オーストラリア連邦政府は12月8日、連邦環境保護・生物多様性保全(EPBC)法改正に向けた方向性を定めた政策文書「ネイチャーポジティブ計画」を発表した。オーストラリアで、環境法の大転換が始まろうとしている。
1999年に制定されたEPBCでは、遅くとも10年毎に独立レビューを実施することを法定化しており、連邦政府は2019年10月、オーストラリア競争消費者委員会(ACCC)の元会長であるグレアム・サミュエル教授にレビューを委託。サミュエル教授は、他の専門家やステークホルダーとも議論の末、2020年10月に最終報告書、通称「サミュエル・レビュー」を発表。同報告書は、同国の環境法が目的を達成せずに大きく失敗していると酷評し、EPBCの全面的な法改正が必要と勧告していた。
オーストラリアでは2021年5月に9年ぶりに政権が交代。下院総選挙で、野党・労働党が、与党・保守連合(自由党、国民党)を破り、アルバニージー労働党党首が首相に就任した。その後の11月には、オーストラリア気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)が発表した「年次環境報告書(SoE)2021」の中では、SoEとして初めて、先住民族の知識、価値観、視点が環境評価に組み込まれ、先住民の伝統的知識が重要な役割を果たすことが強調されていた。
今回の発表は、サミュエル・レビューによる勧告を踏まえ、労働党政権としての環境法改正の方向性を固めたもの。サミュエル・レビューでは、国家的な環境基準「国家環境基準」を策定し、国家環境上の重要事項(世界遺産、絶滅危惧種、湿地、移動性種)、先住民の関与と参加、法令遵守と実施、データと情報についての法定基準を定めるべきと提言。今回の「ネイチャーポジティブ計画」では、2023年に国家環境基準を策定するための法整備を行うとともに、全ての政府の意思決定に国家環境基準を適用することを確保するため、新たに環境保護庁(EPA)を独立行政機関として新設することを盛り込んだ。
国家環境基準に関しては、特に先住民族とのエンゲージメントを重視。また、サミュエル・レビューの勧告通りに、法令遵守と実施、データと情報の2つについても、EPAの設立後に法定基準策定作業を進めるとした。生物多様性や生態系やセウ住民族の遺産に関する基準も重要視した。
気候変動に関しては、2030年までに2005年比43%減、2050年カーボンニュートラルという政府目標と整合させるため、環境法管轄のプロジェクトのスコープ1とスコープ2の排出量見通しの報告義務化や、気候変動適応やレジリエンスの考慮も規定する考え。さらに、シェールガスやタイトガスの採掘プロジェクトでの水保護規制の強化にも言及。原子力発電に関しても、オーストラリア放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)の基準の中に、国家環境基準も盛り込み、一体的に運用していく方針を掲げた。
オーストラリア特有の環境オフセット制度にもメスを入れる。現行のオフセット・スキームでは、事業での環境破壊を容易に他のプロジェクトでオフセットできてしまうが、今回の計画では、環境悪化を避けることを最優先として掲げた。オフセットでは、事業での環境破壊緩和措置に次に用いることが認められる。加えて、オフセットは事業実施地域で行うことが優先され、単純に資金でオフセット・クレジットを購入することは最後の手段に位置づけられる。一方、必要な分野に資金が動員できるよう「自然修復市場」というシステムも構築しにいく。
【参照ページ】Nature Positive Plan: better for the environment, better for business
【参照ページ】State of Environment 2021
【参照ページ】EPBC Act reform
【参照ページ】The independent review of the Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999
【参照ページ】Environment law reform a strong start; needs greater urgency
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