
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長が率いる2期目の欧州委員会が12月1日に発足。11月27日に実施した欧州議会本会議での施政方針演説では、2024年から2029年までの優先事項と抱負が発表された。
ライエン委員長は、今回の演説の中で、欧州の自由と民主主義のための永遠の闘争と犠牲から話を始め、欧州の暗い過去の体験を踏まえ、自由との戦いを続けていかなければならないと、EUの意義をあらためて伝えた。この点は、ウクライナ戦争でのロシアとの戦いや、極右勢力が台頭する中で、自由の意義を強調したともいえる。その流れで、「欧州議会の民主的な親欧州勢力全てと協力していく」と述べる同時に、自身の中道としての立場を強調した。
また、自由と主権を守るためには、これまで以上に経済力が重要になると伝えた。ライエン欧州委員長は、経済力強化のため、マリオ・ドラギ元欧州中央銀行(ECB)総裁に報告書作成を依頼し、9月に「欧州競争力の未来(通称・ドラギレポート)」を公表。米国と中国に負けない欧州でのイノベーション強化、脱炭素政策と競争力強化政策の融合、安全保障の観点からの特定の国・地域への依存の縮小の3つを処方箋として掲げている。
ライエン委員長は、今回の演説の中で、ドラギレポートの3つの柱を踏襲。イノベーション・ギャップの解消、脱炭素と競争力のための共同計画、経済的安全保障の強化の3つを次期政権での優先事項として掲げた。
イノベーション・ギャップの解消では、中小企業、スタートアップ、スケールアップに焦点を絞った投資を実行。EU加盟国毎ではなくEU全域で事業を成長させやすい環境整備を目指すとした。
脱炭素と競争力のための共同計画では、1期目の欧州グリーンディール政策をさらに推し進め、大企業だけでなく、中小企業、イノベーター、労働者をも機敏に活用していくと宣言。就任後100日以内に欧州委員全員で「クリーン産業ディール」政策を提案すると伝えた。特に自動車業界には特別の関心を示した。さらに12月5日には、欧州委員会の中に初の「欧州農業・食料委員会(EBAF)」も設置している。
経済安全保障の強化では、安定した安全なサプライチェーンの構築が主となる。クリーンな移行に必要な重要鉱物の需要は、政権1期目で2倍に、2期目の終わりには3倍に増えることが予想されることから、域外パートナーシップの構築拡充を急ぐ。
対外関係では、紛争が絶えず、脆弱な世界となった今日に、安全保障の強化がより重要になると指摘。多国間主義とパートナーシップ、持続可能な開発と人道支援 安全保障と人権等、欧州のリーダー役がますます期待される時代になっていると伝えた。対ロシアも意識し、国防費の増額や、EUでの防衛産業の単一市場構築にも言及した。
政策実現に向けた資金では、民間投資に期待。欧州における研究開発のための企業支出は、GDPの約1.3%を占めているが、中国の1.9%、米国の2.4%に劣っており、欧州貯蓄投資連合(European Savings and Investments Union)を組成する政策を掲げた。その上で、複雑化している企業向けサステナビリティ政策の合理化と簡素化も打ち出した。具体的には現状の法体系をみなすためのオムニバス法案の策定を進める。今回明言されていないが、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)等がレビュー対象になるとみられている。
EU域内の人的資本では、必要な人材が不足しているとし、スキル育成を強化。また労働生産性を高めるため、ワークライフバランス 子供のための託児所、高齢者介護、アフォーダブル住宅についても改善していく意志を示した。
【参照ページ】Speech by President von der Leyen at the European Parliament Plenary on the new College of Commissioners and its programme
【参照ページ】The von der Leyen Commission 2024-2029 takes office
【参照ページ】EU competitiveness: Looking ahead
【参照ページ】European Commission launches the European Board on Agriculture and Food
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