
米ドナルド・トランプ大統領は1月20日、複数の大統領令の署名した。同時に全バイデン大統領が署名した大量の大統領令を無効とする大統領令にも署名した。
【参考】【アメリカ】トランプ大統領、就任演説。主に7分野で政策変更。大量の大統領令に署名へ(2025年1月21日)
米国では、米国大統領から各連邦政府機関への指示を行政命令と、大統領権限の履行による決定を大統領令で行うことが多い。今回、前バイデン大統領が、新型コロナウイルス・パンデミック対策、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)、労働安全衛生、移民対策、メディケイドおよび医療保険制度改革法の強化、公衆衛生・環境保全・気候危機への取り組みのための科学復興、AIの安全・確実・信頼性の高い開発及び利用等を目的とし発行した大統領令を指定し、無効とした。
世界保健機関(WHO)脱退
世界保健機関(WHO)脱退の大統領令に署名した。トランプ大統領は1期目の2020年7月6日にもWHOからの脱退を通告しており、その後バイデン政権が脱退を撤回。今回、国務長官に対し、再度の脱退通知を国連事務総長に即時提出するよう命じた。それに伴い、WHOへの資金拠出や支援を全て停止し、WHOに出向している連邦政府職員も復職させる。
脱退の理由としては、「米国は、中国・武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックやその他の世界的な健康危機への対応の不手際、緊急に必要な改革の不採用、WHO加盟国の不適切な政治的影響力からの独立性の欠如」を挙げた。
パリ協定脱退
パリ協定脱退の大統領令に署名した。米国連大使に対し、国連事務総長に脱退通知を即時通知するよう命じた。気候変動枠組条約には加盟を継続するが、同条約下で締結されたあらゆる合意、協定、協約、コミットメントから離脱。すでに表明している資金拠出も停止し破棄する。米国国際気候金融計画も即刻廃止。
同大統領令では、米国連邦政府は「環境保護に向けた世界的な取り組みにおいて指導的役割を果たしながら、経済を発展させ、自国民の雇用を維持しなければならない」としつつ、「近年、米国は、米国の価値観や経済および環境目標の追求に対する米国の貢献を反映していない国際協定やイニシアティブへの参加を表明している」と脱退理由を説明している。
エネルギー・資源政策転換
大統領令では、連邦政府の土地・水域(大陸棚を含む)におけるエネルギーの探査・生産を奨励。エネルギー長官に対し、液化天然ガス輸出プロジェクト承認申請の審査をできる限り迅速に再開するよう命じた。レアアース類を含む非燃料鉱物の主要な生産国及び加工国としての地位も確立する。
加えて、大統領令では、アラスカ州内の連邦および州の土地にある天然ガス等の天然資源の開発と生産を効率的かつ効果的に最大限にすることと、州内の液化天然ガス(LNG)を活用するためのパイプライン及び輸出インフラの許認可等を迅速に進めることを命じた。前バイデン政権が発令したアラスカ州北極圏野生生物保護区内のリース取消を全て撤回し、再度リースできるようにした。
また、国内エネルギー資源の開発を妨げる可能性のあるすべての政府機関の行動の即時見直し、国内エネルギー資源(特に石油、天然ガス、石炭、水力、バイオ燃料、重要鉱物、原子力エネルギー資源)の特定、開発、利用に過度な負担を課す政策を特定し、各連邦政府機関の長は、当該政策を一時停止、修正、撤回するよう命じた。
さらに、全ての連邦政府機関に対し、インフレ抑制法(IRA)とインフラ投資雇用法により計上された予算の支出を直ちに一時停止することを命令。同時に、全ての連邦政府機関の長に対し、90日以内に調査結果の詳細を記した報告書を提出することも命じた。同法上で規定されている内容を変更するには、連邦法改正が必要となるため、今後、内容を吟味する考えといえる。
国家エネルギー非常事態を宣言する大統領令では、連邦政府機関の長に対し、連邦政府所有地を含めた国内のエネルギー資源の特定、リース、立地、生産、輸送、精製、発電を促進するために、自らが利用可能なあらゆる合法的な緊急権限(連邦政府の土地収用権限や国防生産法を含む)、および自らが保有するその他のあらゆる合法的な権限を特定し、行使するよう命じた。
ここでの「エネルギー資源」には、原油、天然ガス、リースコンデンセート、天然ガス液、精製石油製品、ウラン、石炭、バイオ燃料、地熱、水の物理的動力(水力発電や潮力発電等)、重要鉱物と定義している。トランプ大統領は、景観を損なうという理由で風力発電建設に対する連邦政府の土地・水域のリースを禁止するとも表明しており忌避していることがうかがえる。実際に大統領令では、大陸棚法第2項で定義された米国大陸棚外縁(OCS)での洋上風力発電開発リース契約を撤回した。この撤回は2025年1月21日より発効し、この大統領覚書が取り消されるまで有効である。一方、重要鉱物による化学反応で発電している太陽光発電については否定的な宣言は出されていない。海洋の石油・ガス開発と、既存の洋上風力発電については、環境影響評価(環境アセスメント)を厳しく適用することも大統領令で指示している。
さらに国家エネルギー非常事態宣言では、環境保護庁長官に対し、エネルギー長官と協議し、同意を得た上で、一時的に予測される全米でのガソリン供給不足に対処するため、E15ガソリンの通年販売を認める緊急燃料免除の発効を検討することも命じた。
自動車政策
大統領令では、「電気自動車(EV)義務」を廃止し、自動車へのアクセスに関する規制障壁を撤廃し、車両選択における消費者選択のための公平な規制環境を確保することを掲げた。さらに、必要に応じて、 ガソリン自動車の販売を制限する機能を持つ州の排ガス規制に対して米環境保護庁(EPA)が発出している免除を適宜廃止することや、EVを他の技術よりも優遇し、個人、民間企業、政府機関による購入を事実上義務付けるような、不公平な補助金等を排除することも検討するよう指示した。
TikTok
大統領令では、1月19日までに事業売却もしくは事業停止を義務化していたPAFACA法に関しては、司法長官に対し、同日から75日間、同法を施行するためのいかなる措置も講じないよう指示した。これによって同法は施行されているが、違法状態でも罰せられない形となった。さらに念入りに、同法に基づく州政府もしくは企業の自主的な措置も行政権の侵害にあたると記述し、TikTokの営業を妨げる行為も封じた。
PAFACA法は、連邦議会が認めれば最大90日間同法の施行を延期できるとしているが、同法がすでに施行されているため、法的処置ではなく、行政により処罰不行使によって75日間時間を稼ぐ。大統領令では、TikTokを保護しながら、国家安全保障を保護する解決策を追求すると言及。すでに一部報道では、米国企業が株式の半数を取得する合弁会社の設立が検討されている模様で、出資企業にはXも想定されているという。
移民
まず、国家緊急事態法に基づき、南部国境における国家非常事態を宣言。国防長官または該当する軍事部門の長は、適用法に準拠し、適切と判断される場合、米国南側の国境の完全な運用管理を支援するために、即応予備役及び州兵を含む国防総省の部隊または隊員を、国防長官が適切と判断する数だけ配置するよう命じた。さらに国防長官と国土安全保障長官に対し物理的障壁(「壁」とみられる)の建設も命じた。
さらに大統領令では、国防長官に対しては、10日以内に、不法な大量移民、麻薬取引、人身密輸、人身売買、その他の犯罪行為を含む侵攻形態を阻止し、国境を封鎖し、米国の主権、領土保全、および安全を維持する任務を、米国北方軍(USNORTHCOM)に割り当てる統合司令部計画の改訂版を大統領に提出するよう命じた。国防長官と国土安全保障長官に対し、十分な職員を配備するためのあらゆる適切かつ合法的な措置を講じることも命じた。
また移民国籍法に基づき、特定の麻薬カルテル等を外国テロ組織として指定するプロセスを新設。とりわけ、トレン・デ・アラグア(TdA)とラ・マラ・サルバトルチャ(MS-13)の両団体を名指しし、脅威に対処するために、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく国家非常事態を宣言した。国務長官に対し、14日以内に麻薬カルテル等を「特別指定グローバル・テロリスト」として指定し、外国人敵対者法の適用準備も進めるよう命じた。
南部国境で捕縛された移民については、「キャッチ・アンド・リリース」として知られる慣行の廃止し、強制送還を徹底。カテゴリー別一時入国プログラム「キューバ人、ハイチ人、ニカラグア人、ベネズエラ人の手続」も終了。「CBP One」制度を活用した米国入国許可運用も廃止。さらに、米国の権限で拘束されている全ての外国人に対して、2005年DNA指紋法の施行を徹底。米国における人身密輸、人身売買、児童売買、性的人身売買に関する犯罪の捜査及び起訴を含め、米国の国境に関連する犯罪の起訴を優先させるために、あらゆる適切な措置を講じることも司法長官と国土安全保障長官に命じた。
米国難民受け入れプログラム(USRAP)も一時停止し、1月27日から適用を開始。それに伴い、国土安全保障長官に対し、難民認定申請に関する決定を保留することも命じたが、国務長官と国土安全保障長官は裁量により難民認定することは認めた。その上で、国土安全保障長官に対し、90日以内にUSRAPの再開の是非に関する報告書を提出するよう命じた。報告書の提出は、トランプ大統領が再開判断するまで、90日毎に継続されることになる。
国内にいる不法入国移民及び強制退去対象の外国人に対しては、移民法を徹底して適用する大統領令にも署名。関連の政府機関の長に対し、民事上の執行と刑事上の執行の双方で、あらゆる適切な措置を講ずるよう命じた。さらに司法長官と国土安全保障長官に対し、移民が関与する犯罪に重点的に対処するため、全米のすべての州に国土安全保障対策本部(HSTF)を合同で設置することも命じた。移民の不法滞在を幇助するものへの罰金や罰則も徹底して科す。不法移民がいかなる公的給付の受給をできないようにすることも命じた。
さらに司法長官と国土安全保障長官に対し、連邦法執行業務の適法な遂行を妨害しようとする「サンクチュアリ」法域が連邦資金へのアクセスを受けないことを確保するために、法律上可能な最大限の範囲で、あらゆる適法な措置を評価し、実施することも命じた。必要と判断したその他の合法的な措置(刑事上または民事上の措置)を評価し、実施することも命じた。
不法入国でなくとも、米国への入国を求める全ての外国人、またはすでに米国に滞在している全ての外国人に対し、可能な限り最大限の審査と選別を行うために利用できる全ての手段を特定することを国務長官に指示。特に、特に特定された安全保障上のリスクを持つ地域または国家から来る外国人を最大限可能な範囲で審査・選別することも命じた。
関税・税制
大統領令「米国第一通商政策」では、米国通商代表部(USTR)に対し、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に関し2026年7月に行うことになっているレビューに向けたプロセスの開始を指示。またトランプ大統領は口頭で、2月1日からメキシコと米国に対し、25%の関税をかける考えも明らかにした。
中国に対しては、USTRに対し、米中経済貿易協定を中国が遵守しているかを評価し、必要に応じて関税の賦課等の措置を講ずるよう指示。中国国民に付与された特許、著作権、商標等の米国の知的財産権の状況も評価することを商務長官に命じた。中国に対する関税率についてはまだ言及がなく、今後の交渉材料としていく模様。
また商務長官と国土安全保障長官に対しては、カナダ、メキシコ、中国、およびその他の関連する管轄区域からの不法移民およびフェンタニルの流入を評価し、その非常事態を解決するための適切な貿易および国家安全保障措置を勧告する命じた。
経済協力開発機構(OECD)で合意に達した「グローバル・タックス・ディール」に関しては、米国の足枷になる可能性があるとし、米国内では効力を持たないことをOECD事務局に通知するよう財務長官と米国のOECD常駐代表に命じた。外国政府による課税の域外適用に関しても、60日以内に調査し報告するよう財務長官に命じた。
言論の自由
大統領令では、前バイデン政権が、 「誤情報」「偽情報」「悪意ある情報」に対抗するという名目で、国民の議論の重要な問題について政府が望ましいと考えるストーリーを推進する形で、合衆国全土のアメリカ市民の憲法で保護された言論の自由を侵害したと指摘。連邦政府機関に対し、言論の検閲を禁止した。さらに司法長官に対し、あるべき姿を提言することも命じた。
出生地主義
米国の特色でもあった出生地主義(米国内で出産された個人は自動的に米国籍を取得できる)については、合衆国憲法修正第14条が規定する「合衆国内で出生し、その司法権の管轄下にある者」という条文に基づき、誰もが出生時に米国籍を取得できるわけではないと解釈を変更。「米国籍が取得できないケースとして、母親が不法に米国に滞在しており、かつ、出生時に父親が米国市民または米国永住者ではなかった場合」、及び「出生時に母親が米国に滞在していたことは合法的だが、一時的な滞在であった場合(例えば、ビザ免除プログラムによる渡米、学生ビザ、就労ビザ、観光ビザによる渡米等)、かつ、出生時に父親が米国市民または米国永住者ではなかった場合」には、米国籍は付与されないとした。
死刑の執行再開
大統領令では、司法長官に対し、死刑を適用すべき重大な犯罪については、すべて死刑を適用するよう命令。特に、法執行官の殺人と、米国に不法滞在する外国人による重大犯罪に対しては死刑を適用するよう命じた。前バイデン大統領が死刑から減刑した37人に対しても、再度調査し、再び起訴できるか田舎を検討する。
政府効率化省
大統領令では、政府効率化省(DOGE)を新設することも発表。既存の米国デジタルサービス(USDS)を改称し、新設準備室として「米国DOGEサービス(USDS)」に再編成するとともに、大統領府内にUSDS長官が統括する「米国DOGEサービス臨時組織」も設立する。USDSは、全ての連邦政府機関の非機密の記録、ソフトウェアシステム、ITシステムにアクセスできるようになる。その上で、政府全体のソフトウェア、ネットワークインフラ、情報技術(IT)システムの質と効率性を改善するためのソフトウェア近代化イニシアティブを開始する。
DEI
大統領令では、行政管理予算局(OMB)長官に対し、連邦政府機関内でのダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)及び「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・アクセシビリティ(DEIA)」の義務、政策、プログラム、優先事項、活動を、差別的なプログラムの終了に向けて見直しを指示。また、全てのDEI、DEIA、「環境正義」の事務所および役職、「公平性(エクイティ)行動計画」、「公平性」行動、イニシアチブまたはプログラム、「公平性関連」の助成金または契約を廃止するとともに、全ての職員、請負業者、助成金受給者に適用してきた全てのDEIまたはDEIAパフォーマンス要件も廃止した。
保健福祉長官に対しては、女性は生物学的に男性とは異なることを認識し、30日以内に、性別に関する明確な指針を、米国政府、外部パートナー、一般市民に発出するよう命じた。これにより、法令または指針の解釈または適用、およびその他のすべての公式な機関業務、文書、通信において、「Gender」という単語を用いることを禁止し、「Sex」「Male」「Female」「Men」「Women」「Boys」「Girls」という用語を用いるよう指示した。同大統領では、生物学的な性のカテゴリーを自己評価による性自認という常に変化する概念に置き換える考え方を「ジェンダー・イデオロギー」と呼称し、連邦資金をジェンダー・イデオロギーの推進のために使用することも禁止した。最終的に同内容を法制化する考え。
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