
欧州中央銀行(ECB)は11月27日、今後数十年間にEU各地域で発生すると予測される異常気象による社会経済コスト見通しを分析したワーキングペーパーを発行した。被災地域では人口が減少し、洪水後の復興支出が地域の生産性を低下させるとの結論を得た。
ECBは、異常気象による社会コスト算出では、短期的なコストとして災害による被害や混乱のみを対象とする傾向があり、そこから波及する投資、労働供給、労働生産性の変化を見落としがちと指摘。また、気候変動により前提となる気象パターンが変化すると、経済的影響の大きさ変動させうることにも着目し、今回中長期的な予測を行った。
分析では、地域経済計算から得られた経済活動データと、高解像度時系列気象データセットERA5を活用。統計地域単位命名法(NUTS)のレベル3単位で解析し、1,160地域区分でのシミュレーション結果を得た。
分析の結果、まず、経済的、地球物理学的、季節的な要因が、総合的な影響を左右することがみえてきた。夏の熱波は一般的に経済活動を低下させるが、冬の熱波は経済活動を促進させる。また、夏の熱波の影響は、一般的に平均気温が高い地域と一般的に寒い地域で異なる。最後に、熱波が地域経済に与える影響の程度を決定するのは、平均所得と業種別構成比であることもわかった。
次に、異常気象は、初期の混乱を超え、地域の生産に永続的な影響を及ぼす可能性も見出した。初期の混乱と破壊が、需要と生産性に不確実性をもたらし、その結果、投資と資本が長期にわたって減少。生産量は、ある地域が夏の熱波に見舞われた4年後には1.4ポイント、干ばつに見舞われた4年後には2.4ポイント低下。また、被害を受けた地域の住民が移住し、労働者の供給が減少する可能性もあることがわかった。
3つ目は、資本、労働、及び全要素生産性(TFP)の3つの主要な生産要素の進化が与える影響も分析したことによる発見。夏の熱波の場合、生産量の初期の落ち込みは主に雇用の減少と労働時間の減少によるものとなり、時間の経過とともに、影響を受けた地域は投資と資本が増加するものの、TFPは低下し、生産量は変化しないことがわかった。このことは、気候変動適応のために、エアコンや断熱材等への投資が一時的には、生産資本への投資ほどには生産量を増加させないことが示された。また旱魃は、投資の減少、雇用の減少、TFPの低下を招き、中期的に生産高を低下。洪水は、高所得地域では、洪水後の投資とGDPは増加し、復興ブームが起きるが、低所得地域ではこのような投資の増加は見られず、金融制約が回復を弱め、長期的な結果を悪化させる可能性が示唆された。
【参照ページ】Going NUTS: the regional impact of extreme climate events over the medium term
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