米ハーバード大学のジェフリー・スプラン科学史研究フェローらは1月13日、米石油大手エクソンモービルが内部科学者の知見を隠し、ステークホルダーを欺く広報を行っていたとする論文を、科学誌「Science」で発表した。
エクソンモービルに関しては、コロンビア大学ジャーナリズム・スクールのエネルギー・環境報告プロジェクトが2015年から2017年までの調査結果を米紙ロサンゼルス・タイムズと英紙ガーディアンで発表し、同社が1980年代から気候変動のリスクを認識していたと発表。また、2015年には、米科学者団体「憂慮する科学者同盟」もレポートを公表し、アメリカ石油連盟(API)が情報を隠蔽し、社会をミスリードしてきたことを伝えてきた。これらにより、アメリカ石油会社の情報操作やロビー活動に大きな焦点が当たるようになった。
しかし、これまでの調査は、暴露された内部文書のテキスト分析等の定性的な分析に終始しており、今回スプラン氏らは、内部文書に掲載されていた気候モデルや大気中の二酸化炭素濃度の予測モデル等の検証を実施。内部の定量的な科学的理解度を分析対象とした。具体的には、1977年から2003年までのエクソンモービル及び前身のエクソンの科学者が記録した32の文書と、1982年から2014年の間にエクソンモービルの科学者が執筆または共著した72のピアレビュー付き科学論文を分析した。
検証の結果、1970年代後半から1980年代前半にかけて、エクソンモービルは地球温暖化を正しく予測していたことがわかった。確立された統計モデルを用いると、エクソンモービルの科学者が報告した気候予測のうち、63%から83%は将来の地球温暖化を正確に予測していた。エクソンモービルの予測した温暖化の平均値は、10年当たり0.20℃±0.04℃で、1970年から2007年の間に発表された独立学術機関や政府の予測と同程度の予測だった。
さらに、エクソンモービルの科学者たちは、氷河期の到来を否定し、人為的な地球温暖化が2000±5年に初めて検出されると正確に予測していたこともわかった。さらに危険な地球温暖化を引き起こす二酸化炭素濃度の推定も正確だった。
今回の論文では、さらに、エクソンモービルの科学者たちの見解と、実際に同社の広報発表の乖離を分析。すでにエクソンの1988年の内部メモに「温室効果増大の可能性に関する科学的結論の不確実性を強調する」という広報戦略が掲げられていたことが発覚しており、実際に2015年頃まで同社の経営陣は、気候モデルや科学的予測は信頼できないと述べてきている。スプラン氏らは、このことこから、エクソンモービルの科学者は、世界の中でも有数のレベルで精度の高い予測をしていたにもかかわらず、広報や経営陣の段階で「不確実性」が強調されていたことを突き止めた。
座礁資産に関しても、1982年から2005年に発表された同社の5つの研究では、二酸化炭素濃度を550ppm以下に安定させ、気温上昇を2℃に抑えるには、2015年から2100年の間の「炭素収支」を251Gtから716Gtに抑える必要があると結論付けており、座礁資産リスクを正しく認識していたが、このことを投資家、消費者、市民に注意喚起することを怠っていたとした。
エクソンモービルは現在、欺瞞的マーケティング、株主のミスリード、災害被害に対する責任追及等で数多くの訴訟を抱えている。また、バイデン大統領も、2020年の環境正義計画で、気候訴訟で原告側を支援する声明も発表している。今回の論文は、エクソンモービルにとって不利な証拠になりそうだ。
【参照ページ】Assessing ExxonMobil’s global warming projections
【参照ページ】Two-Year Long Investigation: What Exxon Knew About Climate Change
【参照ページ】The Climate Deception Dossiers
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