
機関投資家の食品・小売関連イニシアチブ「Farm Animal Investment Risk and Return(FAIRR)」は7月22日、畜産世界大手191社の気候関連リスク情報開示を分析した結果を公表した。分析対象は、世界の畜産市場1兆7,000億米ドルうち45%をカバーしている。
今回の分析では、気候変動リスク関連のコストを開示している企業は19%の36社しかなかった。具体的には、牛肉関連で14%、乳製品関連で32%、豚肉関連で4%、鶏肉・鶏卵関連で6%。分析対象191社のうち上場企業は94社だが、上場企業でも気候変動リスクによる潜在的なコスト増を開示できない状況にある。
FAIRRは今回、2023年のCDPへの回答の中で、気候変動リスクによるコスト増に関し、ネスレが158億米ドル(総売上の15%)、ユニリーバが74億米ドル(総売上の11%)と回答していることも紹介。これらのコスト想定はあくまで推計であり不確実だが、すでに大手企業が不確実ながらもデータを公表していることを見習うべきという考えを示した。加えて、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のIFRS S2に言及し、同スタンダードでも気候変動関連コストの算出が求められるとした。
また、豚肉、鶏肉・鶏卵を扱う企業で特にコスト開示が少ないことに警鐘を鳴らした。当該企業は、気候変動が飼料生産に与える影響を大きく受けることになり、飼料は食肉生産の経費の60%から70%を占めているが、影響分析が進んでいないことを危惧した。具体的には、北米の主要飼料作物のとうもろこしで、気候変動によるコスト影響の感応度が高く、FAIRRの分析では、北米のとうもろこし価格はBAU(現状)シナリオで40%上昇する可能性があるという。
乳製品企業については、コスト開示が相対的に進んでいるが、FAIRRはその背景について、「消費者は、購入の意思決定をする際、スーパーマーケットで乳製品ブランドを頻繁に目にするため、乳製品企業は、ポジティブな評判を構築するために積極的な措置を講じる意欲が高い」と見立てた。実際の開示では、ダノンやフォンテラは、暑熱ストレスの緩和対策等も含めたコストを開示している。
FAIRRは今回の分析結果を踏まえ、機関投資家に対し、さらなるエンゲージメントを推奨した。特に、スコープ3まで含めた温室効果ガス排出量の開示にとどまらず、気候変動関連コストの開示も要請していくべきとした。関連コストでは、炭素価格制度(カーボンプライシング)のコスト影響については比較的開示される傾向にあるが、それ以外にも、洪水、旱魃、猛暑、嵐、海面上昇、飼料価格、エネルギー価格等の要素についても開示すべきとした。同時に、コスト増要因に対処するための、レジリエンス策についても問うていくべきとした。
【参照ページ】Findings for Investors From Climate Risk Disclosures of Livestock Companies
Sustainable Japanの特長
Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。
- 時価総額上位100社の96%が登録済
- 業界第一人者が編集長
- 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
- 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく
ログインする
※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら