
科学的根拠に基づく削減目標イニシアチブ(SBTi)は7月30日、企業版ネットゼロ・スタンダード改訂の初期段階として、検討結果文書を4つ公表した。特に、企業が抱えるスコープ3削減課題に関して、検討の方向性を明らかにした。
今回公表した文書は、スコープ3目標設定の概念検討の「ディスカッションペーパー」、環境属性証明書の有効性に関する「エビデンス」、環境属性証明書の中でもカーボンクレジットに焦点を当てた包括報告書と、独立レビュー報告書。いずれも、スコープ3目標設定の中で、環境属性証明書をどのように活用できるかということが論点となっている。カーボンクレジット以外の環境属性証明書に関する報告書は後日発表することになっている。
【参考】【国際】SBTi、カーボンクレジットでの「カーボンインセット」容認を公式決定。7月に原案発表(2024年4月12日)
【参考】【国際】SBTi評議会、4月9日声明は「誤った解釈を招きかねなかった」。決定プロセス着実に(2024年4月24日)
【参考】【国際】SBTi、企業版ネットゼロ・スタンダードの大規模改訂に着手。2025年末の完成を予定(2024年5月12日)
今回の公表文書では、まず、スコープ3での削減目標の設定に関し、算定データが二次原単位データに依存していることや算定方法にばらつきがあること、ネットゼロ・スタンダードが掲げる「短期67%以上カバー、長期90%以上カバー」の基準に曖昧さがあること、サプライチェーン上の排出量を直線的に削減していくことや、影響力を行使していくことに、企業がハードルを感じているケースが多いとした。
そこでSBTiでは、スコープ3目標設定の中で、環境属性証明書を活用していくことに活路を見出そうとしている。環境属性証明書には、電気、燃料、農作物、工業製品等の商品毎に発行されるサステナビリティ関連認証書「商品認証書」と、カーボンクレジットの2つに分類される。
SBTiは今回の文書の中で、環境属性証明書を活用する5つのシナリオを分析している。具体的には「バリューチェーンでの商品認証書の活用」「バリューチェーン上でのトレーサビリティが低い場合の商品認証書の活用」「バリューチェーンでの削減訴求としてのカーボンクレジットの活用」「削減後の残余排出量をニュートラル化するためのカーボンクレジットの活用」「ビヨンド・バリューチェーン緩和(BVCM)でのカーボンクレジットの活用」の5つ。
重要な点は、SBTiは、削減目標として認められるものはバリューチェーン上でカーボンクレジットや商品証明書を用いる「カーボンインセット」のみであるという点。一部で誤って喧伝されているように、スコープ3排出量の削減のためにカーボンオフセットが解禁されるというような検討は、SBTiではされていない。SBTiは今回、カーボンクレジットに関連するシナリオでは、排出オフセットは含んでいないと明言。スコープ3の各シナリオでは、バリューチェーンの直接的なカーボンニュートラル化が優先され、カーボンクレジットは代用にはならないということを強調した。
今回の公表文書では、環境属性証明書の活用には有効性が認められるとしつつも、環境属性証明書のメソドロジーは多様であり、導入までに検討すべき論点が多いと結論付けた。また、環境属性証明書は、削減目標設定のために設計されてはおらず、全体で制度を調和させるためには、SBTi内だけでなく、各証書発行団体との対話も必要とした。そのため、SBTiは今後、幅広いステークホルダーとの協議に入る。
今後のスケジュールでは、2024年末に企業版ネットゼロ・スタンダードの改訂草案を公表し、パブリックコメントを募集していく。改訂版の発行は2025年中、適用開始は2026年を予定している。
またSBTiは7月24日、金融機関版ネットゼロ・スタンダード草案を公表。9月20日までパブリックコメントを募集する。こちらでは、アセットオーナー投資、運用会社投資、融資、保険引受、資本市場事業(証券事業等)を対象とし、スコープ3カテゴリー15の削減目標設定に特に関心が払われている。金融機関版ネットゼロ・スタンダードの策定では、パイロットテストを実施してから、最終決定となるため、今回の草案はパイロットテストを行うための基準となる。
【参考】【国際】SBTi、金融機関向けネットゼロ・スタンダード策定で、パイロットテスト参加期間募集(2024年7月11日)
【参照ページ】SBTi releases technical publications in an early step in the Corporate Net-Zero Standard review
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