
表現の自由・プライバシー保護推進の国際イニシアチブ「グローバル・ネットワーク・イニシアチブ(GNI)」は10月7日、国連総会に設置されたアドホック委員会で8月に採択された国連サイバー犯罪防止条約草案に対し、反対の意を表明。全ての国連加盟国に対し、同条約を支持しないよう要請した。
サイバー犯罪の防止に関しては、欧州評議会で2001年にサイバー犯罪条約(ブダペスト条約)が採択。現在、日本や米国を含め76カ国が加盟している。同条約は、インターネット等のサイバー空間で行われる犯罪に関する初の国際条約で、特に著作権侵害、コンピュータ関連の詐欺、児童ポルノ、ヘイトクライム、ネットワーク・セキュリティの侵害等を扱っている。サイバー捜査や合法的な傍受等の一連の権限や手続きも含まれている。
今回の国連サイバー犯罪条約は、世界の大半の国が加盟することが期待されている条約で、サイバー犯罪関連で初の普遍的管轄権を持つ国際条約になるとみられている。条約草案では、テクノロジーによって、テロリズム、麻薬取引、人身売買、移民密輸、銃器売買等、犯罪が規模、スピード、範囲を拡大する機会を生み出していると認識し、サイバー犯罪に関する国際的な司法共助、法執行強化、技術支援、キャパシティビルディングを強化する内容が記載されている。
GNIは今回、国連サイバー犯罪条約草案が、ブダペスト条約の内容を大きく逸脱し、人権を著しく軽視した内容になっていると警鐘を鳴らしている。特に、政府によって、人権活動家の域外監視と訴追、インターネット関連企業への嫌がらせ、ユーザーのプライバシーとセキュリティを保護するシステムの強制的な侵害等が可能な構造になっており、修正が必要とした。
GNIが今回指摘している懸念箇所は3つ。まず、適用範囲の過大な設定。国連サイバー犯罪防止条約は、同条約の適用範囲を「ITシステムを利用して行われる」全ての犯罪と規定しており、ブダペスト条約が定める「サイバー犯罪」の枠を大幅に拡大していると指摘。また、ICT企業の刑事責任を追及しやすい内容になっており、現在ICT企業が提供しているあらゆる種類の重要かつ日常的な保管、通信、モデレーションサービスを提供する企業に、巨大な法的リスクをもたらすおそれがあるとした。
2つ目の懸念は権限。国連サイバー犯罪防止条約では、法執行機関が、企業や政府の従業員、請負事業者、サービスプロバイダーを含む可能性のある「あらゆる者」に対し、影響を受ける雇用主や、彼らが本社を置く司法管轄区の政府に知られることなく、機密データ、安全なシステム、ネットワークへのアクセスを記録し、提供するよう要求することを認めていると指摘。ICT企業にデータ提供をいかなる場合でも強制できるようにすべきではないとした。
3つ目の懸念はセーフガードの欠如。ブダペスト条約では、国内法を通じて手続法の保障措置を実施することを国家に義務付けているのに対し、国連サイバー犯罪防止条約では国家の権利として規定されている。同条約草案では、国家間は無期限に秘密協力を認めながら、民間団体には、合法性や個人の権利への影響にかかわらず、国家は命令を発出することができる内容になっており、人権上の懸念が大きいとした。
GNIは今回、国連加盟国に対し、同条約草案の審議を国連総会第3委員会からアドホック委員会に差し戻し、再度草案を修正するよう要請。また、条約が完成した場合にも、署名せずに棄権すべきとした。
【参照ページ】GNI Calls on Member States Not to Support the UN Cybercrime Convention
【参照ページ】United Nations: Member States finalize a new cybercrime convention
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