世界の発電供給量割合
こちらの図は、国際エネルギー機関(IEA)が公表している最新データベース「Key World Energy Statistics 2019」をもとに、2017年のデータをまとめたものです。こちらのデータにより各国の状況を横並びで比較することができます。
(出所)IEA “Key World Energy Statistics 2019″をもとにニューラル作成
世界全体の発電手法(2017年)
- 石炭 :38.5%
- 石油 : 3.3%
- 天然ガス :23.0%
- 原子力 :10.3%
- 水力 :15.9%
- 地熱 : 0.3%
- 太陽光 : 1.7%
- 太陽熱 : 0.0%
- 風力 : 4.4%
- 潮力 : 0.0%
- バイオマス: 1.8%
- 廃棄物 : 0.4%
- その他 : 0.1%
世界の発電総量割合の全体傾向は、石炭と石油がそれぞれ0.7ポイント、0.8ポイント減少し、天然ガスが0.2ポイント増加。太陽光と風力もそれぞれ0.7ポイント、1.0ポイント伸びました。それ以外はほぼ横ばいです。
北米:資源が豊富で選択肢が幅広い
経済大国米国、そしてカナダ。両国は電力消費量が「一流」なだけではなく、発電量も「一流」です。世界の発電量のうち、米国だけで約17%、カナダを合わせて約19%を占めています。北米は化石燃料が豊富な地域です。2017年時点で、石炭生産量は米国が世界第3位。石油生産量は米国が1位で、カナダが4位。天然ガス生産量も米国が1位で、カナダが4位です。北米では、シェールガスやシェールオイルの採掘が大規模に始まっており、資源生産量はまだまだ増加します。化石燃料以外も「一流」です。広大な大地を要する両国は、水力発電用地にも恵まれ、水力発電量は米国が世界第4位、カナダが2位です。また科学技術力の高い両国は原子力発電にも積極的で原子力発電量も米国が世界1位、カナダが6位です。
(出所)IEA “Energy Policies of IEA Countries: United States 2019”
このように資源が豊富な米国ですが、一方で再生可能エネルギーの導入も進んできています。2017年度は水力を除く再生可能エネルギーで8.1%、水力を含めると15.7%となります。米国は連邦政府レベルでは依然再生可能エネルギーのシェア目標(英語でRenewable Portfolio Standard。RPSが略称)は設定していませんが、州政府は自主的にRPSの設定を行っており、今日までにすでに30を超える州政府が公式に目標数値を発表しています。その中で特に有名なのはカリフォルニア州が掲げた2045年までに100%(水力発電含む・原子力は実質含まない)という目標です。同州は、以前に掲げた「2020年までに33%」という目標を2019年に2年前倒しで達成もしています。トランプ政権は、パリ協定の離脱など、石炭への回帰を目指す政策を掲げていますが、州政府レベルではむしろ低炭素の動きが加速しています。
西欧:原子力か、ロシア産天然ガスか、それとも再生可能エネルギーか
西欧諸国は国毎に原子力発電に対する考え方が大きく分かれています。イタリアは従来から原子力発電所を使用しない方針を堅持しており、現在も原子力発電所での発電はゼロ、フランスからの電力輸入で電力消費量の十数%を調達する道を選んできました。東日本大震災後には、ドイツ、ベルギー、スイスが原子力発電所を期限を決めて全廃する方針を決定。スペインもその流れに追随し、原発の新設中止を決めています。世界有数の原子力大国であったフランスでも原子力発電に対する考え方が大きく後退し、現在のマクロン政権は原子力依存度を大幅に下げる政策を展開しています。原子力を放棄しても西欧諸国が発電量を確保できるのは、ロシア産天然ガスがあるからです。ヨーロッパにはロシア産天然ガスを輸送するためパイプラインが縦横無尽に張り巡らされています。この天然ガスによる火力発電がヨーロッパにとっての安定的なエネルギー供給源となってきました。
(出所)一般財団法人高度情報科学技術研究機構
ところが、そのロシア産天然ガスにも依存できない状況が到来しました。それは政治的リスクです。ウクライナ情勢が不安定化する2000年代から、政治的に対立しやすいロシアに対しエネルギー源を大きく依存することは得策ではないという政治的な判断が生まれ、いくつかの国は原子力でもない、ロシア産天然ガスでもない道を選択しなければならなくなりました。そして登場するのが再生可能エネルギーです。
西欧諸国は世界の中で再生可能エネルギーを最も推進している地域だと言えます。政府は再生可能エネルギーの導入を推進する制度整備を行い、メガソーラーや大規模洋上風力発電所等への積極投資を呼び込みました。結果、スペインは太陽光・太陽熱・風力を合わせて23%、イタリアも太陽光・風力を合わせて14%、工業国ドイツも太陽光・風力合わせて24%、英国も太陽光・風力で21%を発電しています。この流れは2018年以降も続いておりIEAの次回データ発表の際には、各国の再生可能エネルギーによる発電の割合はさらに高まっていると予想されます。
また特殊事情にあるのは資源保有国であるドイツと英国です。ドイツは世界第8位の石炭生産国、英国には北海油田・ガス田があります。その結果ドイツは石炭での発電割合が高く、英国は天然ガス(ロシア産ではなく自国産)の割合が高くなっています。ところが、その英国も北海油田には依存できない状態が到来しています。
(出所)JOGMEC「在来型・非在来型を共に追い求めるイギリスの石油・ガス動向」
英国の石油・天然ガス生産量は、2000年頃を境に急落しています。北海油田が成熟化し採掘コストが増加しているためです。英国は2004年に石油・天然ガスの純輸入国になり、2013年には石油製品も含めた純輸入国へ転換しました。それでも天然ガスはロシア産は購入せず、90%以上をカタールからの輸入LNGで賄っています。この状況下で、英国は自前のエネルギー源を確保するため、北海地域で天然ガスやシェールガスの開発を積極化していますが、一方で大規模洋上風力発電にも活路を見出そうとしています。
北欧:水力シェアが高い
(出所)IEA “Key World Energy Statistics”
デンマークを除く北欧地域は一人当りの電力消費量が高い地域です。北極圏に近い寒冷地域のため、暖房での電力消費量が多いのです。同様のことは同じ北緯にあるカナダや、アルプス山脈地帯であるスイスにも言えます。このように燃費の悪い地域にはもう一つの特長があります。自然に恵まれた環境であるため、水力発電が盛んなのです。水力発電の割合は、アイスランド(69.7%)、ノルウェー(95.0%)、スウェーデン(38.7%)、フィンランド(19.0%)です。同じく地理的環境が似ているカナダ(59.0%)、スイス(54.6%)です。
原子力発電所については北欧でも対応が分かれています。水力発電だけで電力をほぼ100%賄っているノルウェーや、アイスランド、デンマークは当初から原子力発電はゼロ。スウェーデンは現在41.3%を原子力発電に依存しており、一度は原発全廃の方針を掲げたものの、その後方針を撤回し、今後も原子力を継続することとなっています。フィンランドは原子力発電を今後も継続していく予定です。
北欧は西欧と並んで再生可能エネルギー意欲の高い地域です。地理的制約により水力発電が適さないデンマークは従来ロシアから輸入した石炭で火力発電を行ってきました。しかし、ロシア依存度の引き下げと気候変動への対応のため2025年までに石炭での発電をゼロにする検討を行っています。そこで目をつけたのが洋上風力。今では風力発電だけで46.3%を賄っており、世界の風力発電大国です。スウェーデンとフィンランドも同様に風力とバイオマスに力を入れており、2つを足したシェアはスウェーデンで16.3%、フィンランドで25.6%に達します。また、ホットプルームという特殊な地理的環境に恵まれたアイスランドは地熱発電で30.3%の発電を行っており、水力と地熱だけで100%の発電シェアを誇ります。
興味深いのはノルウェーです。ノルウェーは英国と同様に北海地区に油田・ガス田を有する資源大国です。天然ガスの生産量は世界第7位。しかしながら、水力発電が強く、石炭・石油・天然ガスを合わせた火力発電合計の割合はわずか1.9%です。ノルウェーは石油・天然ガスの多くを輸出しており、その半分は英国に輸出されています。
アジア・太平洋:火力発電への依存度が極めて高い
アジアは非常に火力発電割合の高い地域です。まずは資源保有国の状況。石炭生産量世界第1位の中国、同第2位のインド、同4位のインドネシアは石炭での火力発電が主力です。天然ガス生産量世界第3位のイラン、同9位のサウジアラビア、そして同じく産油国であるエジプトやマレーシアでは、天然ガスと石油が主力です。一方、日本、韓国、台湾、タイといった資源非保有国は輸入石炭や輸入天然ガスによる火力発電が主流です。特に、地理的環境や経済構造が日本と近い韓国や台湾では、かつての日本と同様、原子力発電によって自前のエネルギー源を確保する政策を採ってきています。しかし台湾は2016年に2025年までに原子力発電を全廃し、風力と太陽光で補うことを決定しました。また、韓国も2017年の文在寅政権となってから、脱原発・脱石炭へと舵を切り始めました。
経済成長著しい中国とインドは今後、大気汚染に苦しむ石炭火力発電の割合を大きく引下げ、太陽光発電と風力発電を大規模に展開していく計画をすでに立てています。
ここで特筆すべきは、インドネシアとフィリピンの地熱発電です。インドネシアは世界第2位の地熱資源保有国、フィリピンは同4位。両国は環太平洋造山帯に立地するという地の利を活かし、地熱発電の割合はインドネシア(5.0%)、フィリピン(10.9%)となっています。両国が地熱発電に踏み切った背景には、原子力発電計画の廃止がありました。フィリピンでは、もともと1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、1986年に発足したアキノ政権によって同発電所の安全性および経済性が疑問視され、運転認可が見送られた経緯がありました。その後、地熱発電に舵を切っています。また、インドネシアでも、一時検討されていた原子力発電所計画が、福島第一原子力発電所事故を契機に頓挫し、大規模な地熱発電の拡大計画を政府が打ち出すに至りました。今、両国では、海外の金融機関や商社が地熱発電プロジェクトに大規模に出資し、開発を展開しています。
(出所)JOGMEC
オセアニアの大国、オーストラリアも資源大国です。石炭生産量は世界第5位、石油・天然ガスも生産しています。そのため、化石燃料からの火力発電割合が83%(そのうち石炭が60%)と圧倒しています。人口当たりの二酸化炭素排出量が世界一とも言われるオーストラリアがその排出量を減らすため連邦政府は2006年に原子力発電の導入に踏み切ろうとしましたが、国民からの支持を得られず計画は頓挫しています。気候変動対策も迫られるオーストラリア政府は、脱石炭、太陽光・風力発電へと徐々にシフトしようとしています。
その他新興国
ロシア、南アフリカ、メキシコは、自国の資源を活用した火力発電に大きく依存しています。ロシアは天然ガス生産量世界第2位、石炭生産量6位。南アフリカは石炭生産量第7位、メキシコは天然ガス産出国。また、メキシコは地熱発電量世界第4位も誇り、今後は地熱発電プロジェクトへの投資も増えていく見込みです。一方ブラジルも国内で石炭や石油を生産している国ですが、火力発電の割合は高くはなく、電力の63%を水力発電で調達しています。世界最大の砂糖の生産・輸出国であるブラジルは、バイオエタノールによるバイオマス発電の割合が8.9%と高いのも特徴で、バイオマスでの再生可能エネルギー導入が進んでいます。
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