報告フレームワークの誕生はその変化を象徴する大きな出来事の一つだ。IRIの誕生により、今後中東地域のCSRがどのように進化し、世界全体に影響力を及ぼしていくのか、今後の動向が注目される。
【参考サイト】What is the Islamic Reporting Initiative?
【団体サイト】Islamic Reporting Initiative
【参考サイト】New CSR Reporting Standard in the Middle East
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