【インタビュー】ドイツが掲げた2038年までの脱石炭火力 〜石炭委員会では何が議論されたのか〜 2019/02/20 事例を見る

 ドイツ政府の「石炭委員会」が1月26日、2038年までに石炭火力発電所を全廃するという答申をまとめ、政府に提出した。ドイツ政府はすでに2022年までの脱原発を打ち出しており、それに追加する形で脱石炭火力を国家目標に掲げたことにある。世界的に見て、脱原発と脱石炭火力の双方を掲げた主要国はドイツが初。しかも、ドイツは国内に石炭、とりわけ低質の「褐炭」の世界的産地であり、国内にエネルギー資源を抱えながらも、それからの脱却という方針を国全体でまとめた。このような決定は、どのように成し遂げられたのか。

【参考】【ドイツ】政府諮問委員会、2038年までの石炭火力発電全廃を答申。業界団体や労働組合側も合意(2019年1月31日)

 石炭委員会が発足したのは、2018年6月6日。連立与党のキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)、社会民主党(SPD)の合意のもと、連邦政府が設置を決めた。委員には、国会議員、官僚、地方自治体首町、業界団体、労働組合、NGO等、幅広いステークホルダーから任命。その中には、アクティビストで知られる国際環境NGOグリーンピースのドイツ支部CEOの一人、マーティン・カイザー氏も招かれた。グリーンピース・ドイツは、1.5℃目標の観点から、2030年までの脱石炭を主張したが、最終的には2038年で妥結した。

 2019年2月、グリーンピース・ドイツで気候変動・エネルギー・ユニットを率いるトーマス・ブリューワー氏が来日した。彼はもともと、ドイツ銀行で金融アナリストやファンドマネージャーとして15年以上の勤務経験を持つ金融スペシャリスト。その後、ボランティアとしてNGOの活動に関わっているうちに、グリーンピースに転職した。今回の石炭委員会の経緯、議論となった論点、合意にいたったポイントを直接伺った。

石炭委員会が発足した経緯は?

 日本で起きた福島第一原発事故を機に、ドイツは脱原発の機運が高まり、2022年までの脱原発が政府政策として決まりました。しかし、その後原発に替わわって増えていったのが石炭火力で、とりわけ国産の褐炭(二酸化炭素排出量が通常の石炭より多い)を使った褐炭火力発電へのシフトが起きました。そこから約10年弱、気候変動緩和を進めなければいけない中、石炭火力をどうするのかという議論が国中で沸き起こりましたが、結論が出せずにいたんです。

 国際的にパリ協定が採択された後には、ドイツ政府も2015年から2016年にかけて、電力だけでなく、モビリティ(交通・運輸)、農業分野でも委員会が立ち上がり、総合的に気候変動政策を議論しました。こうして策定されたのが「気候アクションプラン2050」です。2030年までに1990年比で二酸化炭素排出量を55%以上削減することも打ち出しました。当然、二酸化炭素排出量が最も大きい電力セクターも大きな削減分野として位置づけられました。

 しかし、それでも脱石炭に向けては意見の対立がありました。ですので、連立与党は2018年に「石炭委員会」を発足し、最終的な決着を試みました。最初の会合が開かれたのは6月26日でした。

それにしてもよく短期間で脱石炭火力をまとましたね

 まず、当時の世論の状況から紹介したいと思います。2017年末から2018年1月にかけ、グリーンピース・ドイツは、サンクトガーレン大学に委託し、石炭火力発電に関する世論調査を行いました。約3,000人を対象に意見を聞いたところ、約70%の国民は、脱石炭はドイツを近代化し、経済成長をもたらすと回答。脱石炭の時期についても(複数回答可)、2025年まで67%で、2040年までの62%よりも支持者が多かった。質問者のうち1,000人は、経済や雇用への影響を受けやすい石炭産業地帯を対象にしているのですが、そこでもやはり脱石炭支持者のほうが多いという結果でした。

 そうした背景もあり、石炭委員会の議論には大きな特徴がありました。委員の間では、最終的なゴールが「脱石炭」であることに異論はなく、「期限をいつにするか」が最初から論点となっていました。グリーンピース・ドイツは、気温上昇を産業革命前から1.5℃未満に抑えるために、極力早く2030年を期限にするよう提言していました。一方、産業界は少しでも期限を先延ばしにしたいと狙っていました。このように、様々な意見を持ったステークホルダーが一堂に介したということに、非常に大きな意味がありました。

 ドイツ政府としても、脱原発に加えて脱石炭火力ということになれば、産業システム全体の変革が求められることになります。脱石炭火力が、ただ単に「良い未来」というような理想を描くだけでなく、国の経済にとってどのようなメリットをもたらすかということにも大きな関心があったように思います。

脱石炭はどのような経済的メリットがあると?

 認識されたのは技術革新です。環境テクノロジーについては、ドイツはもともと世界をリードしている国の一つですので、これを磨くことで国際的な競争力を高めようという話が上がりました。しかしそれだけではありません。運輸分野では、二酸化炭素排出量削減の可能性のあるリニアモーターカーの推進が大きなテーマとなりました。現在のドイツは、リニアモーターカーを作るために海外の部品等を使わなければいけない上に、最終的なコストも高いため、価格面での競争力がありません。しかし、今後、注力して技術革新を行えば、より信頼性高く、かつ低コストなリニアモーターカーが実現できると言うメリットが認識されました。

日本には複数の観点から脱石炭に踏み切れないでいます。まず電気料金が上がるという意見

 電力価格については、答申書にあるこちらの2018年のデータを見てください。ドイツは、EUの中でも再生可能エネルギー割合が比較的高い国ですが、電力価格は、1kWh当たり0.036ユーロ(約4.5円)。EUの中でもブルガリア、オーストリアに続いて3番目に電力価格が低い状況にあります。再生可能エネルギーは高いという固定観念を持っている人はいますが、再生可能エネルギーは過去20年間で大幅にコストが下がり、もう高くはないんです。

再エネは電力供給が不安定になるという懸念もありますね

 その問題については、このドイツ連邦議会のデータを見てください。こちらは、2014年の数字でやや古いんですが、欧州各国の電力供給の安定性を示したものです。具体的には、年間で異常な状態を除き電力供給が遮断された分数を表しているのですが、ドイツは12.28分と非常に短い。原子力の多いフランスでも50.2分あり、ドイツの状況が非常に良いことがわかっていただけると思います。

でも、ドイツは国外から電力輸入できるので安定供給が可能という意見も

 その意見は間違っていると思います。ドイツは確かにフランスやポーランド、デンマーク等と送電線がつながっており輸入できる状態にありますが、それぞれの国で発電量が落ちた際、通常自国を優先しますので、ドイツの事情は後回しになります。日本も同じですよね。各電力大手の送電網はつながってはいますが、他社の発電に電力安定供給を依存できるわけではありません。ヨーロッパは巨大な日本列島のようなものです。送電がつながっているからといって、だから電力供給が安定化できているわけでなく、各国毎になんとかしなくてはなりません。

 むしろ電力の安定供給のためには、マネジメントが鍵となります。ドイツも再生可能エネルギーの普及が始まった当初は、供給が不安定でしたが、年々改善してきたのです。その背景には、過去のデータが蓄積されてきたことで、再生可能エネルギーの発電状況やどのようにグリッド(送配電)をコントロールすべきが見えてきたことで、うまくマネジメントできるようになりました。一方で、設備容量が巨大な原子力発電や石炭火力発電は、一度停止すると非常にグリッド・コントロールが困難になります。

なるほど。では3つ目の懸念は、雇用の問題です

 脱石炭したら、石炭採掘や石炭火力発電に関わっている労働者が失業してしまうという話ですよね。待ってました。私の得意分野です。現在ドイツでは、褐炭分野での従事者が約2万人、ハードコール分野で1.5万人ほどいます。一方で、2000年から始まったドイツのエネルギー革命では、再生可能エネルギーの分野で約34万人の雇用を創出しました。どちらのほうが雇用を創出しているかは一目瞭然です。

 もちろん、褐炭や一般炭に携わっている労働者3.5万人の今後の就業についても考慮に入れています。3.5万人は、全員が炭鉱夫というわけではなく、異業種でも通用するオフィスワーカーやエンジニアもたくさんいます。2019年にはドイツでは約76万人分の求人があるという状況で、数多くの転職機会があり、この職種の方々は転職が可能だと考えられます。一方、炭鉱夫の方については、半数が50歳以上です。脱石炭火力は今後約20年かけて行おうというものですので、実際にはほとんどの方が定年退職を迎えます。もちろん個々人の方に応じた転職支援は重要ではあるのですが、実際にケアが必要な方は3.5万人よりもずっと少ないのです。

いいポイントですね。但し、エネルギー安全保障についてはどうですか?

(注:石炭委員会の発表では、石炭に替わって天然ガスを推進するという内容も入っていた)

 天然ガスはロシアから輸入しますので、もちろんエネルギー安全保障上も重要な論点です。それでも、まず重要な点は、石炭から天然ガスへ火力発電の燃料をシフトするのは、恒久的ではなく、再生可能エネルギーを普及させるまでの暫定対応ということです。再生可能エネルギーは、自然界からドイツにもたらすエネルギーを利用するため、エネルギーの独立性が高いですよね。あくまでその最終ゴールに向かうために、一時的に天然ガスを用いようという考えです。

 では一時的にロシアに頼ることは大丈夫なのかという点では、歴史を振り返ってみましょう。ロシアが天然ガスを政治的に活用した例としてはウクライナに対して実施したものが挙げられます。しかし、過去ドイツに対して天然ガス供給停止を政治的に使ったことはありません。ロシアも天然ガスを輸出しなければ、財源が苦しくなりますので、ドイツに対して行使する可能性は高くないと考えています。

 ドイツはすでに脱原発を決定していますが、原子力発電はエネルギー安全保障が高いという考えも怪しいものです。例えばドイツはかつて電力の30%を原子力発電に頼っていましたが、全ての核燃料を輸入していました。今だって、石炭火力発電のうち、一般炭(ハードコール)については全て輸入しています。輸入に頼る燃料は、貿易摩擦や国際的な経済対立が起きれば不安定になります。日本だって、原油や天然ガスは政情が不安定になりやすい中東に大きく依存しており、政治的リスクを負っていますよね。その点でも、再生可能エネルギーは優れています。

日本には再エネがなくとも、CCS(炭素回収・貯蔵)が全てを解決してくれるという考えもあります

 ドイツでも、CCS推進の動きがありましたが、今はほぼ死にかけています。まず、コストが高くすぎて実用性がありません。仮にコスト面でクリアしたとしても、何かが起こった場合に貯蔵した炭素が漏出する懸念は消せません。漏出してしまえば、せっかく回収して貯蔵した努力が全て水の泡です。貯蔵することで地下水系にどのような影響を与えるかもわかっていません。そのため、ドイツの世論は、CCSには反対が多数派です。

 さらに政治的なプレッシャーもあります。仮にCCSが活用できるからと言って化石燃料をドイツが推進していた場合、再生可能エネルギーを推進している周辺国からすれば、気候変動対策に熱心でないと映り、政治的紛争が起こるでしょう。その上、CCSに今後40年間も頼っていたら、貯蔵庫は満杯になり、貯蔵できなくなります。

 このような観点から、CCSは現実的ではありません。

著者プロフィール

聞き手:夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役CEO

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