
JR東日本傘下のJR東日本エネルギー開発は9月27日、山形県米沢市で検討していた「(仮称)栗子山風力発電事業」を断念したと発表した。同事業に対しては、経済産業相が9月19日、環境影響評価(環境アセスメント)に基づく事業修正を命じる勧告を発出していた。
同事業の設備容量は、風力発電基を10基設置し、合計34MW。対象事業実施区域の面積は約260haで改変面積は約31ha。2029年3月の運転開始を予定していた。
設備容量10MW以上の風力発電所の設置または変更に関しては、環境影響評価(環境アセスメント)のプロセスとして、環境相及び関係都道府県知事の意見にも基づき、経済産業相が勧告を発出することとなっている。
環境相は8月30日に意見を発出。同事業の実施区域及びその周辺には、水環境及び水生生物への影響、鳥類に対する影響、植物及び生態系に対する影響があるとし、懸念を表明していた。
具体的には、河川、沢筋、上水道等の取水地点が存在していることから、本事業の実施により、工事中の土砂及び濁水の流出に伴う水環境への影響が懸念されると指摘。そのため、「既設道路を活用するなど、可能な限り土地の改変を抑制した上で、風力発電設備等の新設による切土工等については、構造及び工法の検討や、土堤、素掘側溝等の濁水対策の検討を行い、沈砂池等の設置及び管理を適切に実施するなど、適切に環境保全措置を講ずることにより、土砂及び濁水の流出等による水環境への影響を回避又は極力低減すること」を求めていた。
また、「特に盛土で埋設される予定の合沢においては、工事用道路敷設に伴う暗渠設置、流路切り替え等の環境保全措置を行う計画となっているものの、黒滝及びその周辺に近接する区域において水環境及び水生生物への影響が懸念されることから、環境影響が十分に回避又は極力低減されるよう、環境保全措置の見直しを行うこと」と意見。さらに、「工事中において、河川、沢筋、取水地点等に土砂及び濁水が流出していないかを確認するため、環境監視を実施することと、環境監視の結果、土砂又は濁水の流出等が確認された場合には、関係機関等と協議の上、必要な措置を速やかに講ずること」を求めていた。
鳥類への影響では、対象事業実施区域及びその周辺は、種の保存法に基づき国内希少種に指定されているイヌワシ、クマタカ等を含む重要な鳥類の生息環境となっており、さらに年間を通じてイヌワシの採餌行動を含む飛翔が多数確認されていると指摘。風力発電設備の設置を予定している箇所周辺の尾根が視野の確保が困難な地形にあることから、それを踏まえた猛禽類の調査、予測、評価の実施と、専門家の意見を踏まえた餌資源量指数の再検討も指示していた。
植生への影響では、対象事業実施区域内には、なだれ地自然群落、クロベ-キタゴヨウ群落、ササ群落等の自然度の高い植生が存在しており、本事業ではこれらの群落の一部を改変する計画となっていると指摘。事業者が作成した現存植生図で、低木群落等の植生自然度の区分に不明確な部分があるため、改変面積を最小化するとともに、現存植生図の植生自然度を適切に区分し、自然度の高い植生の改変を回避又は極力低減するを指示していた。
さらに福島県知事と山形県知事からは、風力発電設備の騒音に関しても懸念が表明。特に、福島県知事からは、騒音の環境基準について、「幹線交通を担う道路に近接する空間」の特例基準が適用されることを説明する姿勢を問題視し、周辺住民等へ丁寧な説明を行うべきとしていた。
これらを踏まえ、経済産業相は9月19日に勧告を発出。上記の4つの観点を踏まえ、環境影響評価において、関係機関等との連携及び地域住民等への説明を十分に実施した上で、計画の修正内容を公表するよう勧告。工事計画に関しても見直した上で、環境影響評価報告書に適切に記載するよう要請した。また、設置地域である山形県知事と米沢市長も計画の中止を求めていた。
JR東日本エネルギー開発は、今回の検討要請を受け、「スケジュールの大幅な遅延とコストの増大が見込まれることから、本事業の事業性が成り立たないことが明らかにな」ったと表明。開発検討を終了し、事業を取り止めることを決定したと説明した。
同事業については、2023年10月10日以降、一部報道機関で、環境影響評価準備書の調査データ改竄の疑いがあると報じられ、同社は10月18日に見解を発表。改竄はなかったが、希少猛禽類の生息状況については調査が不足していたとの認識を示し、対応すると表明していた。
同社は、同事業以外にも、日本国内で風力発電事業を複数開発中。
【参照ページ】「(仮称)栗子山風力発電事業」の取り止めについて
【参照ページ】2024年度 第11回 環境審査顧問会 風力部会
【参照ページ】JR 東日本エネルギー開発株式会社「(仮称)栗子山風力発電事業 環境影響評価準備書」に対する勧告について
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