
企業の気候変動アクションを評価する際、これまでは温室効果ガス排出量、削減目標、再生可能エネルギー調達、設備投資等が中心的な評価項目だった。しかし近年、企業が政府の気候政策に対してどのような働きかけを行い、加盟する業界団体がどのような政策提言をしているかも、移行計画の信頼性を左右する重要な論点となっている。
企業が自社では「1.5℃目標への整合」や「ネットゼロ」を掲げながら、加盟する業界団体が炭素価格、再生可能エネルギー導入、燃費規制、建築物規制等の延期や弱体化を求めていれば、企業の気候目標と実際の政策関与には矛盾が生じる。企業が直接反対していなくても、会費、役員派遣、委員会参加等を通じて団体の活動を支えている以上、「団体の見解は当社の見解ではない」という説明だけでは十分ではない。
この問題は2025年から2026年にかけて、任意のレピュテーション管理から、報告基準と投資家評価に組み込まれるガバナンス課題へと移行した。サステナビリティ報告の国際基準策定GRIは2025年に公表した気候変動基準で、移行計画と公共政策活動、ロビイングとの整合性を開示事項に位置付けた。一方、投資家評価では、企業自身の政策エンゲージメントよりも、業界団体を通じた間接的な政策エンゲージメントへの対応が遅れていることが明らかになっている。
本稿では、気候変動ロビイングがなぜ企業評価の対象となり、企業は業界団体との整合性をどのように確認し、不整合にどう対応すべきかを解説する。
気候変動ロビイングとは何か
気候変動ロビイングとは、気候変動に重要な影響を及ぼす政策や規制の意思決定に対し、企業または企業の代理となる組織が直接的または間接的に影響を与えようとする活動を指す。対象は気候変動法や排出量取引制度(ETS)等、名称に「気候」を含む政策だけではない。発電構成、送配電網、石油・ガス、交通インフラ、土地利用、税制、製品基準、公共調達等も、脱炭素移行を左右する政策であれば対象となる。
直接的な活動には、政府や議員との面会、審議会への参加、規制案への意見提出、パブリックコメント、訴訟等がある。間接的な活動には、業界団体、経済団体、シンクタンク、企業連合等を通じた政策提言の他、広告、広報キャンペーン、SNS、第三者団体への資金提供等が含まれる。政治献金や非公開の政治交渉だけを「ロビイング」と捉えると、企業が実際に政策へ影響を与える活動の大部分を見落とすことになる。
ロビイング活動そのものが問題なのではない。企業は、事業活動に影響する政策について政府や規制当局に意見を伝える正当な利益を持つ。また、企業が技術、投資、サプライチェーン等の知見を政策形成に提供することで、実効性の高い制度設計に繋がる場合もある。
問題となるのは、企業が公表する気候目標と、実際に支持する政策の方向性が矛盾する場合や、政策形成への関与内容をステークホルダーが確認できない場合だ。気候変動ロビイング開示は、ロビイングを禁止するためのものではなく、企業の政策関与が移行計画と整合し、透明なガバナンスの下で行われているかを確認するための仕組みと位置付けられる。
なぜ移行計画と政策エンゲージメントの整合性が問われるのか
企業の移行計画は、企業単独の投資だけでは実現できない。再生可能エネルギーの大量導入には送配電網や許認可制度が必要であり、電動車の普及には充電インフラや車両規制、建築物の脱炭素には省エネ基準や改修支援、素材産業の転換には炭素価格や公共調達等が必要となる。企業の削減目標は、一定の政策環境が整うことを前提としている。
その一方で企業や業界団体が、同じ政策の導入延期、適用除外、基準緩和を求めれば、企業は自らの移行計画に必要な条件を自ら弱めることになる。気候変動ロビイングの整合性は、企業が環境に好意的か否かを測る評価ではない。企業の移行計画や投資計画が依存する政策条件を自ら支持しているか、公表した計画と実際の政策活動が一貫しているかを確認する、移行計画の実行可能性に関わる評価である。
企業の政策関与は、市場全体の移行速度にも影響する。個別企業が自社工場の排出量を削減しても、業界全体に適用される製品基準や排出規制が弱ければ、高排出製品との価格差が維持され、先行投資を行った企業が競争上不利になる可能性がある。反対に、企業が業界団体等を通じて科学的知見と整合した政策を支持すれば、投資の予見可能性が高まり、低炭素技術や製品の市場形成を後押しできる。
2026年1月に英気候変動シンクタンクInfluenceMapと、気候変動対策推進の企業ネットワーク米We Mean Business Coalitionが公表した分析でも、企業の移行計画は政策枠組みに依存しており、科学と整合した政策エンゲージメントは企業戦略上の必要条件だと整理された。企業が設備投資や調達を変えるだけでなく、政策形成への関与を移行計画の一部として管理する考え方が強まっている。
業界団体を通じた間接的な政策エンゲージメント
企業が気候政策に影響を与える方法として、特に重要なのが業界団体を通じた間接的な政策エンゲージメントだ。業界団体は、個別企業よりも広い産業を代表する立場で、政府への意見提出、審議会参加、法案への修正要求、経済影響試算の公表等を行う。政府側にとっても、個別企業ではなく産業全体の意見として受け止めやすく、政策形成上の影響力は大きい。
しかし業界団体の立場は、必ずしも全会員企業の平均的な意見を示すとは限らない。発言力の強い企業、規制の影響を強く受ける企業、団体の理事や政策委員会の役職を持つ企業等の立場が強く反映されることがある。団体内での合意形成を優先した結果、最も政策転換に消極的な会員の水準まで提言内容が引き下げられることも考えられる。
InfluenceMapが2025年に欧州企業約200社とEUで活動する業界団体を分析したところ、企業自身の気候変動政策エンゲージメントは52%が完全または部分的に科学と整合していた一方、整合していた業界団体は12%に留まった。業界団体側も2019年の2%から改善したものの、企業側の変化に追い付いておらず、企業とその代表団体の立場に大きな差が残っている。
企業が業界団体に会費を払い、役員や委員を派遣し、団体名義の政策提言から便益を得ている場合、団体の活動は企業から完全に切り離された第三者活動とは言い難い。特に企業が不整合を把握しながら、団体内で是正を求めず、対外的な説明もせず、加盟を継続している場合、投資家からは団体の立場を黙認していると評価される可能性が高い。
欧州議会のオムニバス審議で可視化されたロビー活動
ロビー活動が実際の立法過程でどの程度の規模に達しているかを示した直近事例が、仏環境NGOのReclaim Financeが2026年3月に公表した欧州議会への入館記録の分析だ。
【参考】【EU】化石燃料ロビー活動の立法影響指摘。欧州議会への入館記録分析、米国勢の影響も(2026年4月6日)
同団体は、2025年9月1日から12月18日までの入館記録を分析。同期間は、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)と企業サステナビリティ報告指令(CSRD)を見直すオムニバス法案の審議時期と重なっていた。調査期間中のロビイストの入館回数は合計2万2,158回に達し、2,553のロビー団体が確認された。入館回数の内訳では、業界団体が23.5%、企業・企業グループが21.8%、コンサルティング会社が13.6%を占め、企業関連が全体の59%に達した。
化石燃料業界では、石油・ガス企業、業界団体、サービス・インフラ企業等27団体が特定され、コンサルティング会社を除いても、調査対象80日間のうち70日間にわたり、合計468回入館していた。オムニバス法案を巡る交渉が集中した一部の日には、欧州議会内に入館したロビイスト数が欧州議会議員数を上回った。
さらにReclaim Financeは、化石燃料関連ロビイストの入館のうち相当部分が、公開された公式面会予定と結び付いていなかったと指摘した。議会内の廊下、カフェ、イベント等で行われる非公式な接触は、公開された面会記録だけでは把握できない。企業が直接面会する場合だけでなく、業界団体やコンサルティング会社を介して間接的に政策へ関与する経路も存在する。
入館記録だけで、個別の法改正と特定のロビー活動との因果関係を立証することはできない。しかし同分析は、重要な立法局面に、多数の企業、業界団体、コンサルティング会社が継続的に関与している実態を示した。企業の政策関与を評価するには、自社名義の公式面会だけでなく、業界団体、委託先のコンサルティング会社、第三者組織を通じた活動まで把握する必要がある。
GRIが気候変動ロビイングを正式な開示論点に
気候変動ロビイング開示の制度化を象徴するのが、GRIが2025年6月に公表した「GRI 102: Climate Change 2025」だ。同基準は、企業に対し、ロビイングを含む公共政策活動が、気候変動緩和に向けた移行計画とどのように整合しているかを説明するよう要求している。
同基準は2027年1月1日以降に公表される報告から適用され、早期適用も推奨されている。したがって2026年は、企業が次年度の報告に向け、加盟団体の棚卸し、重要政策の特定、レビュー基準、社内責任者、是正手続を整える準備期間に当たる。
同基準のガイダンスでは、移行計画上の重要な政策課題に対する自社の立場、実際の政策エンゲージメントと公表方針や目標との差異、公共政策形成やロビイングに参加する業界団体・委員会への加盟または資金拠出、企業と団体の立場の違い等を報告すべき事項として挙げている。さらに、気候変動に焦点を当てる業界団体への加盟状況や、団体の立場に影響を与えるために実施したエンゲージメントについても報告できるとしている。
単に「当社はパリ協定を支持する」と記載するだけではなく、その方針が個別政策への働きかけや業界団体の活動にまで一貫していることを説明する段階に入ったと言える。
投資家評価で示された対応の遅れ
企業の対応は依然として十分ではない。機関投資家主導の国際イニシアチブTransition Pathway Initiative(TPI)の「State of the Corporate Transition 2025」は、世界の高排出上場企業2,000社を評価。国内外の気候変動緩和政策を支持している企業は27%に留まり、自社と業界団体の気候政策上の立場の不整合を管理する仕組みを報告している企業は10%だった。
Climate Action 100+の2025年版ネットゼロ企業ベンチマークでも、企業の直接的な気候変動政策エンゲージメントの整合性は前年から改善せず、業界団体を通じた間接的な関与の整合性は2ポイント低下した。その結果、直接・間接の政策関与がともにパリ協定と整合していると評価された企業は対象企業の2%で、前年の4%から低下した。企業の政策エンゲージメントに関する改善は、数年間の進展を経て2025年に停滞した。
一方、ロビイングレビューを公表していた企業は、Climate Action 100+の対象企業全体では39%、欧州企業では69%だった。欧州ではレビューの公表が広がっているものの、レビューを公表したことと、企業及び全加盟団体の活動が実際にパリ協定と整合していることは同義ではない。
これらの評価が示すのは、企業が気候方針を持っているかではなく、方針と実際の政策活動の矛盾を発見し、是正する仕組みを持っているかが問われ始めたということだ。レビューを一度公表するだけでなく、対象範囲、判定根拠、不整合への対応、翌年の進捗まで示すことが評価の分岐点となる。
整合性レビューで何を確認するのか
整合性レビューの出発点は、対象組織の棚卸しである。本社が把握する主要団体だけでなく、国内外の子会社が加盟する業界団体、経済団体、政策連合、シンクタンク、標準化団体等を確認する必要がある。団体名だけでなく、年間会費、特別拠出、取締役・理事・委員会等への参加、企業が政策策定に関与できる権限も把握する。グループ全体を対象にしなければ、海外子会社や事業部門を通じた重要な政策エンゲージメントがレビューから漏れる。
また、企業が直接加盟する団体だけでなく、委託したコンサルティング会社やロビイング会社、企業が資金を拠出するキャンペーン、研究機関、第三者組織等も、重要性に応じて確認する必要がある。Reclaim Financeの欧州議会分析が示した通り、企業の利益を代表する活動の相当部分は、企業自身ではなく、業界団体やコンサルティング会社の名義で行われ得る。
次に、何をもって「整合」と判断するかを定める必要がある。比較対象を「パリ協定支持」という抽象的な宣言だけにすると、多くの団体が整合しているように見える。しかし実際の政策対立は、炭素価格の水準、石炭火力の廃止時期、再生可能エネルギー目標、内燃機関車規制、メタン規制、建築物性能基準等、個別の制度設計で生じる。
企業は、自社の移行計画に重要な政策を特定し、企業と団体の立場を政策毎に比較しなければならない。例えば企業と団体の双方が2050年ネットゼロを支持していても、団体が2030年までの規制導入に反対し、削減の大部分を2040年代以降へ先送りする立場を採っていれば、移行経路には重大な不整合がある可能性がある。
レビューでは、団体の公式方針だけでなく、政府への意見書、パブリックコメント、審議会での発言、広告、経営陣の声明、訴訟、政策キャンペーン等、実際の活動を確認する必要がある。表向きにはネットゼロを支持しながら、個別規制では施行延期や適用除外を求めるケースもあるためだ。
評価区分としては、整合、部分的整合、不整合、判断材料不足等を設け、判断根拠となる文書や活動を示すことが望ましい。十分な情報が得られない場合は整合と判定せず、評価不能として区別し、追加調査や団体への情報開示要請の対象として管理する必要がある。
投資家主導の「Global Standard on Responsible Climate Lobbying」は、取締役会の監督、直接・間接の活動の年次レビュー、加盟団体や資金拠出の開示、不整合の判断基準、段階的な是正措置等を含む14の指標を提示している。法的義務ではないが、企業がレビュー制度を設計する際の実務的な参照枠となる。
不整合を発見した後のエスカレーション
整合性レビューの目的は、団体を分類して公表することではなく、不整合を是正することにある。企業はまず、団体に対して方針変更を求め、政策委員会や理事会で自社の立場を表明する。必要に応じて、同様の立場を持つ会員企業と連携し、団体内で多数派形成を進めることも考えられる。
企業が団体内で理事、委員長、政策委員等の役職を務めている場合には、その権限をどのように使ったかも問われる。団体内で大きな影響力を持ちながら、団体の不整合を第三者の見解として扱うことは難しい。
所属団体と自社の立場の不整合に改善が見られない場合は、自社見解の公表、団体の見解への公開反論、政策委員会や役職からの辞任、特定活動への資金提供停止、会費の削減、加盟停止、脱退等へ段階的に対応を強める。重要なのは、企業が「対話を継続する」とだけ説明するのではなく、改善を求める期限、次の措置へ移る条件、最終的な選択肢を事前に定めることだ。Global Standard on Responsible Climate Lobbyingも、不整合に対する是正措置と、その結果の開示を求めている。
不整合があるから直ちに脱退すべきとは限らない。団体内に残り、方針転換を働きかける方が政策への影響力を発揮できる場合もある。但しその場合は、加盟を続ける理由、自社が行った働きかけ、団体側の反応、改善期限を開示しなければ、単なる対応先送りとの違いを説明できない。
また、企業が団体から脱退しても、同じ政策に対する自社の直接的な働きかけが不整合であれば、問題は解決しない。直接的な政策エンゲージメントと、業界団体等を通じた間接的な政策エンゲージメントの双方を同じ基準で管理する必要がある。
先進企業の開示事例
ユニリーバは、主要業界団体の気候政策との整合性を継続的にレビューしている。2025年版では26団体を対象とし、外部機関Volansによる独立レビューとInfluenceMapのLobbyMap等の公開情報を活用して、個別政策への立場を評価した。
【参考】【国際】ユニリーバ、加盟業界団体に気候変動アドボカシー関与を要請。賛同表明では不十分(2024年3月7日)
同社の評価では、26団体のうち18団体で不整合がないと判断。一方、7団体では化石燃料の迅速な段階的廃止に関する不整合、1団体では科学に基づく政策との不整合を確認した。不整合を把握した団体については、団体への働きかけや、今後実施する対応を示している。
同社は、団体との立場を一致させられない場合、見解の相違の公表や加盟撤回も選択肢として明示している。ここで重要なのは、加盟団体の一覧を示すだけでなく、第三者情報を用いて団体の実際の政策活動を検証し、前年からの変化と今後の措置まで開示している点だ。
日本企業でも対応は始まっている。トヨタ自動車は「Toyota’s Views on Climate Public Policies」を継続的に公表し、経済団体や業界団体による気候政策への働きかけを評価している。同社は透明性とステークホルダーとの信頼向上を目的に、団体毎の立場と自社見解を確認し、年次で更新する方針を示している。
一方、企業による自己評価と外部機関による評価が一致するとは限らない。企業が「重大な不整合はない」と判断した場合でも、外部機関が個別の政策関与や、企業が役職を務める団体の活動に懸念を示すことがある。
そのため、企業自身によるレビューだけで完結させず、評価基準と根拠資料を開示し、外部評価との差異について説明することが重要となる。気候変動ロビイングレビューは、企業が自社の正当性を宣言する文書ではなく、第三者が判断過程を検証できる開示でなければならない。
日本企業に求められる社内体制
日本企業が対応する上での最大の課題は、加盟団体と政策エンゲージメントの情報が社内で分散していることだ。会費は経理部門、加盟判断は各事業部門、政府対応は渉外部門、気候方針はサステナビリティ部門、投資家説明はIR部門が担うことが多い。海外子会社が独自に加盟している団体まで含めると、グループ全体の状況を一元的に把握することは容易ではない。
まず必要なのは、グループ共通の加盟団体台帳を整備し、気候政策への影響力、会費額、役職の有無、自社の移行計画との関連性に基づいて優先順位を付けることだ。全団体を同じ深度で調査するのではなく、政策影響力が大きい団体、自社が理事等を務める団体、移行計画の前提となる政策を扱う団体から詳細レビューを始めるのが現実的である。
同時に、サステナビリティ部門と渉外部門を繋ぐガバナンスが必要となる。企業が公表する気候変動目標と、政府への意見提出や団体内での発言を事前に照合し、重大な不整合は経営会議または取締役会に報告する。新規加盟や年次更新の際にも、会費や事業上の便益だけでなく、団体の政策立場を確認する仕組みを組み込むことが望ましい。Global Standard on Responsible Climate Lobbyingは加盟団体の政策関与を毎年レビューするよう求めており、ユニリーバも新規加盟時と年次更新時に、自社の政策方針との整合性を確認している。
日本の政策形成では、業界団体や経済団体が大きな役割を果たしている。InfluenceMapは、日本の気候変動・エネルギー政策への企業エンゲージメントについて、経団連や重工業関連の業界団体の影響力が大きい一方、需要側企業等の異なる立場が政策形成に十分反映されていない可能性を指摘している。
そのため日本企業は、加盟していること自体を問題視するのではなく、自社が団体内で何を主張し、団体の最終的な政策提言に自社の立場がどう反映されたかを確認する必要がある。団体名義の意見書に自社名が記載されていなくても、会員企業として資金や人材を提供していれば、団体の活動との関係を説明することが求められる。
さらに、日本語で行われる政策提言も公開対象となり得ることを認識すべきだ。国際的な評価機関が把握できていないから問題にならないのではなく、企業自身が説明責任を果たす必要がある。企業が「団体の立場は当社の立場ではない」と考えるのであれば、どの政策で見解が異なり、団体に対して何を行ったのかを公表することが、その主張を裏付ける証拠となる。
今後の注目点
気候変動ロビイング開示は、気候目標の周辺に付随する新たな開示項目ではない。削減目標、設備投資、調達、製品戦略、政策エンゲージメントを一つの移行計画として繋げるためのガバナンスである。企業が自らの削減努力を進めても、必要な政策の導入を業界団体が阻害すれば、移行全体は遅れる。反対に、企業が団体を通じて政策形成を後押しすれば、自社だけでは実現できない市場全体の転換を促すことができる。
今後は、レビューを公表したか否かだけでなく、どこまでの組織を対象としたか、個別政策毎に評価したか、団体の公表方針だけでなく実際の活動を確認したか、不整合に期限付きで対応したか、翌年に改善が確認できたかが問われる。
Reclaim Financeの欧州議会分析が示したように、政策形成への関与は、企業と政治家の公式面会だけで完結しない。業界団体、コンサルティング会社、第三者組織、非公式な接触等、複数の経路を通じて行われる。企業が政策関与の全体像を説明するには、自社名義の活動だけでなく、自社の資金や役職、委託関係によって支えられる間接的な活動まで把握する必要がある。
GRI基準の適用開始が迫り、投資家評価でも業界団体との不整合管理が明確な弱点として示された2026年は、日本企業が加盟団体の棚卸しと社内体制整備を始める転換点となる。
企業の気候方針の信頼性は、サステナビリティ報告書に書かれた目標だけでは判断できない。政策を形成する場で、企業が何を支持し、何に反対し、業界団体の不整合にどう向き合ったかまで含めて初めて、移行計画の実効性を説明できる。
気候ロビイングの整合性レビューは、企業の「発言」と「行動」を繋ぐための検証プロセスとして、今後の気候ガバナンスの中核になっていく。
【参照ページ】State of the Corporate Transition 2025
【参照ページ】GRI 102 Climate Change 2025
【参照ページ】Best Practice in Action: Corporate Case Studies of Responsible Climate Policy Engagement
【参照ページ】European Industry and the EU’s Climate Policy 2024–29
【参照ページ】Significant Jump in Large EU Companies Supporting Climate Policy Since 2019
【参照ページ】Have fossil fuel lobbyists captured the European Parliament?
【参照ページ】GRI 102: Climate Change 2025 Frequently Asked Questions (FAQs)
【参照ページ】State of the corporate transition 2025
【参照ページ】Climate Action 100+ Net Zero Company Benchmark
【参照ページ】The Global Standard on Responsible Climate Lobbying
【参照ページ】Climate Policy Engagement Review
【参照ページ】Toyota’s Views on Climate Public Policies 2025
【参照ページ】Turning Point for Japan on Climate – 2025
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菊池尚人
チーフコンサルタント 兼 事業開発室長
2016年新卒から10年コンサルティング業界に従事。2019年より現職。
大手企業・金融機関向けESG戦略・投資アドバイザリーのリードに加え、 サステナビリティ経営に関する研修講師、Sustainable Japan編集も務める。