
G7気候・エネルギー・環境相は4月28日と30日、イタリアのトリノ市で会合を開催。最終日に共同声明を発表した。全35ページ。現時点での合意事項や方向性をまとめた。
共同声明では、例年通り、気候変動、生物多様性、汚染の3つの危機を強調。ネットゼロ、サーキュラー、ネイチャーポジティブ経済への転換を進めることで一致した。昨年と同様、今後10年間が重要であり喫緊の課題と位置づけた。さらに昨年の札幌での共同声明と異なり、インクルージョンとジェンダーの位置づけを上げた。
【参考】【国際】COP28、最終決議採択し閉幕。2030年60%削減やエネルギーでの脱化石燃料で歴史的合意(2023年12月14日)
気候変動
気候変動に関しては、G7として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書(AR6)の最新の知見に鑑み、世界のGHG排出量を2019年比で、 2030年までに約43%、2035年までに約60%削減するための努力に実質的に貢献することを再度確認。2023年の国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で、再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍の11TW以上にすることに全面的にコミットした。また、実現に向けた具体策として、蓄電システム、分散型エネルギー資源、スマートグリッド、デジタル化されたデマンドレスポンス、太陽光発電の自家消費等の導入拡大を列挙し、系統の柔軟性が鍵になるとの方向性で一致した。今回初めて、電力部門における蓄電の世界目標を2030年に1.5TWと現状の6倍にまで引き上げることでも合意した。
さらに、COP28の成果を踏まえ、世界の省エネ目標を2030年までに年率2倍の4%にすることを確認。クリーンエネルギー移行における電化の役割を強調し、全ての国に対し、エネルギー効率に関する野心的な目標と具体的な行動を、次回の国別削減目標(NDC)と国家エネルギー移行計画に反映させることを促した。具体策として、ヒートポンプ、需要側管理、デジタル化のような既存の新技術への導入促進や、冷暖房、冷凍、照明、モーター等の家電製品の省エネ基準の強化を加速を挙げた。既存の建物のゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)やほぼZEB(nZEB)に転換することも重要とした。これらは今年追加された内容となった。
石炭火力発電では、「先進国では2030年代までに、その他すべての地域では2040年までに、削減努力のない(Unabated)石炭火力発電所の廃止が必要であり、削減努力のない(Unabated)石炭火力発電所を新設すべきではない」とした国際エネルギー機関(IEA)の分析に初めて言及した。その上で「1.5℃の気温上昇を維持するために、具体的かつタイムリーなステップを優先し、削減努力のない(Unabated)石炭火力発電の段階的廃止を加速させる必要がある」「2023年のG7首脳声明に沿い、他の国々とパートナーに対し、可能な限り早期に削減努力のない(Unabated)石炭火力発電所の新設許可と建設を終了するよう、我々と共に呼びかけることを再度表明する」との考えでも一致した。さらに、IEAに対し、世界的な石炭火力発電の段階的廃止に向けた行動と、削減努力のない(Unabated)石炭火力発電所の新たな建設禁止に関するより広範な国際的進展について、2025年に報告するよう求めることでも一致した。民間金融機関に対しても、削減努力のない(Unabated)石炭火力発電新設への支援を終了するために、政府との協力を継続するよう求めた。このように全て「削減努力のない(Unabated)」という前置きが置かれ、日本政府が強く主張したことがうかがえる。
電力全体では、「2035年までに電力セクターの完全な脱炭素化もしくは大半の脱炭素化を達成」という昨年の文言を踏襲。さらに、COP28の成果となったエネルギー全体での「化石燃料からの脱却(Transitioning Away from fossil fuels)」も初めて盛り込んだ。それに向け、今後10年間、公正で、秩序ある、衡平な方法で、アクションを加速させるとした。見通しでは、「現在の政策設定に基づくと、全ての化石燃料の需要は2030年以前にピークに達すると予想されるというIEAの分析を歓迎するが、2030年までに25%以上、ネットゼロ・シナリオでは2050年に80%の化石燃料需要の削減が必要であることに留意する」と表現。G7としてのコミットメントを避け、一部の国が具体的な期限や目標の設定に反対したことがうかがえる。全体的に、COP28と同様、「Transitioning Away from fossil fuels」が何を意味しているかを曖昧にする玉虫色の合意となった。
天然ガスに関しては、ロシア依存の脱却という例外的な状況において、ガス供給の拡大に公的支援を投資することは、一時的な対応として適切とした。反面、排出係数が小さい低炭素燃料という理由で天然ガス開発に資金を投ずることは認められないという含みをもたせた。
原子力発電では、初めて「核融合」が盛り込まれ、開発と実証を加速させるための国際協力の推進、核融合エネルギーに関するG7作業部会の設立で合意した。
メタンに関しては、「2030年までに石油・ガス事業のメタン原単位排出量を削減することを含め、化石燃料からの世界的なメタン排出の75%削減」という長期ゴールと、「2035年までにメタン排出量を35%以上削減」という中期目標を初めて設定した。廃棄物セクターから排出されるメタンガスも2030年までに30%から35%削減することでも合意した。
自動車に関しては、昨年盛り込まれていた「2035年までまたは2035年以降に小型車(LDVs)の新車販売の100%もしくは大宗をゼロエミッション車(ZEV)にすることや2035年までに乗用車の新車販売の100%を電動車とする」という文言を削除。「2030年までに道路部門を高度に脱炭素化し、2050年までに道路部門でネットゼロ排出量を達成する」という総論目標となった。一方、「IEAに対し、2050年までに道路部門でネットゼロ排出を達成する小型車、中型車、大型車の様々な技術オプションに関するライフサイクルアセスメント分析を含む、この目標の達成に向けたより詳細な分析を提供するよう求める」とし、今後の各論目標の設定への意欲も見せた。同時に、G7諸国でのEV充電インフラの総設備容量と地理的範囲を2023年比で2030年までに大幅に拡大するとし、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を普及させていく方向性では合意した。
化石燃料補助金に関しては、昨年と同様「非効率な化石燃料補助金をフェーズアウト」させることを再度確認。その上で今回は、非効率な化石燃料補助金の共通の定義を策定することを掲げ、経済協力開発機構(OECD)やIEA等に定義策定に協力するよう求めた。
国際海運では、排出量がゼロもしくはゼロに近い技術、燃料、エネルギー源が、2030年までに国際海運が使用するエネルギーの少なくとも5%、できれば10%を占めるようしていくことを掲げた。
重要鉱物サプライチェーンでは、昨年と同様高いESG基準を実現することを掲げつつ、重要鉱物の採掘と加工に対する「自然に配慮した(nature-forward)」アプローチを推進することを初めて盛り込んだ。リサイクルに関しても、「リサイクル可能性と耐久性を保証する製品を開発し、エコデザイン、デジタル製品パスポートを含むトレーサビリティ・メカニズム、AI主導の実験計画とデータ分析の開発等の措置や手段に基づき、重要鉱物、重要原材料(CRM)、及び重要鉱物やCRMを含む製品のバリューチェーン全体にわたってイノベーションとデジタル化を活用することによって、持続可能なバリューチェーンの競争力、需要の削減、クリーンエネルギー技術における重要鉱物やCRMの代替を促進する」とし、EUの政策を彷彿とさせる各論の内容が入った。さらに、バリューチェーン全体にわたる持続可能な重要鉱物プロジェクトに、年金基金、投資銀行、開発銀行を含む民間金融セクターが資金を動員していくことを奨励した。
気候変動適応では、「保証、株式、譲許的借入、市場金利借入、債券、内部予算配分、家計における貯蓄や保険等」でイノベーションを期待し、利用可能なあらゆる金融手段の適切な展開を模索していくという手段に初めて言及した。民間資本を動員するための環境整備、インフラや投資の意思決定において気候リスクをより適切に管理するための環境整備、災害リスクファイナンスや早期対策・準備のための市場創出も進めていくことで一致した。
生物多様性・汚染
サーキュラーエコノミー化を重点的に進める分野では、重要鉱物や重要原材料、繊維・アパレルを例示。具体的な共同行動が必要とされる影響力の大きいバリューチェーンやセクターに努力を集中することで一致した。アパレルでは、2024年末までに、政府、企業、関係者等で、バリューチェーン全体を通じたサーキュラーエコノミー化を促進するための具体的措置を特定していく。
需要鉱物・重要原材料側では、鉱山から最終製品までのバリューチェーン全体にわたって、重要な鉱物や原材料を特定し、廃棄物から分離し、最大限に回収することができるリサイクルシステムと革新的な技術の開発と向上を推進していく。またリサイクル施設に関しても高いESG基準を求めていく。
製品設計の改善、拡大生産者責任制度の推進、循環型ビジネスモデルの支援、製品の持続可能なライフサイクルの枠組みの設定、グリーンウォッシングへの取り組み等にも言及した。
汚染では、初めて、パーフルオロアルキル物質やポリフルオロアルキル物質(PFAS)に言及し、汚染をさらに積極的に防止し、実行不可能な場合は関連リスクを最小化していくことを確認した。
森林保全・再生に関しては、2030年までに森林減少および森林劣化を阻止し、再生に転ずることを確認。森林の保全、森林およびその他の森林地の持続可能な管理、持続可能な木材利用、生態系による財・サービスの持続可能な提供を含む森林の健全性の改善、劣化した森林の回復を推進、入手可能な最善の科学と生態系の再生に焦点を当てていく。
また、議長国イタリアの提案で、「持続可能な土地利用に関する自主的ハブ」を設置することも決定。土地劣化の中立化(LDN)、森林減少や森林喪失、森林劣化の停止と再生を目指した革新的なプログラムの実施を自主的に支援することを目的とし、持続可能な生計、食料安全保障の強化、土地に基づく雇用と生活機会の促進に焦点を当て、特に、アフリカの土地の劣化に苦しむグループやコミュニティに配慮するした運営を行っていく。
同じく、議長国イタリアの提案で、「G7水連合」を設立することも決定した。世界的な水の危機に対処するために、共通の目標と戦略を定め、共通の野心と優先事項を喚起し、マルチセクター・アプローチの役割を強調していく。さらに、必要に応じて関連する専門家と協力し、2025年の活動について関連するG7の作業部会に報告していく。
同じく、議長国イタリアの提案で、「持続可能でレジリエントでサーキュラーで再生可能なコーヒーバリューチェーンのための官民パートナーシップ・イニシアチブ」の設立も決まった。G7諸国が任意で参加できるもので、国連食糧農業機関(FAO)、国連開発計画(UNDP)、国連工業開発機関(UNIDO)、国際コーヒー機関(ICO)、コーヒー官民タスクフォース(CPPTF)等も協力していく。
人工衛星等の地球環境観測技術への投資拡大も初めて盛り込んだ。
【参照ページ】Climate, Energy and Environment Ministers’ Meeting Communiqué
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