
EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会は5月30日、自己資本規則指令案と自己資本規則案を可決した。双方のEU法案はすでに欧州議会でも可決されており、両EU法が成立した。
今回のEU法改正は、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)で2017年に合意された「バーゼルIII」をEU市場に導入するもの。バーゼルIIIは、リーマンショックを機に、銀行規制の強化が検討され、2017年に合意に至った新たな規制。自己資本規制における自己資本比率の計算で、資本水準が引き上げられたり、資本の定義が厳格化されたりしている。
今回のEU法改正では、銀行の自己資本要件が過度に引き下げられるリスクを抑制し、当該要件をより比較可能なものにする「アウトプット・フロア」を導入されることが決まった。アウトプット・フロアとは、銀行の内部モデルに従って決定される自己資本規制の下限を、標準化された測定方法を用いた場合に適用される自己資本規制の72.5%に設定するもの。
また、バーゼルIII基準の導入以外にもEU域外銀行のEU域内支店の許認可や、EU域内における事業の監督に適用される最低要件も修正された。暗号資産(仮想通貨)に対する経過措置的なプルデンシャル制度も導入された。
銀行のESGリスクマネジメントを強化する内容も盛り込まれており、銀行はESGリスクを、ガバナンス、リスクマネジメント、戦略的計画プロセスに統合することが義務化される。その一環として、ESGリスクを特定、評価、モニタリング、マネジメントすることも義務化される。ESGリスクには、気候変動関連財務リスク、サイバーセキュリティ、オペレーション・レジリエンス等が想定されている。
さらに投融資において、EUの2050年までのカーボンニュートラル達成目標や、EUで合意されたサステナビリティに関する目標を考慮し、内部リスク管理やコンプライアンス業務を実行することも義務化された。グリーントランジションへの資金調達における銀行の役割を支援するため、EUの排出権取引制度(40%)へのエクスポージャーに対するリスクウェイトを低くすることも決まった。
自己資本規則と自己資本規則指令は、官報掲載の20日後に発効。自己資本規則は2025年1月1日に適用される。自己資本規則指令に関しては、EU加盟国は18ヶ月以内に国内法化する義務を負う。
日本では、金融庁がバーゼルIIIの国内導入ルールをすでに策定しており、国際統一基準金融機関及び内部モデルを採用する国内基準金融機関二関しては2024年3月31日から適用されている。内部モデルを採用しない国内基準金融機関及び最終指定親会社は2025年3月31日から適用される。
米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、財務省通貨監督庁(OCC)は2023年7月に、バーゼルIIIの国内導入ルール案を発表し、大銀行は2025年7月1日から適用することを掲げている。しかし、同ルールの確定時期は不透明な状況。
【参考】【アメリカ】FRB、大銀行の自己資本規制を大幅強化へ。普通株式Tier1資本で16%増も(2023年7月30日)
【参照ページ】Basel III reforms: new EU rules to increase banks’ resilience to economic shocks
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