
日本政府は4月21日、第4回「循環経済(サーキュラーエコノミー)に関する関係閣僚会議」を開催し、「循環経済行動計画」を取りまとめた。プラスチックに加えて、重要鉱物や金属資源の再生素材供給に関する定量目標も設定した。
今回の計画は、政府が国家戦略として推進するサーキュラーエコノミー政策の具体化であり、従来の廃棄物削減やリサイクル推進の枠を超え、重要鉱物、金属資源、プラスチック等の再生資源を国内外で確保し、産業競争力、経済安全保障、地域活性化に繋げる内容となっている。
今回特に重要なのは、日本政府がサーキュラーエコノミーを「環境政策」から「成長戦略」に格上げした点だ。これまで主に廃棄物削減、3R、プラスチック削減、リサイクル率向上の文脈で理解されてきた日本のサーキュラーエコノミー政策を大きく更新。企業に対し、再生資源をどう確保し、どう使い、どう顧客価値に転換するかといった問いを突き付ける政策転換点となる。
再生資源の獲得競争が国際的に激化
この背景には、重要鉱物、レアアース、非鉄金属、鉄スクラップ、再生プラスチック等を巡る国際的な獲得競争がある。これらの資源は従来、天然資源の採掘・精製を通じて調達されてきたが、資源国の偏在、地政学リスク、輸出規制、鉱山開発に伴う環境・人権リスク、価格変動等により、調達リスクの高さが浮き彫りになってきた。また、使用済み製品やスクラップ、廃棄物等はこれまで、国内で十分に高付加価値な再資源化に繋げられず、海外流出や低効率な利用に回るケースも少なくなかった。
しかし、電動車、バッテリー、半導体、再生可能エネルギー関連設備等の需要拡大により、使用済み製品やスクラップに含まれる資源の重要性が高まっている。木原官房長官は同会議で、世界が天然資源だけでなく再生資源の獲得競争の時代に入っていると指摘した。
天然資源の多くを海外に依存している日本では尚更、国内で発生する使用済み製品や産業系スクラップから、鉄、アルミニウム、銅、レアアース、プラスチック等を高品質に回収・再生することが、資源価格の変動、輸出規制、地政学リスク、サプライチェーン寸断への耐性を高める経済安全保障上の施策となる。
そのため今回の行動計画では、再生資源を産業インフラとして位置付け、官民投資の促進を通じ、サーキュラーエコノミーへの移行加速を経済成長に繋げていく考えを示した。
循環経済行動計画の構成
循環経済行動計画は、大きく5つの柱で構成される。
- 再生資源サプライチェーンの強靱化
- 日本をハブとする国際資源循環ネットワークの構築
- 地域循環資源の徹底活用による地域活性化
- 資源循環分野の国際ルールの形成
- 循環経済の国民運動化
取り扱う範囲は、廃棄物処理、リサイクル、プラスチック資源循環に留まらない。資源確保、産業投資、製造業の競争力強化、国際ルール形成、通商、経済安全保障、地方創生、消費者行動、公共調達等を有機的に組み合わせた。
2030年までに官民で約1兆円投資
まず再生資源サプライチェーンの強靱化では、再資源化拠点等の構築・ネットワーク形成に向け、2030年までに官民で約1兆円の投資を目指す方針が示された。これは、国内に再生資源の供給基盤を整備するため、リサイクル施設、高度選別設備、精錬・再資源化設備、物流ネットワーク、技術開発、データ連携等への投資を進めるものとみられる。
従来のリサイクル政策では、廃棄物処理事業者や自治体が中心となり、回収・処理・再資源化を進めてきた。一方、製造業側は、再生材を使う場合でも、品質や供給安定性の制約から限定的な利用に留まるケースが多かった。そのため、サーキュラーエコノミーを産業政策として実装するには、回収、選別、破砕、解体、精錬、再原料化、品質保証、物流、データ連携、需要創出までを一体で整備する必要がある。ここで重要になるのが、いわゆる「動静脈連携」だ。
動脈産業は、素材、部品、製品を生産・流通させる製造業側の産業群を指す。一方、静脈産業は、使用済み製品や廃棄物を回収・処理・再資源化する産業群を指す。サーキュラーエコノミーは、両者を分断したままでは成り立たない。製造業側が再生材を使いやすい設計、品質基準、調達契約を整備し、リサイクル側が安定的に高品質な再生材を供給する必要がある。また政府には、両者を繋ぐ役割として、認定制度、補助金、公共調達、規制改革、データ基盤等を組み合わせ、再生資源サプライチェーンの整備を後押しすることが求められる。
行動計画は、この動静脈連携を制度面から後押しする。再資源化事業等高度化法に基づく「製造業への再生材供給等に係る事業認定」を進める方針が示されており、個別企業の自主努力に委ねるのではなく、政府が事業認定を通じ、製造業と資源循環産業が連携した再生資源サプライチェーンの形成を促す方向性が示された。
メタルリサイクルは資源安全保障の中核
特に具体性が高いのが、金属資源の再生材供給目標だ。鉄、アルミニウム、銅、永久磁石を重点対象に位置付け、2030年に向けた供給目標を設定した。サーキュラーエコノミーというと、一般にはプラスチック削減や容器包装リサイクルが想起されやすいが、今回の行動計画では、金属資源の確保の色彩が強い。
鉄では、高品位鉄スクラップを追加的に年間約200万t確保することを目安として掲げた。鉄スクラップは従来からリサイクルが進んできた素材だが、脱炭素化に向けて鉄鋼業界での電炉活用が進む中、高品質な鋼材を製造するには、高品位鉄スクラップの安定確保が必須となる。特に自動車用鋼板、電磁鋼板、特殊鋼等、高級鋼用途では、スクラップに銅等の不純物が混入すると利用が難しくなるため、不純物管理や選別高度化が重要だ。
アルミニウムでは、展伸材の再生アルミ原料比率を約4割に引き上げる目安が示された。アルミニウムは、軽量化による自動車、航空機、建材、包装材等での需要が大きく、リサイクル時のエネルギー負荷が新地金に比べて低いことから、サーキュラーエコノミーと脱炭素の双方で重要な素材。一方、缶材、鋳物材、展伸材等で要求品質が異なり、水平リサイクルを進めるには、回収品の分別、合金成分管理、異物混入防止、品質保証が必要になる。
銅では、国産電解銅の約3割を再生資源由来とする目標を設定。銅は、電線、電子部品、モーター、送配電網、再生可能エネルギー設備、データセンター等に欠かせない素材であり、電化やAI需要の拡大により、銅需要は今後さらに高まる。天然鉱石の供給制約や資源ナショナリズムが強まる中、国内外からEスクラップや銅スクラップを確保し、精錬・素材供給に結びつけることは、経済安全保障上の意味が大きい。
永久磁石では、国内供給される原材料の約3割をリサイクルで賄う目標を掲げた。永久磁石にはレアアースが用いられ、電動車の駆動モーター、風力発電、ロボット、産業機械等に不可欠。レアアースは供給国の偏在性が高く、地政学リスクの影響を受けやすい。使用済み製品からレアアースを回収し、磁石材料として再利用する技術とサプライチェーンは、日本の製造業にとって戦略的価値を持つとした。
メタルリサイクル目標は、単なるリサイクル率の改善目標ではなく、資源安全保障と結びついた供給戦略だ。製造業にとっては、再生材を調達できるかどうかが、将来の製品競争力、顧客要求対応、温室効果ガス排出量削減、環境配慮設計、調達リスク管理に直結する。
(出所)内閣官房
プラスチックは単なる「削減」から「再生材利用の制度化」へ
金属と並び、プラスチックも行動計画の重要分野だ。日本では、プラスチック資源循環促進法により、設計、使用、回収、再商品化の各段階で資源循環を促す制度が整備されてきた。しかし、現状では、廃プラスチックの多くが焼却やサーマルリカバリーに回り、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルによる高品質な再生材供給は十分とは言えない。
廃プラスチックは、素材の種類、着色、汚れ、添加剤、複合素材、食品接触材への適合性等によって再生利用の難易度が大きく異なる。例えばマテリアルリサイクルでは、分別・洗浄・選別・品質管理が重要となる。ケミカルリサイクルでは、廃プラスチックを化学原料や燃料に戻す技術の商業化、コスト、環境負荷、認証、マスバランス管理等が論点になる。
さらに、再生プラスチックに関しては、品質の安定性、価格、調達量、食品接触材への適合性、顧客からの受容性、既存設備での加工可能性等、企業側の利用に向けた課題も山積している。一方、海外ではEU包装・包装廃棄物規則(PPWR)等により、再生材含有率、リユース、リサイクル可能性、容器包装削減、拡大生産者責任への対応が進んでいるため、グローバルに事業展開する日本企業にとって、再生材利用は製品戦略やサステナビリティ情報開示にも直結。特に食品・飲料、日用品、アパレル、小売、物流、自動車、電機等の企業では、容器包装や部材への再生材利用比率が、今後より重要なKPIとなる。
(出所)内閣官房
したがって今回の行動計画では、再生材を使う需要側の市場形成も重視。改正資源有効利用促進法を通じ、製造事業者等に再生プラスチックの利用計画策定・定期報告を求め、再生プラスチックの利用が増加するよう国としてモニタリングを行う。まず自動車、家電4品目、容器包装の製造事業者等を対象とし、業界の実情を踏まえつつ、対象事業者の拡大や、他の再生資源の対象追加も検討していく。再生プラスチック利用が進んでいる製品については、2028年度までに段階的に一定の再生プラスチック利用率に関する数値規制の導入も検討する。
また、再生材利用のインセンティブ創出として、製造事業者等に対し、再生材利用に係るコストを低減するための実証・支援を検討。加えて自動車等ものづくり産業向けには、安定した量と質の再生プラスチックを供給する集約拠点の構築に向け、ビジネスモデルの検討、集約拠点に必要な技術の体系化・実証、設備導入支援を行う。
公共調達では、2030年度までにグリーン購入法基本方針に位置付けられる全ての特定調達品目に、原則として再生プラスチック利用率等の基準を導入することで、需要創出も促進。消費者の理解醸成では、経済産業省が発足したサーキュラーエコノミー実現のための産官学連携プラットフォーム「サーキュラーパートナーズ(CPs)」等を活用し、消費者の再生材利用製品に対する受容性や、市場での評価を把握するための実証を行うとした
国際資源循環ネットワークと日本の勝ち筋
行動計画の柱の二つ目「日本をハブとする国際資源循環ネットワークの構築」では、国内で発生する循環資源を国内で活用するだけでなく、アジア等で発生する使用済み製品やEスクラップを、適正なルールの下で日本の高度な再資源化・精錬能力に結びつけることを目指す。
ASEAN等では、経済成長に伴い、家電、電子機器、自動車、蓄電池、太陽光発電パネル等の使用済み製品が増加している。これらを不適正処理や低効率な処理に回すのではなく、国際的な資源循環ネットワークの中で回収し、日本の再資源化拠点と接続することで、環境保全と資源確保を同時に実現することを狙う。
国際的な資源循環ネットワークは、通商政策上も重要であり、各国が重要鉱物やスクラップ資源の輸出管理、国内処理義務、再生資源の囲い込みを強めれば、再生資源の調達は天然資源と同様に戦略性を帯びる。そのため政府は、日米、クアッド、日ASEAN、日EU等の連携を深め、ASEAN主要国での電気電子機器廃棄物(E-waste)やバッテリーの回収や適正解体等に関する法令整備を支援する他、バーゼル法に基づくEスクラップ等の輸入手続の迅速化を進める方針を示した。
日本が同ネットワークのハブとなるには、単に海外からスクラップを集めるだけでは不十分であり、現地での回収体制、前処理、トレーサビリティ、適正処理基準、人権・労働安全、データ管理、再資源化後の素材品質までを含む仕組みが必要になる。
日本企業にとっては、海外拠点で発生するスクラップや使用済み製品をどの国で処理するか、どのように回収するか、再生材をどの拠点で再利用するかが、今後の調達・生産戦略の一部となる。不適正な輸出や不透明な処理が行われれば、環境汚染や人権問題につながり、企業のレピュテーションリスクにもなり得ることから、グローバル展開する製造業では、素材循環の設計を製品ライフサイクル全体で見直すことが求められる。
(出所)内閣官房
地域循環資源による地方経済の自立性向上
第3の柱の「地域循環資源の徹底活用による地域活性化」では、全国一律のモデルではなく、地域特性に応じたサーキュラーエコノミー・モデルを構築していく方向性を示した。地域特性に応じて、農山漁村のバイオマス活用、都市部のリユース・リサイクル、産業集積地での副産物・スクラップ活用等、多様なモデルが想定される。
自治体にとっては、廃棄物処理計画、地球温暖化対策実行計画、地域脱炭素、産業振興、公共調達、インフラ更新を横断して、サーキュラーエコノミーを位置付ける必要があると指摘。特に地方では、人口減少や財政制約により、廃棄物処理施設やインフラの維持が課題となるため、地域内で資源を循環させ、エネルギーや素材として活用することは、地域経済の自立性を高めるアクションとなる。
国際ルール形成と企業開示
第4の柱は、資源循環分野の国際ルールの形成だ。海外では、EUを中心に再生材含有率、リサイクル可能性、リユース、修理可能性、デジタル製品パスポート、製品カーボンフットプリント、化学物質管理、トレーサビリティ等のルール整備が進んでいる。
サーキュラーエコノミー関連の国際ルールは、今後の市場アクセス条件に関わるため、日本企業の技術や産業実態を国際制度に反映させるべく関与していく必要性があるとした。日本企業が高品質な再生材、精密な選別技術、高度な製品設計、長寿命化技術を持っていても、国際基準や認証制度で適切に評価されなければ、競争優位に繋がらないためだ。
例えば、企業による情報開示の観点では、グローバル・サーキュラリティ・プロトコル(GCP)について、企業現場や金融機関での活用、企業の意見を踏まえたバージョンアップの主導、国際標準化に向けたアクションを進める方針を示した。製品の資源使用量、再生材利用率、廃棄物発生量、リサイクル率、循環型設計、修理・再使用モデル、サプライチェーン上の資源リスク等を、企業がどのように説明するかは、今後の国際ルール形成上の重要論点となる。
【参考】【国際】WBCSDとUNEP、グローバル・サーキュラリティ・プロトコル(GCP)発行。COP30(2025年11月12日)
国民運動化の意味
サーキュラーエコノミーは、企業や政府だけでは完結しないため、消費者の行動変容も第5の柱「循環経済を国民運動に」として含まれている。現在、再生材需要・市場が未形成である背景としては、再生材の需要を創出するためのルールやインセンティブの不足、再生材利用価値の未浸透が挙がった。
政府としては今後、一般消費者等の再生材の受容性向上と需要拡大に向け、循環経済パートナーシップ(J4CE)や資源循環自治体フォーラム等を活用した主体間連携や、国際園芸博覧会の「GREEN×EXPO 2027」の会場でのサーキュラーエコノミーに関する情報発信等を行っていく方針を示した。
今後の注目点
循環経済行動計画は、日本のサーキュラーエコノミー政策が新たな段階に入ったことを示す。これまでの中心は、廃棄物削減、3R、リサイクル率向上、消費者啓発だった。しかし、今回の計画では、再生資源サプライチェーン、メタルリサイクル、再生材利用、国際的な資源循環ネットワーク、経済安全保障、成長戦略との接続が前面に出た。
今後注目すべきは、行動計画がどのように制度、予算、規制、公共調達に落ちていくかだ。木原官房長官は、行動計画を今夏に取りまとめる日本成長戦略や骨太方針にも反映するよう指示しており、今回の計画は、単独の環境政策文書ではなく、成長戦略、産業政策、財政措置、規制改革に接続していく可能性が高い。企業実務に直接影響するのは、今後具体化される施策だ。
まず注目すべきは、官民約1兆円投資の具体的な配分だ。再資源化拠点、高度選別、金属回収、プラスチック再生、蓄電池リサイクル、太陽光パネルリサイクル、データ基盤、地域循環モデル等のうち、どの分野に政策リソースが集中するかが重要となる。
次に、再生プラスチックを中心とする利用計画・定期報告制度や、一定製品での利用率規制の具体化だ。再生材利用率規制や公共調達の強化が進めば、対象企業には調達、品質保証、表示、顧客説明、価格転嫁等の対応を迫られる。再生材を供給できる企業にとっては、新たな市場機会が生まれる一方、対応が遅れた企業は、再生材調達コストの上昇、規制対応の遅れ、顧客要求への未対応、海外市場での販売制約等に直面することが懸念される。
循環資源の海外流出抑制も重要となる。高品質なスクラップや使用済み製品が海外に流出すれば、国内の再生材供給網は形成されにくい。一方、重要鉱物リサイクルは、日本国内だけで完結しないため、同志国との連携強化、ASEANとの協力、G7でのルール形成、バーゼル条約等の国際枠組みとの整合等が不可欠だ。政府には、輸出入規制、適正処理、トレーサビリティ、国際認証、国家間連携で、どのようにバランスを取って制度設計するかが問われる。
最後に、企業による情報開示と投資家評価への接続だ。サーキュラーエコノミーが成長戦略として位置付けられる以上、投資家が、企業の資源制約や再生材調達リスクへの対応を評価対象とする可能性も高まる。単に廃棄物削減量を示すだけでなく、事業モデル、素材戦略、資源循環投資、サプライチェーン強靱化を説明することが求められる。
【参照ページ】循環経済(サーキュラーエコノミー)に関する関係閣僚会議
【参照ページ】循環経済(サーキュラーエコノミー)に関する関係閣僚会議(第4回)議事次第
【参照ページ】循環経済行動計画(案)(概要)
【参照ページ】循環経済行動計画(案)(本文)
【参照ページ】循環経済行動計画(案)施策集
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菊池尚人
チーフコンサルタント 兼 事業開発室長
2016年新卒から10年コンサルティング業界に従事。2019年より現職。
大手企業・金融機関向けESG戦略・投資アドバイザリーのリードに加え、 サステナビリティ経営に関する研修講師、Sustainable Japan編集も務める。