
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は8月28日、第7回目となる2023年度版の「ESG活動報告」を発行した。昨年度と同様、ESG投資のパフォーマンス、ESGエンゲージメントの成果、集団的エンゲージメントの参加状況、気候変動のリスクと機会に関する開示を実施した。
GPIFが選定している9つのESG株式インデックスでは、運用資産の総額が2024年3月末時点で約17.8兆円で、昨年から約5.3兆円増えた。国内株式ポートフォリオに占めるESG株式インデックス型の割合は17%で、前年から3ポイント増。海外株式ポートフォリオでは13%で同1ポイント増。債券ではサステナブルボンド(ESG債)への投資額は1.6兆円。エンゲージメント型も含めるとGPIFのESG投資運用資産は、運用資産全体と同じ246兆円となる。
累積運用パフォーマンスでは、国内株式は、FTSE Blossom、FTSE Blossom、MSCI ESGセレクトリーダーズ、Morningstar GenDiJで、ベンチマークをアウトパフォーム。MSCI WINとS&P/JPXではアンダーパフォーム。海外株式は、3インデックスでS&P Global CarbonとMSCI ESGユニバーサルでアウトパフォーム。Morningstar GenDiはアンダーパフォーム。ファクターモデル分析でも、ESG要因が大きくプラスに寄与していることがわかった。
(出所)GPIF
GPIFは累積運用パフォーマンスに関し、国内株式ESGパッシブファンドの市場平均に対する累積超過収益額は1,242億円、親指数に対しては643億円と表明。2023年度のESG投資のパフォーマンスが大きく上昇した。「ベンチマーク効果」については、2023年3月からの直近1年間で上昇したと伝えた。「ファンド要因」については、2020年3月にファンドへの資金配分等の影響でマイナスとなったが、その後は取引コスト等の影響で緩やかなマイナス基調となっているとした。
また、外国株式ESGパッシブファンドの市場平均に対する累積超過収益額は462億円、親指数に対しては306億円。「ベンチマーク効果」では、2022年10月以降、上昇基調。「ファンド要因」は、2018年9月の運用開始時点のファンドへの資金配分等の影響でプラスとなったが、その後は取引コスト等の影響で緩やかなマイナス基調。
GPIFは、ポートフォリオのESG評価がリスク調整後のリターンに及ぼす効果については長期的な検証が必要であり、短期的な運用成果に一喜一憂することなく、引き続き長期的な視点かつ多面的な検証を行っていくとした。
投資先企業へのエンゲージメントの成果では、MSCIのESG評価国別ランキングは、日本は1つランクアップし世界3位。FTSEでは2つランクを上げ、世界5位となった。委託先運用会社によるエンゲージメントテーマでは、気候変動が年々上昇し、テーマ別ランキング2位となった。首位は経営戦略・事業戦略。エンゲージメントの効果に関する因果分析では、エンゲージメントの結果、KPIの改善が有意に確認されるものがみられた。
(出所)GPIF
投資先企業の温室効果ガス排出量削減目標の信頼度では、MSCIの「Implied Temperature Rise(ITR)」を用いて評価を実施。1.5℃目標を標榜しながら、実際には2℃目標水準にとどまっている日本企業が16.7%、2℃目標とも整合しない企業が3.6%あることも明らかとなった。外国企業も同様に、1.5℃目標を標榜しながら、実際には2℃目標水準にとどまっている日本企業が20.7%、2℃目標とも整合しない企業が1.7%あった。ITRを用いたGPIFポートフォリオ全体の気温上昇ポテンシャルは、国内株式が2.3℃、外国株式が2.6℃、国内債券が2.2℃、外国債券が2.5℃。
GPIFは、2023年度には、プライベートエクイティの投資先毎のスコープ3含めた温室効果ガス排出量を推定し、プライベートエクイティ・アセットのファイナンスド・エミッションも算出している。
債券投資では、グリーンボンド等のグリーニアムの有無を分析。全分析対象期間の流通市場におけるグリーニアムの平均値はユーロ建てで3.40bps、円建てで0.36bps、米ドル建てで-2.44bpsとなった。発生要因では、ユーロ建て債券と米ドル建て債券では、発行前の第三者認証がある場合、及び資金使途の開示がある場合に、グリーニアムが強く発生。一方、円建て債券では、発行前の第三者認証がある場合は他通貨と同様の傾向が示されたが、資金使途の開示の有無では「開示なし」の場合のほうが高いグリーニアムが確認された。資金使途によるインパクトの多寡ではグリーニアムの発生は現段階ではなかった。
気候変動開示では、GPIFポートフォリオ全体での気温上昇ポテンシャルは、MSCIの分析結果を基に、国内株式2.5℃、国内債券2.5℃、外国株式2.6℃、外国債券2.6℃で、昨年よりは多少改善したものの依然として2℃を大きく上回っており、課題感を示した。内訳では、2℃目標と整合しないポートフォリオ企業が、いずれも3割を超えており、エンゲージメントが必要な企業が多いことがわかる。
自然関連では、リスク管理ツール「ENCORE10」を活用し、株式ポートフォリオにおける依存とインパクトの測定を試行。国内株式ポートフォリオと外国株式ポートフォリオにおける企業への投資ウエイトを生産プロセス別に集計し、ウエイトが高いセクターを特定した。日本株式では、運輸、素材、自動車、資本財、IT通信機器、通信が高い。外国株式では、食品・飲料・たばこ、エネルギー、医薬品・バイオ・ライフサイエンスが高い。今後も情報収集を続ける。
【参照ページ】「2023年度 ESG活動報告」を刊行しました
Sustainable Japanの特長
Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。
- 時価総額上位100社の96%が登録済
- 業界第一人者が編集長
- 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
- 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく
ログインする
※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら