太陽光発電の技術的側面と今後の展望
太陽電池は、太陽光の力を利用して電気を発電する技術で、再生可能エネルギーの中でも注目が集まる技術です。太陽光のエネルギーを利用して発電を行う方法は大きく分けて、太陽光発電と太陽熱発電に分けられます。本記事では太陽光発電、一般的に太陽電池と呼ばれている方式の技術的側面を中心に説明します。
基本的な原理
一般的に太陽電池は、光の持つエネルギーを直接電気に変換する現象である「光起電力効果」を利用しています。一般的に光起電力効果は、物質に光をあてられることにより、電子にエネルギーが与えられる効果のことを指し、マイナスの電気を帯びた電子と、電子と対になるプラスの電気を帯びた正孔を発生させます。2種類のp型とn型と呼ばれる異なる性質の半導体を接合した際に発生するエネルギーレベルの差に従って、マイナスの電気を帯びた電子はn型へ、プラスの電気を帯びた正孔はp型へ向けそれぞれ動き出し、電流が流れます。このようにして光から電流を取り出すことが可能となります。(図1)
図1 太陽電池原理。半導体の接合とエネルギーレベルの対応関係。
太陽光は様々な波長の光を含んでいます。太陽の光の波長と取り出せるエネルギーの関係には、一般的に以下の関係が成立しています。
E…ある波長の光が持つエネルギー λ…光の波長 h…プランク定数
この式からエネルギーは波長に反比例することがわかります。エネルギーの状態を表現する方法にエネルギーバンドがあります。半導体のバンド構造にはバンドギャップと呼ばれるエネルギーレベルの隙間が存在しており、電子がこのバンドギャップを越えて遷移するには、バンドギャップを越えられるだけの高いエネルギーが必要なり、それ以下のエネルギーしか発生できない場合は絶縁体、それ以上のエネルギーを発生できる場合は導体なります。よってバンドギャップの大きさにより吸収できる光の波長が決まります。これら変換効率に関連する条件は材料の性質や構造に依存するため、太陽電池の電力変換効率を上げるためには、適切な材料を適切な構造で利用する必要があります。
基本的な構造
太陽電池の工学的な基本的な構造は、セル、モジュール、アレイの大きく3つに分けられます。図2にそれらの関係を示します。まずセルは、太陽電池の部品の最小単位で、上述の基本的な構造で記した半導体で構成されています。モジュールは、セルを敷き詰め、ガラスや樹脂で固定し、1枚の大きなパネルにしたものです。アレイは、それらのセルを並べて電気的に直列・並列に接続、利用するために例えば家屋の屋根に設置する形状のものです。太陽電池を装置として実用する際にはアレイの状態で利用されます。一般的に太陽電池材料の研究では、セル規模の大きさの実験試料を利用し、理想上の環境で性能データを測定するのに対し、実際上はアレイの状態で動作するため、最新の研究で発表されている最高変換効率と一般的に利用されている太陽電池の効率が異なる場合があるのは、この両者の環境の差にも起因しています。
図2 セル、モジュール、アレイの関係図
様々な種類の太陽電池と各種の動向
現在実用化されている太陽光発電は、素材や構造に違いがあります。図3、図4に現在の主な太陽電池の大まかな素材と構造による分類図を示します。
図3 主な太陽電池の素材による分類分けの図
図4 主な太陽電池の構造による分類分けの図
それぞれの特徴について説明していきましょう。
材料
シリコン
現在普及している太陽光発電機の大部分は半導体を利用したものです。その中でもシリコン(Si)タイプのものが大部分のシェアを占めています。シリコンはクラーク数(地球に存在する材料の指数で、大きいほうが多く存在する)が酸素に次いで2番目に高く、安価で安定的に存在する物質です。現在の太陽電池の大半がこのシリコンを利用して作製されています。シリコンタイプのものもシリコンの利用方法によって様々な種類に分けられます。
シリコンタイプの中で高効率を誇るものが単結晶シリコンタイプです。一般的に物質は規則性を持つ塊結晶には向きがあり、大きなひとつの結晶として捉えられるものを単結晶といいます。単結晶の場合、結晶の向きが小さな単位で様々な方向を向いている多結晶タイプと比較して変換効率が高くなる傾向にあります。しかし単結晶の作製には結晶の向きをそろえるための精製が必要なため作製コストが高くなりがちです。これに対し多結晶シリコンは、巨大な結晶を精製する必要が無いため作製コストを低く抑えることができます。多結晶は、比較的小さな単結晶が様々な方向を向いたまま、まとまったものです。同じ時間で10倍ほどの結晶を得ることができます。また比較的大きなセルを作製することもできます。ただし、性能も数%程ですが単結晶のものよりも劣ります。
結晶タイプのほかにも薄い膜の形状である薄膜タイプのものもあります。通常のシリコン結晶ですと吸収係数が低く薄膜には適しませんが、水素と反応させた水素化アモルファスシリコンでは吸収係数が大きくなるため、この水素化アモルファスシリコンを用いた薄膜太陽電池が実用化されています。アモルファスとは物質の構造が結晶のように揃って規則的に配列していない状態を指します。水素化アモルファスシリコンは、結晶シリコンに比べ吸収係数(単位長さあたりの吸収できる光の量)が大きいため、薄膜化しても利用できることから、電卓などの比較的消費電力が少なくても可動するシステムへ利用されています。
化合物半導体型
シリコンの間接遷移型と呼ばれるエネルギーバンドの構造上、直接遷移型物質の方が性能面では優れています。半導体の重要な特長のひとつとして、様々な材料を組み合わせることで、材料の性質を変化させ、性質を比較的容易に調整することが可能な点が挙げられます。太陽電池でもこの半導体の特長を生かしたものがあります。メンデレーフの周期表によるグループの名前がついたりなど、種類は多岐にわたります。
メンデレーフの周期表における13列目および15列目の半導体はそれぞれIII族、V族と呼ばれ、それらの組み合わせの物質体系はIII-V族型と総称されます(先述のシリコンは、間のIV族)。これらの化合物半導体は、比較的他の結晶との混ぜ合わせが容易で、様々な特性を持つ太陽電池が開発されています。代表的なものではGaAs等があげられます。
III-V族系と同様に周期表の12列目と16列目の物質を組み合わせた材料をII-VI族化合物と呼びます。一般的にII-VI族系の物質の特徴は、物質の価格が安価である点が挙げられます。代表的なものはCdTe等です。銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)で構成されるCIGS系は比較的新しいグループの太陽電池です。吸収効率が良く、薄膜に利用できる点や、放射線耐性が優れているなど今後の発展が期待されています。
有機薄膜型
半導体のほかにも、炭素を含む有機材料を利用した太陽電池も幅広く研究が行われています。現段階では発電効率は数%と低いですが、半導体などの無機物質と比較して価格が安価である点が、最大の利点として挙げられます。また有機物質には曲げられるという特長があり、曲げても破損しないなど、半導体タイプの太陽電池にはない特性を持っています。熱に弱いなど、課題点は多々ありますが、今後の発展が期待される方式です。
色素増感型
色素増感型は1991年にスイス連邦工科大学のグレッツェル教授らにより提案された比較的新しい方式です。この方式では半導体結晶を使わず粉末や液体物質を利用します。半導体方式と比較して材料が安価であることから低コストで、構造が比較的シンプルであることから製作コストも抑えることができます。一般的な色素増感型の方式ではレアメタルであるルテニウム(Ru)を利用している点が材料面では費用がかさむひとつの原因となっていました。比較的安価な有機物質を利用して低コスト化を目指している方式など今後の高性能化および低コスト化が期待されています。
ペロブスカイト型
結晶構造のうち灰チタン石(CaTiO3)と同じ構造を持つ物質をロシアの研究者L. A Perovskiにちなんでペロブスカイト型と呼びます。ペロブスカイト系物質の特長として比較的物質が安定で合成が容易である点があげられます。一部の有機物と無機物により構成されるペロブスカイト型物質では、液体材料を薄く塗り乾かすだけで薄膜が作製できることが報告されています。後述の表からも分かるように、最高効率も、他の種類の太陽電池と比較して最高速度で年々順調に上昇しており、今後の応用が注目されています。
構造
発電時の変換効率は材料選定だけでなく、発電素子の構造によっても向上させることができます。材料選択による発電時変換効率の限界は現在は20%程ですが、素子の構造を最適化することで変換効率をさらに上げられることが、理論的には予測されています。構造の最適化にも様々な種類があります。
多層構造
異なる波長の光を吸収するバンドギャップを持つ材料を重ねて接合させた構造(ヘテロ構造)を用いたものを多層構造と言います。多層構造は、多くの波長の光を吸収することで、セル単体の太陽光吸収率を上げることができます。典型例としてはInGaP、GaAs、InGaAsの集光型化合物3接合セルで40%を超える効率を達成しています。材料により、層同士の接続可否などの課題がありますが、今後の更なる向上が理論的には見込まれています。
量子ナノ構造型
スケールがごく小さい数十ナノメートルほどの大きさの領域では、量子効果と呼ばれる我々の世界とは異なる固有の物理現象が起こります。その量子効果を太陽電池に応用したものが、量子ナノ構造型です。量子ドットや量子ナノワイヤはごく小さいナノスケールの”点”や”線”を作製し、量子効果により、吸収できる太陽光の波長領域を拡大することで、大幅な変換効率の向上を図る取組がなされています。これらの固有の構造を利用した高変換効率を持つ太陽電池は、材料や加工方法ともに非常に高価になる傾向があるため、再生可能エネルギー発電向けの太陽電池よりも、価格は考慮する必要がほぼ無く、設置するスペースが狭く制限されている宇宙関係の開発向けへの活用が期待されています。
各種太陽電池の最高変換効率の遷移
NRELが作成したグラフ(図5)によると、2014年現在で最高効率の太陽電池はSoitec社の4接合型かつ集光したのもので44.7%を記録しています。シャープの3接合型のものが44.4%と続きます。4接合以上で集光をしていないタイプの最高はBoeing-Spectrolabで38.8%, 3接合で集光していないものではシャープが37.9%がトップです。GaAsの単接合、2接合ともにNRELの34.1%、31.1%です。GaAsの薄膜ではAlta Devicesの28.8%、GaAsの単結晶ではFhG-ISEの26.4%が最高です。
シリコン系では、単結晶集光型のAmonixの27.6%が最高ですが、ここ10年ほど記録が更新されていません。多結晶の20.4%も同様です。ヘテロ構造ではパナソニックの25.6%、単結晶単体ではNRELの25.0%、薄膜ではSolexcelの21.2%が最高です。薄膜系では、Solexcel の集光CIGSが23.3%、続いて集光しないZSWの21.7%、First SolarのCdTe21.0%が続きます。アモルファスではLGの13.4%が最高です。新型として比較的新しい技術として出てきたものではペロブスカイト型がSolibro KRICの20.1%、色素増感型では11.9%、有機系では三菱化学の11.1%、有機タンデム型では住友化学の10.6%、量子ドット型ではトロント大学が9.2%を記録しています。比較的まだ効率の低いタイプは大学などの研究施設が多いのに対し、高効率は各企業がリードしています。高効率の太陽電池は年々最高記録が更新され、トップが毎年入れ替わる状況が続いています。
図5 各種太陽電池の種類別最高効率の遷移(出所)NREL 編,Best Research Cell Efficiencies)
新型技術
最新の研究では、上記のような現在すでに実用化されている太陽電池の他に、新たなタイプの太陽電池も登場しています。
無機物質と有機物質のハイブリッドタイプ
有機物質と無機物質を利用したものは既に色素増感型やペロブスカイト型物質などで報告されていますが、更なる向上が期待されるタイプです。ペンタセンは有機ELにも利用される有機物質で、葉の中に天然に存在します。ペンタセンと適切な物質を用いると、エネルギー効率を飛躍的に向上させることができ、結果として理論的な太陽電池の最高変換効率が95%程になると予想されています。
University of Cambridge, Credit: Maxim Tabachnyk
アップコンバージョン発光物質
アップコンバージョンとは、比較的低いエネルギーの光を、比較的高いエネルギーの光に変換する方法です。これにより、従来利用できていなかった低いエネルギーの光を高いエネルギーに変換することで、太陽電池の効率を上げることができます。一般的には発光特性に特殊な性質を持つランタノイドが用いられています。現在は研究段階ですが、今後の発展が望まれています。
デザイン性に富んだ太陽電池
一般的なイメージでは、太陽電池パネルは濃い青色のパネルを思い浮かべることかと思います。最近ではその一般的な青色のパネル以外にもデザイン性に富んだ太陽電池が開発されています。
透明な太陽電池
光の波長と色には密接な関係があります。人間の目に見える可視光と呼ばれる約400nmから800nmの範囲に入らない波長の光は、人間の目には見えません。その目に見えない波長の光を利用して発電する透明な太陽電池の研究・開発が進んでいます。従来の太陽電池は可視光を吸収するために色のついたものである必要がありましたが、不可視光の吸収を可能とする新しい太陽電池には色をつける必要がないということです。透明な太陽電池を利用すれば、太陽電池の機能を持つ窓ガラスの開発なども可能になってきます。
カラフルな太陽電池
透明な太陽電池とは対照的に、先述の色素増感型に適当な色素を用いることで、カラフルな色を持つ太陽電池も作製することができます。この性質を利用して、ステンドガラスの太陽電池なども近々登場するかも知れません。
今後の展望
太陽光発電は今後も注目の集まる再生可能エネルギーの一つです。今後は大規模商用化へ向けたさらなる低コスト化や、集約型施設へ向けた高効率化のみならず、新型の登場により新たな需要の創造も実現していきそうです。
各技術の詳細や今後の可能性については様々な説があり、専門的な領域になるとさらに多くの科学的な背景や前提知識や条件が必要になるため、詳細の内容については専門書をあたられることをお勧めいたします。また例としてあげた代表的な企業以外にも取り組んでいる団体は多岐にわたりますので、詳細につきましては自ら更なる調査されることをお勧めいたします。
文:サステナビリティ研究所研究員 ケンブリッジ大学 篠原肇
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