中国科学技術大学の合肥微尺度物質科学国家実験室(HFNL)の陸朝陽教授率いる量子コンピューター研究グループは12月3日、科学誌「サイエンス」で論文を発表。米グーグルに次ぎ、世界で2番目の「量子超越性」を実現した。世界での技術競争がスーパーコンピューターから量子コンピューターへとシフトしていることを印象付けた。
量子超越とは、現在のスーパーコンピュータでは、計算に非常に長い時間がかかる計算課題を、量子コンピューター技術を活用し、異次元に高速で計算できてしまうことを指す。今回の中国での実験では、中国の高速スパコン「神威太湖之光」で計算すると25億年かかり、世界トップの日本の「富岳」でも6億年を要すると目される計算を、わずか200秒で終えることに成功した模様。計算速度がスーパーコンピューターから100兆倍にも速くなったことになる。
世界で初めて量子超越性を実現したのはグーグル。グーグルは2017年に超伝導方式と呼ばれる手法で、量子超越性を実現するプロジェクトを発表し、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授をリーダーに据えて開発に着手。2019年頃からは、米航空宇宙局(NASA)にも協力を仰ぎ、「ブリッスルコーン(Bristlecone)」と呼ばれる最新の72キュービット(量子ビット)の量子チップで研究を進めていた。
グーグルの実験では、「Sycamore(シカモア)」と名付けた量子論理ゲートで構成された54量子ビットプロセッサを開発し、スーパーコンピューターででは1万年を要すると推定される計算テストを実施したところ、わずか200秒で目標の計算を完了することに成功した。
グーグルとNASAの共同実験の成果は、9月にNASAのサーバーから草稿中の論文がリークしたことで明らかとなり、10月には「サイエンス」と並ぶ科学誌「ネイチャー」から量子超越性を実現したことを示す論文が発表された。これよにり、スーパーコンピューターに変わる時代が到来したこととなった。
量子超越性は、スーパーコンピューターとの性能比較を用いた相対的な技術レベル表現のため、スーパーコンピューターの性能が向上すれば、「量子超越性」を実現したと主張する閾値も上がることになる。実際に、グーグルの実験成功に対しては、スーパーコンピューター技術を磨いてきたIBMは2019年10月、グーグルの論文には「重大な欠陥がある」と指摘。IBMのスーパーコンピューター「Summit」で同じ計算をすれば、2日半で完了でき、さらに改良すればより短期間で完了できたはずと述べ、「量子超越性」とは言い難いと反論した。
今回中国のチームは、グーグルとは異なる「光子」方式という違う手法で量子超越性を実現した。チームを率いる陸教授は、グーグルの量子超越性の功績を認めた上で、実用的な量子コンピューターの実現に向け、さらなる研究を進めると話している。
中国は量子コンピューターの開発を重大プロジェクトと位置づけてきた。1兆円規模の資金を投じて安徽省に関連技術の研究拠点を整備するなど、21年以降も取り組みを加速するとみられる。
グーグルと中国科学技術大学でも量子超越性達成に向けた研究は、IBM、マイクロソフト、アマゾン、インテルや、スタートアップ企業でも進められている。しかしスーパーコンピューター技術が、軍事目的で開発されてきたのと同様、量子コンピューターにも、各国が安全保障の理由からも投資を積極化している。特に、米中間では熾烈な競争が続いており、中国政府は2016年から科学技術イノベーション第13次5カ年計画の中で重点分野と位置づけ、1兆円規模で支援をしてきた。米政府も2019年からの5年間で最大13億米ドル(約1,400億円)を投じる計画。
【論文】Quantum computational advantage using photons
【論文】Quantum supremacy using a programmable superconducting processor
【参照ページ】プログラム可能な超伝導プロセッサを使用した量子超越性
【参照ページ】量子コンピュータを用いた量子超越実験で示されたこと
【参照ページ】On “Quantum Supremacy”
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