【国際】国連加盟国、AMRで政治宣言。2030年目標設定。感染予防、農業・畜産、医薬品等に影響

　国連総会は9月26日、「薬剤耐性（AMR）に関するハイレベル会合」を開催し、政治宣言を採択。106項目の内容で合意した。細菌性薬剤耐性（AMR）に関連する年間495万人と推定される死者数を、2030年までに10%削減する目標も設定した。

　同宣言では、世界保健機関（WHO）が2017年に発表した予測をあらためて強調。2050年までに薬剤耐性で年間1兆米ドルの追加医療費が発生し、2030年までに年間1兆米ドルから3.4兆米ドルのGDPが失われる可能性があると警鐘を鳴らした。また、薬剤耐性細菌感染症の治療だけでも年間最大4,120億米ドルの費用がかかり、さらに労働力人口増と生産性低下で費用が4,430億米ドルにまで上る可能性があることも伝えた。薬剤耐性により家畜が11%減少することも予測されている。

　2019年には、耐性菌感染症に関連した死者数は495万人。そのうち耐性菌感染症に直接起因する死者数は127万人で、20%が5歳未満の子供。対策を強化しなければ、2035年までに世界平均で1.8年の平均余命の減少が生じると推定されることも指摘した。

　同宣言では、世界保健機関（WHO）、国連食糧農業機関（FAO）、国際獣疫事務局（WOAH）、 国連環境計画（UNEP）の4者構成組織に対し、2025年に薬剤耐性に対する行動のための独立エビデンスパネルを設置し、2026年までに薬剤耐性に関する世界行動計画（GAP）を改訂し、ワンヘルス・アプローチを通じた強固かつ包括的な多部門対応を確保するよう要請した。さらに、各常設の「薬剤耐性に関する四者構成合同事務局」を正式に設置することや、国連開発計画（UNDP）、世界銀行、国連児童基金（UNICEF）、世界税関機構（WCO）等の関連する国際機関との協力と交流を促進することも求めた。

　感染予防では、2030年までに、すべての医療施設に基本的な水・衛生、廃棄物サービスを導入している国連加盟国の割合を100%、感染予防管理プログラムに関するWHOの最低要件を国レベルで満たしている国連加盟国の割合を90%にすることをおいた。

　ヒトの健康では、2030年までに、ヒト向けの抗生物質の70%以上を、副作用が比較的少なく、AMRを引き起こす可能性の低いWHOアクセスグループの抗生物質にする目標を設定した。

　農業・家畜分野では、各国の状況を考慮しつつ、2030年までに農業・食料システムにおいて世界的に使用される抗生物質の量を、現在のレベルから大幅に削減する努力目標を設定。また、2030年までに、WOAH優先疾病リストを考慮し、動物のワクチン接種戦略が実施計画とともに定義されるようにする。

　AMRモニタリングでは、全加盟国に対し、世界薬剤耐性・使用サーベイランスシステム（Glass）、WOAHの動物用抗菌薬使用グローバルデータベース（ANIMUSE）、国際FAO抗菌薬耐性モニタリング（InFARM ）等の既存の世界的サーベイランスシステムを通じ、2030年までに薬剤耐性・抗菌薬使用に関する質の高いサーベイランスデータを報告するよう奨励。さらに、追跡AMR国別自己評価調査（TRACSS）を通じ、95%の国がAMR国別行動計画の実施状況を毎年報告するよう求めた。

　資金確保では、2030年までに60%以上の国が資金提供計画を達成するよう、資金源の多様化と薬剤耐性マルチパートナー信託基金への拠出者数増を通じ、1億米ドルの調達を達成することを目標として設定した。資金確保も「薬剤耐性に関する四者構成合同事務局」のミッションとなる。 　 【参照ページ】World leaders commit to decisive action on antimicrobial resistance

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所