 1 【エネルギー】日本の発電電力量の電源構成[2026年版](火力・水力・原子力・太陽光・風力・地熱・バイオマス) 1](https://sustainablejapan.jp/wp-content/uploads/2026/07/electricity-japan.jpg)
日本の電力供給を巡る議論は、脱炭素化を進めながら、安定供給と経済性をどのように確保するかという段階に入っている。再生可能エネルギーと原子力による発電量が増加する一方、石炭や天然ガス等の火力発電は、現在も日本の電力供給の中心を担う。さらに、データセンターや半導体工場等による新たな電力需要の増加も見込まれ、電源の脱炭素化だけでなく、送電網、蓄電池、調整力を含む電力システム全体の整備が課題となっている。
本稿では、日本の電源構成とその変化、各電源の現状、2040年度に向けた課題を整理する。
日本の発電電力量と電源構成
資源エネルギー庁の「エネルギー動向(2026年6月版)」によると、2024年度の国内発電電力量は9,911億kWhだった。内訳は、LNG火力が32.2%、石炭火力が28.1%、石油等火力が7.2%で、火力発電全体では67.5%となった。これに対し、太陽光、風力、地熱、バイオマス等を含む「新エネ等」は15.7%、水力は7.4%、原子力は9.4%。水力を含む再生可能エネルギーは23.1%、原子力を加えた非化石電源は32.5%を占めた。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表14-1-6「発電電力量の推移」
長期的な変化を最も端的に示すのが、新エネ等の拡大だ。固定価格買取制度(FIT)が始まった2012年度の新エネ等による発電量は309億kWhだったが、2024年度には1,551億kWhとなり、約5倍に拡大した。原子力発電は2010年度の2,882億kWhから、2014年度にゼロとなった後、2024年度には935億kWhまで回復した。一方、東日本大震災後に増加した石油火力は再び減少し、LNG火力も2010年代半ばをピークに減少傾向へ転じている。
但し、発電量の3分の2以上を火力が担う構造は続いている。発電部門での化石燃料削減が進んでも、2024年度の一次エネルギー供給に占める化石エネルギー依存度は80.1%で、原子力を準国産エネルギーとして算入したエネルギー自給率も16.3%に留まった。電源の脱炭素化は、温室効果ガス排出量削減だけでなく、燃料輸入額、為替変動、国際価格、海上輸送路、地政学リスクへの耐性を高める政策でもある。
各電源の状況
水力発電(一般水力・揚水発電)
2024年度の電源構成に占める水力発電の割合は7.4%、発電電力量は735億kWhだった。水力発電は、燃料を必要とせず、設備を長期間使用できる。流れ込み式は降水量の影響を受けるが、貯水池式や調整池式では、需要に応じて一定程度出力を調整できる。発電電力量だけでなく、電力需給を調整する能力にも価値がある。
特に役割が変化しているのが揚水発電だ。従来は、原子力発電等の出力を調整しにくい電源による夜間の余剰電力を使って水をくみ上げ、昼間の需要ピーク時に発電する運用が中心だった。太陽光発電が拡大した現在は、晴天時の昼間に発生する余剰電力で揚水し、太陽光の発電量が低下する夕方以降に発電する運用の重要性が高まっている。揚水発電は、日本が既に保有する大規模な蓄電設備として、再生可能エネルギーの変動を吸収する役割を担う。
一方、新規の大規模水力発電では、開発可能地点の小規模化や奥地化、建設費、環境影響、長い開発期間等が制約となる。今後は、既存設備の更新による出力・効率向上、ダムの運用高度化、農業用水や上下水道、砂防ダム等を活用する中小水力が中心となる。FIT制度の導入以降、2025年3月までに計149万kWの中小水力発電が新たに運転を開始した。
石油等
2024年度の石油等による発電量は711億kWhで、電源構成比は7.2%だった。2013年度の1,567億kWhから半分以下に減少しており、通常時の主力電源としての役割は縮小している。
それでも石油火力は、電力需要が急増した際の追加供給、災害や他の燃料供給障害への備え、離島電源等で一定の役割を持つ。設備の多くが既に建設されているため、発電量が少なくても、供給力や緊急時対応力を維持する価値がある。一方、燃料費と発電時の温室効果ガス排出量が大きく、長時間の運転には適さない。
日本の石油問題でより重要なのは、発電用途だけでなく、運輸や石油化学を含む経済全体の輸入依存だ。2024年度の原油輸入量は1億3,629万klで、輸入に占める中東地域の割合は過去最高の95.9%となった。2024年の中東依存度は米国が8.1%、欧州OECDが13.6%であり、日本の調達集中は突出している。ロシア産原油の輸入減少等により、中東依存度は再び上昇している。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-1-4「原油の輸入量と中東依存度の推移」
国際エネルギー機関(IEA)は加盟国に石油純輸入量の90日分以上の緊急備蓄を求めているが、日本は2025年12月時点で208日分を保有していた。備蓄は短期的な供給途絶への備えになる一方、長期的な価格上昇や円安の影響を取り除くものではない。2024年度には原油輸入額が日本の総輸入額の9.3%を占めた。石油消費を減らすことは、温室効果ガス排出量削減と貿易収支・エネルギー安全保障の双方に関係する。
石炭
2024年度の石炭火力発電量は2,785億kWhで、電源構成比は28.1%だった。2013年度の3,571億kWhから22.0%減少したものの、依然として国内発電量の4分の1以上を供給している。
石炭火力は、燃料を大量に備蓄しやすく、従来は燃料価格も比較的安定していたことから、基礎的な電力需要を賄う電源として拡大した。しかし、単位発電量当たりの温室効果ガス排出量は天然ガス火力より大きく、日本の発電部門の脱炭素化における主要な課題の一つとなっている。
資源面でも、日本は石炭供給のほぼ全量を輸入に依存する。2024年度の国内一般炭生産量は51万tに留まった一方、一般炭1億546万t、原料炭5,616万tを輸入し、無煙炭を含む石炭輸入量は約1.7億tとなった。一般炭の72.4%、原料炭の51.4%をオーストラリアから調達している。一般炭ではインドネシアが13.0%、原料炭ではインドネシアが25.9%を占めた。中東に集中する原油とは異なるものの、豪州への調達集中、炭鉱事故、豪雨、港湾・鉄道障害、輸出政策等の影響を受ける。2024年度の石炭輸入額は、日本の総輸入額の3.6%を占めた。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-1-21「石炭の輸入先(2024年度)」
火力発電を巡る政策では、発電設備の容量と、実際にどれだけ発電するかを分けて考える必要がある。第7次エネルギー基本計画では、火力全体として安定供給に必要な発電容量を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らしていく方針が示された。再生可能エネルギーや原子力の発電量が増えても、需給逼迫時の供給力が不足すれば安定供給は成立しないため、火力設備を一律に直ちに廃止するのではなく、稼働時間を減らしながら必要な容量を維持する考え方だ。
【参考】【日本】政府、温対計画、第7次エネルギー基本計画、GXビジョン2040年閣議決定。原案まま(2025年2月18日)
同時に政府は、非効率石炭火力のフェードアウトに加え、水素・アンモニア、二酸化炭素回収・貯留(CCS)等による火力の脱炭素化を進める方針を示している。但し、これらの技術を評価する際には、発電所での排出量だけでなく、燃料の製造、輸送、二酸化炭素の回収・輸送・貯留を含むライフサイクル排出量、コスト、設備利用率を確認する必要がある。
天然ガス
2024年度の天然ガス火力発電量は3,194億kWh、電源構成比は32.2%で、現在も日本最大の電源となっている。東日本大震災後には、停止した原子力発電を代替するため発電量が急増したが、2013年度の4,435億kWhからは28.0%減少した。
天然ガス火力は、石炭火力より発電時の二酸化炭素排出量が少なく、出力を比較的柔軟に調整できる。太陽光や風力の発電量が急減した際に出力を上げる調整電源としても重要である。そのため、再生可能エネルギーを拡大する過程で、当面は安定供給を支える役割が残る。
一方、天然ガスも化石燃料であり、2050年に向けては排出量を大幅に減らす必要がある。2024年度の天然ガス輸入依存度は98.0%で、輸入分は全量がLNGだった。国内生産は18.9億m3、LNG換算約132万tで、国内供給の2.0%に過ぎない。2024年度のLNG輸入量は6,588万tで、最大の調達先であるオーストラリアが38.4%を占めた。中東依存度は10.6%で、原油より低いものの、特定国や国際LNG市場への依存は残る。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-1-10「LNGの輸入先(2024年度)」
2024年度の天然ガス消費は、54.8%が発電用、36.3%が都市ガス用だった。2024年に世界で貿易されたLNGの16.4%を日本が輸入し、中国に次ぐ世界第2位のLNG輸入国となった。LNGは原油に比べて長期備蓄が難しく、長期契約、スポット調達、調達先の多角化、受入基地、LNG船等を組み合わせて供給を確保する必要がある。
今後の天然ガス火力では、年間を通じて高い設備利用率で運転する電源から、再生可能エネルギーの変動や需給逼迫時を補う電源へ役割が変化する可能性が高い。発電量が減少しても、必要時に確実に稼働できる設備、人材、燃料契約を維持する費用を、容量市場等を通じてどのように負担するかが政策上の論点となる。
原子力発電
2024年度の原子力発電量は935億kWhで、電源構成比は9.4%だった。2014年度には国内の原子力発電量がゼロとなったが、新規制基準に適合した原子炉の再稼働に伴い、発電量は徐々に回復している。2024年度の原子力発電所の設備利用率は32.3%で、2014年度の0%からは上昇したものの、2010年度の68.3%を大きく下回る。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-2-22「日本の原子力発電設備利用率の推移」
資源エネルギー庁によると、2026年3月までに国内の原子炉15基が再稼働した。原子力発電は、運転時に温室効果ガスをほぼ排出せず、天候に左右されにくい。燃料の体積が小さく、発電所内に長期間分を保有できるため、政府は準国産エネルギーとして位置付けている。
現在の政策では、再生可能エネルギーか原子力かという二項対立ではなく、双方を最大限活用する方針が明確になっている。第7次エネルギー基本計画は、2040年度の原子力比率を2割程度とし、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用する方針を示した。
但し、2割程度を実現するには、停止中原子炉の再稼働に加え、設備利用率の向上や長期運転が必要となる。さらに、その比率を中長期的に維持するためには、廃炉となる設備の代替や新増設・建替えを含む長期的な投資判断も論点となる。立地地域との共生、国民とのコミュニケーション、使用済燃料の貯蔵、再処理、廃炉、高レベル放射性廃棄物の最終処分等のバックエンド対策も、発電設備と同時に進めなければならない。
発電コストについても、単純な数値比較には注意が必要だ。政府の2024年発電コスト検証は、2040年に新設するモデルプラントの発電コストを、原子力を12.5円/kWh以上、LNG専焼を16.0円から21.0円/kWh、事業用太陽光を6.9円から8.8円/kWh等と試算した。しかし、これは既存設備の運転費ではなく、設備利用率、燃料価格、建設費、安全対策費、事故リスク対応費等の前提によって変化する。太陽光や風力についても、送電網、蓄電池、出力制御、他電源による調整等の費用を併せて考える必要がある。
再生可能エネルギー
2024年度の再生可能エネルギー発電量は2,286億kWhで、電源構成比は23.1%だった。このうち、太陽光、風力、地熱、バイオマス等の新エネ等が15.7%、水力が7.4%を占めた。最大の伸びを牽引したのは太陽光発電である。
日本政府は2012年にFIT制度を開始し、再生可能エネルギー電力を一定価格で買い取ることで投資を促進した。2022年4月には、発電事業者が卸電力市場等で売電し、市場価格にプレミアムを上乗せするFIP制度を開始。再生可能エネルギーを、固定価格によって導入量を増やす段階から、電力市場と需給運用へ統合する段階へ移行させている。
再生可能エネルギー政策では、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合を表す「S+3E」を大前提に、国民負担を抑制し、地域との共生を図りながら、主力電源化を徹底する方針が示されている。揚水発電や蓄電池等の調整力、系統整備を含む統合コストを最小化するとともに、FIT・FIP期間終了後も運転と再投資が続く長期安定電源へ転換することが政策課題となっている。
太陽光発電
太陽光発電量は981億kWh、電源構成比は9.9%で、単独の再生可能エネルギーとして最大となった。2024年度末の累計導入量は7,985万kWに達し、2024年時点で中国、米国、インド、ドイツに次ぐ世界第5位だった。設備の建設期間が比較的短く、住宅、工場、物流施設、駐車場、遊休地等に分散して導入できる点が強みだ。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-2-1「太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移」
一方、平地が限られる日本では、大規模発電所の適地減少、森林開発や土砂災害への懸念、地域との合意形成が制約となる。2024年度には国内出荷された太陽電池に占める国内生産品の割合が5%まで低下しており、設備供給の海外依存も論点となる。今後は屋根設置、自家消費、営農型太陽光、ペロブスカイト太陽電池等、既存の土地・建物を活用する導入が重要となる。
また、太陽光は晴天時の昼間に発電が集中する。九州等では、需要や地域間送電容量を上回る時間帯に出力制御が実施されている。導入量だけを増やしても、発電した電気を利用できなければ、脱炭素効果と事業価値は低下する。蓄電池、揚水発電、需要シフト、地域間送電、自家消費を一体で整備する必要がある。2030年代後半以降に大量廃棄が見込まれる使用済み太陽光パネルの回収・リサイクル制度も重要となる。
風力発電
2024年度の風力発電量は117億kWh、電源構成比は1.2%で、太陽光に比べて導入が遅れている。2025年末の累計導入量は643万kWで、世界全体の0.5%に留まった。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-2-9「風力発電導入量の推移」
陸上風力では、適地、環境影響評価、騒音、景観、系統接続が課題となる。洋上風力は、周囲を海に囲まれた日本で大規模導入が期待されており、再生可能エネルギー主力電源化の切り札と位置付けている。一方、建設費の上昇、金利、円安、海底地盤、港湾、施工船、国内サプライチェーン、漁業者等との調整が事業性を左右する。
第7次エネルギー基本計画の2040年度見通しは、風力発電を電源構成の4%から8%程度とした。2024年度の1.2%から大幅に拡大するには、個別案件の公募だけでなく、送電網、港湾、施工船、人材、部品供給、長期的な価格形成を含む産業基盤が必要となる。
地熱発電
地熱発電量は39億kWh、電源構成比は0.4%だった。日本の地熱資源量は2,347万kWで世界第3位とされる一方、2024年末の地熱発電設備容量は49万kWで世界第10位に留まった。
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー動向(2026年6月版)」図表13-2-12「主要国における地熱資源量及び地熱発電設備容量」
地熱発電は天候や時間帯に左右されにくいが、資源の多くが国立・国定公園内に存在する。掘削しても十分な蒸気が得られない資源リスク、温泉事業者や地域住民との合意形成、環境影響評価、開発開始から稼働まで10年を超えるリードタイム等が導入の壁となる。
2040年度の政府見通しは地熱を1%から2%程度としている。目標達成には、初期調査・掘削リスクの官民分担、探査技術の高度化、既存温泉との共存、許認可手続の合理化が必要となる。
バイオマス発電
バイオマス発電量は414億kWh、電源構成比は4.2%だった。2024年度末のFIT制度による導入設備容量は、RPS制度からの移行分を含め746万kWに達した。太陽光や風力と異なり、燃料を貯蔵し、需要に応じて発電できる。国内の未利用材、製材残材、黒液、食品廃棄物、家畜排せつ物、下水汚泥等を利用できれば、廃棄物処理、林業・農業、地域エネルギーを組み合わせられる。
一方、大規模バイオマス発電では、木質ペレットやパーム椰子殻等の輸入燃料への依存も大きい。燃料の生産・加工・輸送、森林の再生、土地利用変化を含めなければ、実際の温室効果ガス削減効果は判断できない。発電効率だけでなく、熱利用を組み合わせること、持続可能な燃料調達を証明すること、地域の資源量に見合った設備規模とすることが必要になる。
2040年度に向けた電源構成
第7次エネルギー基本計画に付随する2040年度のエネルギー需給見通しでは、発電電力量を1.1兆kWhから1.2兆kWh程度と想定した。電源構成は、再生可能エネルギーが40%から50%程度、原子力が20%程度、火力が30%から40%程度となっている。
再生可能エネルギーの内訳は、太陽光が23%から29%程度、風力が4%から8%程度、水力が8%から10%程度、地熱が1%から2%程度、バイオマスが5%から6%程度とされた。2024年度実績と比べると、再生可能エネルギーと原子力の比率をそれぞれ概ね2倍へ引き上げ、火力の比率を大幅に低下させる構成となる。
(出所)資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画の概要」
この見通しは、達成が保証された固定的な計画ではない。政府は、技術進歩、燃料価格、経済成長、電力需要、設備投資等に大きな不確実性があるため、一定の幅を持つ見通しとして示している。それでも、発電総量が増える中で火力発電量を減らすには、再生可能エネルギーと原子力のいずれか一方ではなく、双方を拡大する必要があるという政策判断が表れている。
政府は、この電源構成を単なる環境目標ではなく、産業政策と経済安全保障の基盤として説明している。脱炭素電源が不足すれば、データセンター、半導体、蓄電池、素材等の新規投資を国内へ呼び込むことが難しくなる。一方、脱炭素電源の供給拠点には地域的な偏りがあるため、従来のように大都市圏の需要に合わせて遠隔地から電力を送るだけでなく、クリーンエネルギーの供給地域に電力需要を集積させる「エネルギー供給に合わせた需要の集積」も政策課題となった。
電源構成転換を支える電力システム
電力需要は減少するとは限らない
日本では、人口減少、省エネルギー、産業構造の変化により、電力需要は長期的に減少すると考えられてきた。実際、2024年度の発電電力量は2013年度と比べて8.6%少ない。
しかし今後は、生成AIを含むデジタルサービスの拡大によるデータセンター需要、半導体工場、電気自動車、ヒートポンプ、製造プロセスの電化、水素製造等が増加要因となる。第7次エネルギー基本計画は、DXやGXによる電力需要増加を前提に、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を同時に進める必要性を示した。十分な脱炭素電源を確保できなければ、国内の産業投資や生産能力そのものが制約される可能性がある。
企業の電力調達でも、再生可能エネルギー由来の証書を購入するだけでなく、新たな発電設備への投資に繋がる長期電力購入契約(PPA)、自家発電、蓄電池、需要調整等を組み合わせる重要性が高まる。
送電網と産業立地を一体で考える
再生可能エネルギーの適地と電力需要地は一致しない。北海道、東北、九州等には風力・太陽光の導入余地がある一方、大規模需要は東京、中部、関西等に集中している。発電設備を建設しても、送電容量が不足すると発電した電気を需要地へ届けられない。
政府と電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、将来の電源立地を先取りして送電網を整備するプッシュ型の系統形成を進めている。地域間連系線、基幹送電網、海底直流送電等には巨額の投資と長い建設期間が必要となるため、発電所の建設後に対応するのではなく、将来の電源構成を見越して先行的に整備する必要がある。
但し、全ての発電設備に対応できるまで送電網を増強することが、常に最も経済的とは限らない。発電側の出力制御、蓄電池、需要側のディマンドレスポンス、発電地周辺への産業立地を組み合わせ、系統増強費用を抑える設計も必要となる。こうした需要集積の考え方は、電源を需要地へ運ぶだけでなく、需要を脱炭素電源の近くへ誘導する政策への転換を意味する。
蓄電池だけでなく、揚水・需要調整・火力を組み合わせる
太陽光と風力は、燃料を必要とせず、運転時の温室効果ガス排出量も小さい。一方、発電量を需要に合わせて自由に決められない。導入量が増えるほど、昼間の余剰、夕方の不足、数日間の低風速、季節間の発電量差に対応する必要がある。
短時間の変動には系統用蓄電池、電気自動車、需要調整が適する。数時間から一日程度では揚水発電も大きな役割を持つ。より長期間の不足には、火力発電、地域間融通、将来的には水素等を利用する長期エネルギー貯蔵が候補となる。
但し、電気から水素を製造するPower-to-Gasを経て、貯蔵後に再び発電する場合は、複数のエネルギー変換工程を伴う。水電解装置の高効率化と低コスト化も課題となる。大容量・長期間の貯蔵に適する可能性はあるが、あらゆる余剰電力を水素化すればよいわけではない。貯蔵時間、必要な出力、利用頻度、送電制約等に応じて、適切な手段を選ばなければならない。
発電コストから電力システム全体のコストへ
電源別の発電コストは重要だが、太陽光、風力、原子力、火力の1kWh当たり単価だけを比較しても、望ましい電源構成は決まらない。
自然変動電源が増えると、送電網、蓄電池、出力制御、予備力、調整運転等が必要になる。一方、燃料を必要とする火力は、発電量が減っても、需給逼迫時に備えて設備と人員を維持する費用がかかる。原子力では、安全対策、廃炉、事故リスク、核燃料サイクル、廃棄物処分を含む長期費用を考える必要がある。
電力政策の評価軸は、個別電源の発電単価から、必要な時間と場所で電力を供給するためのシステム全体の費用へ移っている。企業にとっても、平均的な電気料金だけでなく、価格変動、供給途絶、時間帯別排出係数、追加性、立地地域の送電制約を調達戦略に織り込む必要がある。
脱炭素とエネルギー安全保障を一体で進める
日本は、化石燃料の大半を海外から輸入している。火力発電量を減らすことは、温室効果ガス排出量を減らすだけでなく、燃料価格、円安、地政学、海上輸送路の影響を小さくする。
一方、再生可能エネルギー設備、蓄電池、送電設備、原子力設備にも、重要鉱物、部品、製造能力、施工人材等のサプライチェーンが必要となる。化石燃料依存を減らしても、太陽光パネル、風力発電機、蓄電池等を特定国に過度に依存すれば、別の供給リスクが生じる。
今後のエネルギー安全保障は、燃料を備蓄するだけではない。国内の発電設備、送電網、蓄電・調整力、製造能力、保守人材、サイバーセキュリティ、災害対応を含む総合的な供給能力で評価する必要がある。
電源構成転換の条件
2024年度の日本の発電電力量は9,911億kWhで、LNG32.2%、石炭28.1%、石油等7.2%と、火力発電が依然67.5%を占めた。一方、再生可能エネルギーは23.1%、原子力は9.4%となり、非化石電源は32.5%まで上昇した。太陽光を中心とする新エネ等は2012年度の309億kWhから2024年度の1,551億kWhへ約5倍に拡大し、原子力も再稼働に伴って回復している。
しかし、2040年度の政府見通しに到達するには、変化の速度を大幅に高める必要がある。しかも、今後は発電総量そのものが増える可能性がある。再生可能エネルギー発電所や原子力発電所を増やすだけでは足りず、送電網、蓄電池、揚水発電、需要調整、火力の供給力維持、電力市場、地域との合意形成を一体で進めなければならない。
現在のエネルギー政策の核心は、脱炭素だけでなく、安定供給、経済成長、産業立地、地域経済を一体で進めることにある。日本のエネルギー問題は、単一の正解となる電源を選ぶ問題ではない。安全性、安定供給、経済効率性、環境適合という条件を満たしながら、各電源の弱点を送電、蓄電、需要側の対策で補う電力システムを構築できるかが問われている。
【参考ページ】エネルギー動向(2026年版)
【参照ページ】2024年度エネルギー需給実績(確報)
【参照ページ】第7次エネルギー基本計画
【参照ページ】エネルギー白書2025
【参照ページ】容量市場の概要について
【参照ページ】発電コスト検証に関するとりまとめ
【参照ページ】再生可能エネルギーFIT・FIP制度ガイドブック2026
【参照ページ】事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)
【参照ページ】FIT/FIP制度におけるバイオマス燃料のライフサイクルGHG計算方法
【参照ページ】再エネ主力電源化に向けた今後の再生可能エネルギー政策について
【参照ページ】広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)
【参照ページ】蓄電池以外のエネルギー貯蔵システム(LDES)の技術動向・課題整理
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菊池尚人
チーフコンサルタント 兼 事業開発室長
2016年新卒から10年コンサルティング業界に従事。2019年より現職。
大手企業・金融機関向けESG戦略・投資アドバイザリーのリードに加え、 サステナビリティ経営に関する研修講師、Sustainable Japan編集も務める。