
国連責任投資原則(PRI)は10月8日、気候移行(トランジション)が社会経済に与える影響の分析枠組を提示したディスカッションペーパーを発行した。各国政府は、気候変動移行の環境面だけでなく、社会経済面も含めた包括的な政策枠組を検討すべきと伝えた。
今回のペーパーは、世界各国で気候変動移行に対する市民の反発により、極右勢力が台頭してきたことを踏まえたもの。機関投資家として、潜在的な悪影響を事前に特定し、移行政策改革の全分野にわたって実効性を促進し、経済移行に対する広範な支持を確保するための政府への提言をまとめた。
現状の課題認識としては、気候移行は、損得の不安と恐怖をもたらし、社会の一部の層は、経済的エンパワーメントや福祉向上の機会ではなく、現在の生活やライフスタイルを脅かすものとして移行を受け止めていると述懐。こうした疑念は、政策の公平性に対する懸念や、移行目標に対する抵抗につながりかねず、コストと利益の公平な分配がカギを握るとした。また、近年、経済格差が課題となり、気候移行の阻害要因にもなるとし、経済格差への対処までを含めた気候移行対策が重要とした。具体事例としては、EUでの農民抵抗や米国での反ESG政治運動を示した。
そこで、社会経済への影響の分析枠組みとして、3つの分野に整理した。まず、経済移行の観点から見た社会全体のステークホルダー・マッピングの実施。経済移行が成功するかどうかは、多様な社会グループやセクターの賛同を得られるかどうかにかかっており、政府は、関係者のニーズ、社会的制約、移行に対する抵抗の要因等、移行のステークホルダーを完全に理解する必要があるとした。そのため、公正な移行(ジャストトランジション)に関しては、通常、自社従業員、バリューチェーン労働者、影響を受ける地域社会、消費者に焦点を当てているが、今回のペーパーでは、影響を受けうる社会のあらゆるプレイヤー含むように範囲を広げるべきとした。
2つ目は、移行に関連する政策分野。特に、重要となる政策は、包括的な開発と社会的連帯を促進するため、社会的不満と経済的格差の根本原因を政策ターゲットとし、あらゆる政策介入のベースラインとして基本的権利の尊重にコミットすべきとした。具体的な政策考慮分野では、「労働権」「セーフティネット、社会保護、福祉」「持続可能なインフラ開発」「コミュニティへのインパクト、包摂的な開発」「企業サステナビリティ規制」「サステナビリティ・インパクトへの投資」「財政政策、経済再構築」の7つを挙げた。
3つ目は、解決策となる主要な政策ドライバーで、経済外部性への対処、市場ソリューションへのインセンティブ付け、移行を支えるためのファイナンスの3つが重要になるとした。その上で、投資家は、社会経済面までを考慮した移行政策の策定を支援するため、政府とのエンゲージメントで重要な役割を果たしうると伝えた。
【参照ページ】Discussion paper: The socioeconomic implications of the transition
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