機関投資家のイニシアチブは3月12日、気候変動が食肉加工業界にもたらすリスクを予測するツールを発表し、2050年までに世界の気温が2℃上昇した場合、大手企業だけで数十億米ドル(数千億円)規模のリスクが生じると発表した。
同ツールは、機関投資家の畜産業関連イニシアチブ「Farm Animal Investment Risk and Return」(FAIRR)が発表したもの。世界の機関投資家に向けて、食肉加工業者のエンゲージメントおよび財務パフォーマンスの傾向を示すことを目的としたもの。対象となった食肉加工品メーカーは、タイソン・フーズ、メープルリーフフーズ、JBS、BRF、ミネルバ。予測の計算は、気候関連金融開示に関するタスクフォース(TCFD)の推奨に沿ったシナリオ分析と、各企業が2018年に開示した財務データに基づき行われた。FAIRRに参加する機関投資家の運用資産額は、現在20兆米ドル(約2,190兆円)。
気候変動によって食肉加工業者が抱えるリスクは、カーボンプライシング(炭素税)の導入による電力コストの増加、飼料コストの増加、熱ストレスによる家畜の死亡率の増加(それに伴い動物の取引価格の上昇)など7つに分類されている。FAIRRは将来の食肉市場について、近年のビーガン需要の急増を考慮しても2050年には「植物性代替肉」が少なくとも全体の16%をシェアし、また技術の導入、消費者動向、食肉の炭素税によっては最大62%までに上昇する可能性があると予測した。
食肉の中でも特に牛肉産業が大きな打撃を受けるとし、牛肉への依存が高ければ高いほど、代替肉への適応能力が低いという。たとえばカナダ加工肉大手メープルリーフフーズは、牛肉を取り扱っておらず代替肉に投資をしていることから、2050年までにEBITDAを77%上昇させる見込みがあると予測された。一方で、ブラジル牛肉大手JBSなど牛肉を主な事業とする企業は、今時点で気候変動に対応する戦略が明確に立てられておらず、既に大きなリスクに直面していると警告を受けた。
FAIRRが2019年に実施した環境・社会・健康格付「Coller FAIRR Protein Producer Index」に含まれる食品大手43社のうち、現時点で気候関連のシナリオ分析を公開しているのは米タイソン・フーズとブラジルMarfrigのみ(全体の5%)。FAIRRは、石油・ガス、鉱業・公益企業では全体の23%が気候関連のシナリオ分析を実施していると述べ、改めて食肉業界における気候変動への取り組みの遅さを指摘した。
なおシナリオ分析には、2025年には電気と食肉に対して炭素税が導入される想定が考慮されており、実施された場合、2050年までに炭素税が毎年増加するという国際エネルギー機関(IEA)の想定が含まれている。
【参照ページ】NEW FINANCIAL MODELLING ON CLIMATE SHOWS BILLIONS OF DOLLARS AT RISK IN THE MEAT SECTOR
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