
企業の税務情報を巡る開示が、新たな段階に入っている。これまで一定規模以上の多国籍企業グループは、事業を行う国・地域毎の売上、利益、従業員数、有形資産、納税額等を記載した国別報告書(CbCR)を、税務当局へ非公開で提出してきた。これに対し、国別報告書を一般社会にも開示する仕組みが「公開国別報告書(公開CbCR)」だ。
公開CbCRは、制度設計から実際の提出・公表段階へ移りつつある。豪州では、2025年6月30日終了年度を対象とする最初の公開CbCRの提出期限が2026年6月30日に到来した。豪州国税庁(ATO)は、提出された報告書を2026年後半に政府のオープンデータサイトで公表する見通しだ。EUでも、暦年決算企業では原則として2025年度が最初の対象年度となり、2026年末までに報告書を公表する企業が相次ぐ見通しだ。
2026年は、企業の税務方針だけでなく、事業活動と利益・納税の地理的な対応関係が、投資家、NGO、研究機関、従業員、地域社会等から直接比較され始める転換点となる。本稿では、税の透明性をサステナビリティ課題として位置付けた「GRI 207:税」、豪州とEUで制度化された公開CbCR、先行企業の開示を整理し、日本企業に求められる対応を考察する。
国別報告は税務当局向け制度として始まった
国別報告書(CbCR)の出発点は、経済協力開発機構(OECD)の税源浸食・利益移転(BEPS)プロジェクトだ。多国籍企業が、経済活動や雇用等の事業実態が乏しい低税率国に利益を移転し、実質的な税負担を軽減する問題への対応として導入された。
OECDはBEPS行動13で、大規模な多国籍企業グループに対し、事業を行う法域毎の売上、税引前利益、現金納付法人税、発生法人税、資本金、利益剰余金、従業員数、有形資産、主要な事業活動等を報告させる仕組みを整備した。企業が最終親会社等の所在国の税務当局へ提出し、租税条約等に基づく情報交換を通じて、他国の税務当局へ共有する。
日本でも、特定多国籍企業グループの最終親会社等に対し、国別報告事項の提供を求めている。但し、OECD型CbCRは、税務当局が移転価格や利益移転のリスクを評価するための情報であり、原則として一般には公開されない。税務当局は国別数値を確認できる一方、投資家や地域社会等のステークホルダーは、企業の利益と納税が国毎にどう分布しているかを確認できなかった。
GRI 207が税をサステナビリティ開示へ移した
この税務当局向け情報をサステナビリティ開示の領域へ引き込んだのが、サステナビリティ報告の国際基準策定GRIだ。GRIは2019年12月、税に関する項目別スタンダード「GRI 207:税」を公表し、2021年1月から適用を開始した。
GRI 207は、207-1「税務へのアプローチ」、207-2「税務ガバナンス、管理及びリスクマネジメント」、207-3「税務に関するステークホルダーエンゲージメント」、207-4「国別報告」の4項目で構成される。
207-1から207-3では、税務戦略、法令遵守への考え方、経営層による監督、税務リスクの管理、内部通報制度、税務当局や外部ステークホルダーとの関係等の説明を求める。税務方針が、企業の事業戦略やサステナビリティ方針と整合しているかを示す構造だ。
207-4では、企業が連結対象とする全ての税務法域について、所在する法人名、主要な事業活動、従業員数、第三者売上、他法域とのグループ内売上、税引前損益、有形資産、現金納付法人税、発生法人税等の開示を求める。さらに、法定税率を税引前利益に掛けた税額と発生法人税額に差が生じた理由も説明しなければならない。
GRI 207の特徴は、税を単なる法令遵守の問題として扱っていない点にある。法人税は、企業が活動する国の行政、教育、医療、社会保障、インフラ等を支える財源となる。企業自身も、それらの制度、市場、労働力、治安、司法等から便益を受ける。
一方、販売、生産、雇用、設備等が存在する国と、利益を認識し納税する国が大きく異なれば、企業の事業活動と地域社会への財政的貢献との間に乖離が生じる。税の透明性は、納税額の多寡だけで企業を評価するものではない。利益、雇用、資産、納税の地理的な関係を可視化し、税務方針と実際の数値が整合しているかを確認できるようにすることに意味がある。
任意開示では国別数値まで進まなかった
GRI 207を参照する企業は増えているものの、国別数値の公開は限定的だ。GRIが2025年に公表した調査では、世界の大企業1,000社の約4分の1がGRI 207を参照していた。4つの開示項目全てに言及していた71社を分析すると、税務へのアプローチは73%、税務ガバナンスは56%、ステークホルダーエンゲージメントは54%が全部または一部を開示していた。一方、国別報告を含めた企業は22%に留まった。
この結果からも、企業にとって、税務方針や管理体制を文章で説明することと、国別の利益・納税データを公開することの間には大きな壁があることが分かる。国別売上や利益率を競合企業に推測される懸念や、繰越欠損金、一時差異、研究開発税制、事業売却等を考慮せず、低い実効税率が租税回避と単純に解釈されるリスクがあるためだ。
財務会計、税務申告、移転価格、給与、固定資産等のデータを法域毎に集約し、連結財務諸表と整合させる実務負荷も大きい。こうした任意開示の限界に対し、国別数値の公開を法的義務として進めるのが豪州とEUの公開CbCRである。
豪州は政府データベースで国別情報を公開
豪州の公開CbCR制度は、年間グローバル収入10億豪ドル(約1,100億円)以上で、豪州源泉の合算売上高が1,000万豪ドル(約11億円)以上となる一定の多国籍企業グループを対象とする。外国企業も対象となり得るため、豪州で一定規模以上の売上を有する日本企業グループにも影響が及ぶ。対象企業は、報告期間の終了後12カ月以内に豪州国税庁へ報告書を提出する。
制度は2024年7月1日以後に開始する報告期間から適用される。6月決算企業では2025年6月期が最初の対象年度となり、提出期限は2026年6月末となった。12月決算企業では2025年12月期が最初の対象年度となり、提出期限は2026年12月末。日本企業に多い3月決算では、2026年3月期が最初の対象年度となり、提出期限は2027年3月末となる。
豪州制度の特徴は、企業が自社ウェブサイトに掲載するのではなく、豪州国税庁が政府のオープンデータサイト「data.gov.au」で報告書を公表する点にある。報告内容には、税務へのアプローチ、グループ企業の名称、主要事業活動、第三者売上、グループ内売上、税引前利益、現金納付法人税、発生法人税、従業員数、有形資産等が含まれる。
豪州と政府が指定する法域については、原則として法域毎に情報を示さなければならない。その他の法域は集計表示が認められる。政府サイトに同じ形式の報告書が蓄積されることで、企業の経年変化や同業他社との比較、特定法域への利益集中等を分析しやすくなる。
豪州制度では、税務へのアプローチに関する説明について、GRI 207-1との整合が求められている。国別の売上、利益、納税額、従業員数、有形資産等を開示する構造もGRI 207-4と一部共通するが、開示対象法域や報告項目は豪州独自に定められている。
EUでは2026年に公開CbCRが本格化
EUの公開CbCR指令は、直近2会計年度の連結売上高が各年度とも7億5,000万ユーロ(約1,400億円)を超える大規模多国籍企業を主な対象とする。EU域外に最終親会社を持つグループでも、EU域内に一定規模の子会社または支店を持つ場合は対象となり得る。
加盟国は遅くとも2024年6月22日以後開始する会計年度から制度を適用する。暦年決算企業では、原則として2025年1月1日から12月31日までが最初の対象年度となり、2026年12月31日が主要な公表期限となる。
報告書では、EU加盟国毎に売上、税引前利益、法人所得税額、従業員数等を示す。EUが税務上の非協力的法域等として指定する第三国についても法域毎に開示し、その他の第三国は集計表示が認められる。
EU指令は加盟国に対し、商業上機微な情報の開示によって企業の市場地位に重大な不利益が生じる場合、一定の条件の下で一部情報を最長5年間省略することを認める選択肢を設けている。省略を認めるかは加盟国の国内法によって異なるが、認められる場合でも、省略した事実と理由を報告書に記載し、猶予期間後には開示しなければならない。企業秘密への配慮はあるものの、恒久的な非開示を認める制度ではない。
豪州、EU、GRI 207では、対象企業、開示対象法域、報告項目、公表方法が同一ではない。GRI 207-4は原則として全ての税務法域を対象とするため、自主的に完全準拠する場合には、豪州やEUの法的最低要件より広い情報を開示することになる。
先行企業は数値の背景まで説明
公開を法的義務として待つのではなく、国別の利益と納税情報を自主的に公表してきた企業もある。資源世界大手豪BHPは2026年7月、2025年度の国別報告書を公表した。法域毎の第三者売上、グループ内売上、税引前損益、発生法人税、実効税率、現金納付法人税、従業員数、有形資産等を開示。GRI 207と豪州の公開CbCR要件を取り込んだ報告書とし、一部法域では数値を理解するための追加説明も示した。
さらに、第三者売上、税引前損益、現金納付法人税、有形資産について、国別報告書の合計値と監査済み連結財務諸表等の数値を照合し、差額が生じる理由を示している。これにより、国別報告書の集計範囲や数値が、連結財務諸表等とどのように繋がるかを確認できる。
資源開発世界大手英豪リオ・ティントも、税金・ロイヤルティ支払報告書と国別報告書を継続的に公表してきた。2026年3月に公表した2025年版の税金・ロイヤルティ支払報告書によると、2025年に世界で支払った税金とロイヤルティは99億米ドル(約1.6兆円)だった。国別の支払額に加え、税額が前年から変化した背景も説明している。2025年分の国別報告書は2026年後半に公表する予定としている。
資源業界では、政府への支払いに関する法的開示が他業界より早く整備されてきたため、両社の開示を全業界へそのまま適用できるわけではない。それでも、税務方針、国別数値、財務諸表との調整、低税率となった理由を一体で説明する構造は、他業界にも参考となる。
日本企業は制度対応と自主開示を分けて考える必要
EUでは一部加盟国が制度を前倒しで適用し、公開CbCRの収集と評価が始まっている。公正な租税促進NGO英Fair Tax Foundationが2026年1月に公表した分析では、確認した190件の報告書のうち、良好な開示と評価されたものは56%だった。本社国別では、日本企業の報告書の72%と英国企業の報告書の71%が良好な開示と評価され、米国企業は40%、スイス企業は43%だった。
この結果からは、少なくともEU制度への対応では、一定の日本企業が比較的良好な開示を行っていることが見て取れる。一方、海外法令の最低要件に対応することと、GRI 207に基づいて全法域の情報を自主的に公開することは同じではない。
税の透明性は、税務上のレピュテーションリスクに留まらない。投資家にとっては、特定法域の税制優遇への依存、税務調査や制度改正による将来負担、利益認識と事業実態の乖離が、利益の持続性やガバナンスを評価する材料となる。サステナビリティ担当者にとっては、企業が地域社会への貢献を説明する際に、雇用や調達額だけでなく、利益と納税の関係まで整合的に示せるかが論点となる。
日本では、OECDのBEPS行動13に基づく国別報告事項の提出制度が導入されている。そのため、対象となる特定多国籍企業グループは、国別数値を国税庁へ提出し、国税庁は租税条約等に基づいて外国税務当局と共有する。しかし、国別報告事項を政府ウェブサイトで一般公開する制度は設けられていない。
日本企業の対応では、豪州やEUの規制で対象となっている会社について、期限までに報告するだけでなく、日本本社の税務方針や連結財務諸表との整合を確認する必要がある。海外で公開した数値と、日本国内で説明している税務方針に隔たりがあれば、日本の投資家、従業員、取引先等からも説明を求められ得る。
公開前に企業が確認すべき事項
日本企業がまず確認すべきなのは、豪州やEUに所在するどの子会社や支店が制度の対象となり、どの企業が報告書の作成・公表を担うかだ。連結売上高だけでなく、現地法人や支店の規模、会計年度、グループ構造、各国での国内法化の状況によって、対象年度と公表期限が異なる。
対象範囲を確定した後は、当局提出用CbCR、公開CbCR、GRI 207、連結財務諸表で用いる法人、法域、数値項目、集計方法の対応関係を整理する必要がある。同じ売上、利益、納税額であっても、内部取引の消去、共同支配事業、持分法適用会社、組織再編、為替換算等の扱いによって、報告書毎に数値が一致しない場合がある。差異が生じること自体より、差異の理由を社内で把握し、外部へ説明できないことが問題となる。
公開前には、外部の情報利用者が行うと想定される分析を、企業自身でも試行することが有効となる。例えば、法域毎の実効税率や、従業員数・有形資産と利益の対応関係を確認し、事業実態と比べて大きな乖離がある法域を特定する。低税率となった理由が繰越欠損金、税額控除、事業売却等にある場合には、数値と併せて説明できるようにする等だ。
さらに、公開CbCRの数値を、企業が公表している税務方針、サステナビリティ報告書、統合報告書、GRI内容索引等と照合しておくことが望ましい。「事業実態のある地域で適切に納税する」と説明しながら、人員や資産が乏しい法域に利益が集中していれば、方針と数値の整合性が問われる。公開前の準備は、報告様式を埋める作業ではなく、税務方針、事業実態、財務数値を一体として検証するプロセスとなる。
公開後に問われるのは数値の意味
公開CbCRが蓄積されれば、NGO、投資家、研究機関、報道機関等は、法域毎の単純実効税率、従業員一人当たり利益、有形資産に対する利益、低税率国への利益集中度等を算出できる。機械可読形式や政府データベースにより、生成AIを含む分析ツールで、多数の企業を横断比較することも容易になる。
但し、公開された数値だけで租税回避を断定することはできない。繰越欠損金、一時差異、税務調査に伴う追徴・還付、事業売却、研究開発税制、為替変動等により、税引前利益と現金納付法人税額は大きくずれる場合がある。
企業に必要なのは、誤解される可能性を理由に開示を避けることではなく、数値がどのような事業活動と税務上の事情によって生じたかを説明することだ。低い実効税率が繰越欠損金や税額控除によるものであれば、その影響を示す。人員や有形資産が少ない法域に大きな利益がある場合には、知的財産、金融、持株機能等の事業上の役割を説明する必要がある。
開示の信頼性も課題となる。GRIの2025年調査では、GRI 207の開示に外部保証を適用したと説明した企業は約2割に留まった。国別数値が法定開示として広がれば、保証の対象範囲、保証水準、使用した基準を明確にし、非税務専門家にも理解できる形で示す必要性が高まる。
GRI 207は、税務戦略を審査・承認するガバナンス機関または経営層、税務戦略の遵守に責任を負う主体、税務リスクの管理・監視方法、税務ガバナンス及び管理体制の遵守状況を評価する方法等の開示を求めている。EUの公開CbCR指令も、対象企業の管理・経営・監督機関の構成員に対し、国内法上与えられた権限の範囲内で、報告書の作成・公表義務を遵守する共同責任を課している。
実務上は、税務部門だけでなく、国別数値と連結財務諸表との整合を確認する財務・経理部門、GRI 207との対応関係を整理するサステナビリティ部門、投資家や社会への説明を担うIR・広報部門等の連携も必要となる。公開CbCRは、税務申告の延長ではなく、経営層や取締役会等の監督を伴う企業報告の課題となる。
今後の焦点
GRI 207が2019年に提示したのは、税を企業と社会の関係として捉える発想だった。しかし任意基準だけでは、税務方針やガバナンスの説明から、国別の定量開示へ進む企業は限定的だった。豪州とEUの公開CbCRは、この壁を法的義務によって越えようとしている。
日本企業にとって、公開CbCRは豪州法人やEU子会社だけが対応する海外税務規制ではない。海外で国別数値が公表されれば、日本本社の税務方針、連結財務諸表、他地域の事業実態も比較・検証の対象となる。
今後問われるのは、法令通り申告したかだけではない。どこで事業を行い、どこで価値を生み、どこで利益を認識し、どこへ納税したのかを、一貫した数字と言葉で示せるかである。税の透明性は、税務上のコンプライアンス業務から、財務、サステナビリティ、IR、広報、取締役会を横断するレポーティングとガバナンスの課題へ移行している。
【参照ページ】Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting, Action 13 – 2015 Final Report
【参照ページ】First Public CBC reports due 30 June
【参照ページ】Publishing your Public CBC report
【参照ページ】Public country-by-country reporting
【参照ページ】Directive (EU) 2021/2101 as regards disclosure of income tax information by certain undertakings and branches
【参照ページ】多国籍企業情報の報告
【参照ページ】特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供
【参照ページ】GRI 207: Tax 2019
【参照ページ】Tax transparency is on the rise – yet depth of disclosure is often lacking
【参照ページ】Public CBC reporting parent
【参照ページ】Information disclosed based on jurisdiction
【参照ページ】Public CBC report – member entities and approach to tax
【参照ページ】Tax and transparency
【参照ページ】BHP Country-by-Country Report 2025
【参照ページ】Taxes and royalties paid report
【参照ページ】Rio Tinto releases details of $9.9 billion of taxes and royalties paid in 2025
【参照ページ】Research reveals that multinationals are divided on tax transparency, with MNEs from the United States increasingly laggards
【参照ページ】国別報告事項(CbCR)の自動的情報交換等に関する情報
【参照ページ】Key Performance Indicators of responsible corporate tax conduct – and their green and red flags
【参照ページ】Commission Implementing Regulation (EU) 2024/2952 laying down a common template and electronic reporting formats
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菊池尚人
チーフコンサルタント 兼 事業開発室長
2016年新卒から10年コンサルティング業界に従事。2019年より現職。
大手企業・金融機関向けESG戦略・投資アドバイザリーのリードに加え、 サステナビリティ経営に関する研修講師、Sustainable Japan編集も務める。