世界保険大手独アリアンツは6月12日、各業種が抱える自然資本リスクをまとめたレポートを発表した。原材料の減少・枯渇による価格高騰、事業の休止に加え、規制強化や地域社会からの圧力等に起因するビジネスリスクが、かつてない程に高まっているという。
同レポートは、自然資本を「土壌、空気、水そしてすべての有機体を含むグローバルな自然資源」と定義。米MSCI ESGリサーチのデータベースを活用し、世界2,500社以上の企業を対象に12業種の分析を行った。分析では、文献調査や企業へのインタビューも実施された。リスク対象となったファクターは、生物多様性、二酸化炭素排出、非温室効果ガス(GHG)排出、水、廃棄物の5つ。12業種を「危険」「中間」「安全」の3段階で分類した。
「危険」に分類された業種は、石油・ガス、鉱業、食料・飲料、交通・輸送の4つ。現在企業が対応しているリスク低減施策が、現状のリスクに追いついていない。例えば鉱業セクターでは、世界の鉄鉱石生産の90%以上が水ストレスや生物多様性への影響が高い地域で行われている。また交通・輸送セクターは、生物多様性の影響と二酸化炭素排出量および非温室効果ガス排出量が重大なリスク要因となっている。交通・輸送関連の二酸化炭素排出量は、1970年以来250%増加し、現在では全世界の排出量の23%を占めている。動植物への影響を軽減するためにも排出量の抑制等の方策が必要。
食料・飲料セクターは、サプライチェーンの自然資本への依存度が高いため、「危険」に分類されている。水ストレスの結果として水の供給が休止される重大なリスクがある。しかしMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに記載されている食品会社のうちわずか20%しか、サプライチェーンを通じた対応が開始されていない。農薬の過度の使用による繁殖力の低下等の動植物への悪影響、気象事象への脆弱性の増加による作物供給の減少や休止も、このセクターのリスクを高める要因となっている。
「中間」に分類されたのは 建設業、電気・ガス・水道等の公益事業、衣料品、化学、製造、製薬、自動車の7つ。実際のリスクと現状のリスク低減レベルが均衡している状態。
「安全」に分類されたのは、通信セクターのみ。同セクターは、他のセクターの自然資本リスクを防御する多大な機会もある。デジタル通信および管理ソリューションにより、効率的な資源活用が可能となる。
自然資本のリスクは、警告なしにはほとんど出現しない。今回のリポートでは、リスクが企業の収益に直接的な影響を与える前に、3つの段階を経て高まってくることを明らかにした。第1段階では、リスクに対する意識の高まり。第2段階では、規制の変更や社会的圧力によってサプライチェーンや個々の企業の事業に影響を及ぼし始める。第3段階では、リスクを低減できない場合には、賠償責任コスト、生産コストの高騰や事業の休止などの損害をもたらし、最終的に企業の財務パフォーマンスに影響を及ぼすことになる。
アリアンツは、自然資本リスクを回避するための施策として統合リスク管理(ERM)を推奨。ERMに自然資本リスクを組み込み始めている企業は相当数あり、企業の意思決定に水の利用可能性や新たな排出権制度などの要素を含む自然資本コストを考慮することは、潜在的な脅威の予測にも役立つ。しかし企業が短期的な目標に重点を置く今日の状況下では、自然資本リスクを査定し、定量化し、収益につながるように目前のリスク管理と将来的および非財務的リスクのバランスを図ることは、多くの企業にとって容易ではない。
【参照ページ】Allianz report: Failure to manage natural resources brings increasing interruption and liability risks for businesses
【参照ページ】Measuring And Managing Environmental Exposure: A Business Sector Analysis of Natural Capital Risk