
EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は7月13日、オンライン上のリスクから子供を保護するため、オンラインサービスの利用に年齢制限を設ける政策を検討する考えを示した。
今回の政策は、EU世論調査「ユーロバロメーター」と、EUが設置した「オンライン上の子どもの安全に関する特別パネル」の答申結果を踏まえたもの。今回のユーロバロメーターは、6月19日から24日にかけてオンラインで実施され、EU加盟27カ国合計で25,904人が回答した。
ユーロバロメーターでは、71%が「サイバーいじめや嫌がらせ」に懸念を表明。他にも、70%が「オンラインでのグルーミングや性的搾取への懸念」、69%が「暴力、自傷行為、過激主義等の有害なコンテンツへの接触」、69%が「子どもの個人データの悪用」、64%が「子どもが違法行為に勧誘されるリスク」、60%が「中毒性のあるプラットフォーム設計にさらされるリスク」を懸念していた。また、若者は現在、1日当たり4時間から6時間をデジタルサービスに費やしており、幼い子供のほぼ60%が、オンライン上で感情的または心理社会的な問題を経験していると伝えた。
政策の方向性では、特定の年齢未満を対象としたSNS利用の全面禁止を36%が支持。利用開始時期を遅らせることの支持まで含めると63%に達した。一方、EUによるさらなる介入なしに、監督を親や学校に委ねることを望んでいる声は13%だった。
「オンライン上の子どもの安全に関する特別パネル」の答申では、「デジタル世界における未成年者の保護とエンパワーメント」の考え方について、「予防原則」に基づき、SNSに加えて、AI、動画共有サービス、ゲーム、アプリストア等のデジタルサービス(同報告書では「ソーシャルメディア+」)に対するサービス提供者の責任を整理している。
まず、同報告書では、「青少年」を13歳から18歳まで、「子供」を13歳未満、「未成年者」を青少年と子供の両方と定義。また「子どもの権利」という用語を、法的文書で定義されている通り、未成年者の権利を指すものとして用いている。また、「オンライン上の子どもの安全」という用語は、未成年者の保護とエンパワーメントの双方を指す言葉として用いられる。
科学的知見としては、身体的・精神的健康への悪影響を整理している。身体面では睡眠不足、運動不足、視力低下、筋骨格系への負担が指摘される他、幼少期には親子の相互作用を阻害する「テクノフェレンス」が言語能力や社会性の発達を妨げる可能性があるとした。精神面では、不安や抑鬱、自尊心の低下、FOMO(取り残されるという不安)、SNS依存等との関連が示された。
また、アルゴリズムによるレコメンデーション機能が過激な情報や誤情報への接触を拡大し、特に精神疾患を抱える子どもや社会的少数者は影響を受けやすいと分析。さらに、AIによるディープフェイクを用いた児童性的虐待画像の生成やオンライン・グルーミング等、新しい犯罪リスクにも強い懸念を示した。
年齢に応じた規制では、まず、3歳未満、3歳から5歳、6歳から9歳、10歳から12歳、13歳から15歳、16歳から18歳までのリスクを整理。一律の規制ではなく発達心理学に基づく「段階的自立モデル」を採用している点が大きな特徴となっている。
- 3歳未満:受動的なオンライン利用者。保護者が幼い子供を「落ち着かせる」ため、あるいは気をそらすために、直接的な関わり合いをスクリーンタイムに置き換えてしまうことに起因することが多い。子供の集中力、言語習得、社会情緒的発達に影響を及ぼす可能性がある。
- 3歳〜5歳:監督下で自立したユーザーとして成長しつつある時期。即座の満足感、反復的な報酬、継続的な外部刺激を最適化して設計されたSNS等のデジタルサービスは、子供の発達途上の能力とは根本的に不適合であり、長期的な発達に悪影響を及ぼす可能性がある。
- 6歳〜9歳:SNS等のデジタルサービス利用が著しく拡大。オンライン世界からの外部からのフィードバック(例えば、「いいね!」、スコア、ランキングなど)は、現実世界での能力の発達に基づく、形成途上の自尊心と交錯する。これにより、パフォーマンスや仲間との比較に対する不安が増幅され、ネットいじめ、ヘイトスピーチ、仲間からの嫌がらせに対する脆弱性が高まる可能性がある。
- 10歳〜12歳:SNS等のデジタル空間へのアクセスは、社会的参加のための中心的な前提条件となる。発達上の感受性とプラットフォームによる影響の増幅が最も鋭く交錯する状況に直面。アルゴリズムによるレコメンデーションシステムは、社会的比較、有害または違法なコンテンツ(児童性的虐待素材、過激派のプロパガンダ、偽情報など)への曝露、鬱や不安の症状を強める中毒性のあるデザインパターンへの曝露を助長する。特に、13歳ではなく12歳で初めてスマートフォンを手に入れることは、1年後にうつ病やその他のメンタルヘルス問題のリスクが高まることに関連している可能性があることが示唆されている。
- 13歳〜15歳:SNS等のデジタルサービス利用において、監督下から自律的な利用へと移行する時期。危害にさらされるリスクをいかに軽減するかが重要となる。SNS等のデジタルサービス規制、教育的介入、自主規制やメディアを批判的に利用する能力の育成支援等の多層的なアプローチが必要。
- 16歳〜18歳:青少年はアイデンティティの確立が進み、自律性が高まる時期。オンライン上で直面するリスクを理解し、対処する能力も高まっている。しかし、神経生物学的発達はまだまだ完了しておらず、SNS等のデジタルサービスの利用によって、依存症、不安、メンタルヘルスの問題といったリスクが増大する。批判的思考や評価能力等の習得が必要。
こうした分析を踏まえ、同答申は、「発達段階に応じた規制「「社会経済状況や性別等のダイバーシティへの配慮」「未成年者保護」「デジタルサービス提供者の説明責任」「保護者や教育者を含めたエンパワーメントと子どもの権利尊重」の6つの基本原則を掲げた。
具体的には、EU域内において、ソーシャルメディア+の提供事業者は、長期的な「文化的変革」を実現するまでの短期的な「予防原則」に基づく措置として、13歳未満の子供へのアクセスを制限すべきと提言。さらにEU全域での制限に加え、EU加盟国は13歳以上の青少年に対しても、さらなる予防的な年齢制限を導入しうるとした。同時に、年齢確認についてはプライバシー保護を最優先とし、生体情報や身分証明書を不要とする「ゼロ知識証明」等の暗号化技術を活用して、年齢だけを証明する仕組みの導入を推奨した。
一方、年齢制限を課しても、規制をすり抜けようとする未成年者が多いことも認識。そのため、年齢制限の有効性についても、社会的意識の変化が必要となるとし、継続的な評価と長期的なモニタリングの重要性を説いた。
また、サービス設計についても、無限スクロール、自動再生、過度な通知、過剰なレコメンド機能等、利用時間を最大化する設計は依存性を高めるため、これらを制限した「Safety by Design(安全を前提とした設計)」を義務化すべきと提言した。
法執行についても、DSA(デジタルサービス法)、一般データ保護規則(GDPR)、AI法等の複数の制度を横断して規制当局が協力する体制を整備すべきと提言。特に児童性的虐待コンテンツについては、現行制度の空白を早急に埋め、サービス提供者に検知・通報・遮断を義務付ける恒久制度を整備する必要性を強調した。また、研究者によるプラットフォームデータへのアクセスを拡充し、政策立案を支える科学的根拠を強化することも重要課題として挙げた。
規制だけでなく、子供の主体性を育てる施策にも重点を置いた。具体的には、子供自身が安全政策の策定や評価に参加する機会を増やすこと、子供向けの苦情申立制度を使いやすくすること、学校教育にデジタル・メディアリテラシーを組み込み、AIやアルゴリズム、偽情報への対応力を育成することを提言。また、スポーツや芸術、地域活動等のオフラインの活動機会を拡充し、スクリーン利用以外の魅力的な選択肢を提供することも重視した。
研究面では、北米のABCD研究のような10年以上にわたる欧州規模の縦断研究を実施し、SNS利用と脳の発達、精神健康との因果関係を明らかにするための長期的資金支援を提言。また、ランダム化比較試験(RCT)を含む実証研究を拡充し、今後の政策が科学的根拠に基づくものとなるよう求めた。
フォン・デア・ライエン欧州委員長の発表では、子供に有害なソーシャルメディア+のカテゴリーを明確に定義した上で、年齢層毎に段階的かつ緩やかな利用制限を検討すると表明した。欧州委員会は今年の秋以降に具体的な政策を示す考え。
【参照ページ】Europeans concerned about child safety online as new report publishes recommendations
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