【金融】世界と日本のESG投資 〜Global Sustainable Investment Review 2016まとめ〜 2017/03/29 体系的に学ぶ

 世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)。2年に一度、ESG投資の統計報告書「Global Sustainable Investment Review(GSIR)」を発表しています。このGSIRは、ESG投資の実態を知る上で非常に貴重なデータで、ESG投資統計として世界中で参照されています。最新版となる2016年統計をまとめた「GSIR 2016」が3月27日に発表されました。

 GSIAは、世界各地域のESG投資協会6団体が加盟しています。加盟団体は、米国のUSSIF、欧州のEurosif、英国のUKSIF、オランダのVBDO、カナダのRIA Canada、オーストラリアのRIAAです。その中で、英国のUKSIFとオランダのVBDOは、欧州全体をカバーするEurosifの加盟団体であるため、報告書「GSIR」の発行は、米国のUSSIF、欧州のEurosif、カナダのRIA Canada、オーストラリアのRIAAの4団体が共同で作成しています。またGSIRの作成に当っては、世界の幅広い地域を包括するため、国連責任投資原則(PRI)が日本以外のアジア地域のデータを、日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が日本のデータを提供しています。いずれの地域協会も、関連機関投資家に調査票を送り、回収する形で情報収集をしています。

 また、南米では2013年にLatinSIFが組成されましたが、まだ地域統計を収集できるまでには成長できていません。中東アフリカ地域ではまだ地域協会が誕生していません。

ESG投資の種類

 GSIAは、ESG投資を以下の7つに分類しています。前の6つが投資ポートフォリオを作るためのESG投資の戦略。最後の「エンゲージメント・議決権行使型」は、投資前後の投資(候補)先企業へのエンゲージメントや議決権行使を積極的に行う、いわゆる「アクティビスト(物言う株主)」型の戦略です。7つの戦略は重複しても用いられることも多く、特に前6つと「エンゲージメント・議決権行使型」は重複することが多くあります。

1. ネガティブスクリーニング(Negative/exclusionary screening)
 1920年代に米国のキリスト教系財団から始まった最も歴史の古い手法。今では欧州でも広く普及しています。武器、ギャンブル、たばこ、アルコール、原子力発電、ポルノなど、倫理的でないと定義される特定の業界に属する企業を投資先から除外する戦略。

2. ポジティブスクリーニング(Positive/best-in-class screening)
 1990年代に欧州で始まった手法。同種の業界の中でESG関連の評価が最も高い企業に投資する戦略。ESG考慮の高い企業は中長期的に業績が高くなるという発想に基づく。ポジティブスクリーニングをすると、投資ユニバース(投資先企業リスト)が非常に小さくなると言われることもあり(一説では30%から70%小さくなる)、下の規範に基づくスクリーニングを推奨する専門家も少なくない。

3. 規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)
 2000年代に北欧で始まった比較的新しい手法。ESG分野での国際基準に照らし合わせ、その基準をクリアしていない企業を投資先リストから除外する手法。ポジティブスクリーニングに比べ投資ユニバースを大きくすることができると評価する専門家もいる。

4. ESGインテグレーション型(ESG integration)
 最も広く普及しつつある手法。投資先選定の過程で、従来考慮してきた財務情報だけでなく非財務情報も含めて分析をする戦略。特に年金基金など長期投資性向の強い資金を運用するファンドなどが、将来の事業リスクや競争力などを図る上で積極的に非財務情報(ESG情報)を活用し、アルファ(市場平均よりも大きなリターン)を目指すために用いられることが多い。

5. サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed investing)
 サステナビリティを全面に謳ったファンドへの投資。サステナビリティ関連企業やプロジェクト(特に再生可能エネルギー、持続可能な農業等)に対する投資が有名。太陽光発電事業への投資ファンド、グリーンボンドなどもこのカテゴリーに属する。

6. インパクト投資型(Impact/community investing)
 社会・環境に貢献する技術やサービスを提供する企業に対して行う投資。比較的小規模の非上場企業への投資が多いため、このタイプのファンドの運用はベンチャーキャピタルが行っていることも多い。最近では個人投資家からも資金提供を募ることも増えてきた。インパクト投資の中で、社会的弱者や支援の手が行き届いていないコミュニティに対するものは、コミュニティ投資と呼ばれる。

7. エンゲージメント・議決権行使型(Corporate engagement and shareholder action)
 株主として企業に対してESGに関する案件に積極的に働きかける投資手法。株主総会での議決権行使、日常的な経営者へのエンゲージメント、情報開示要求などを通じて投資先企業に対してESGへの配慮を迫る。近年は、気候変動関連や役員報酬(SAY ON PAY)に対して声を上げることが多い。このタイプの手法をとる株主は「アクティビスト」「物言う株主」とも呼ばれる。

世界のESG投資額


(出所)GSIA “2016 Global Sustainable Investment Review”

 2014年から2016年までの2年間で、世界全体のESG投資額は25.2%増加し、22兆8,900億米ドル(2,541兆円)となりました。年平均(CAGR)にすると11.9%成長しました。しかし、前回2012年から2014年までの2年間では61%増加しており、成長が鈍化しています。

ESG投資が全体に占める割合


(出所)GSIA “2016 Global Sustainable Investment Review”

 今回の報告で目立つのは、日本の急成長です。2014年時にはアジア全体に包括されておりデータがありませんが、前々回の2012年時には0.2%だったがの、今回は3.4%にまで増加しました。金額でも2014年の70億米ドルから4,740米ドルへと約7倍弱となっています。その背景としては、私見ですが、やはりGPIFがPRIに署名し、日本でESG投資という言葉が広がり始めたことがあると言えるのではないでしょうか。

 またオーストラリアとニュージーランドの成長も注目に値します。2014年には16.6%であったが割合が、2016年には半数超えの50.6%となりました。オーストラリアやニュージーランドでも年金基金を中心にESG投資の採用が進んでいます。

 ESG投資が進まないと言われていた米国でも20%を超えるまでになりました。一方、世界のESG投資をリードしてきた欧州は58.8%から52.6%に下がっています。欧州のESG投資金額そのものは10.8兆米ドルから12.0兆米ドルに11%伸びているのに全体割合が下がったということは、投資市場全体がそれ以上に伸びているということです。ESG投資ではないどのような手法が増えているかについては、報告書の中では説明がありません。また、データ提供をしたEurosifの「SRI Study 2016」の中でも、全体割合が下がった旨の説明等はなく、今後関係者からの報告が待たれます。しかしながら、限られた調査票統計の形をとっていたり、GSIAはEurosifから得たデータを独自に分類・統計をしているため、計算上の誤差の可能性もあり、この点にあまり過敏に反応しないほうがよいでしょう。

各手法ごとのESG投資額


(出所)GSIA “2016 Global Sustainable Investment Review”

 手法別の統計では、歴史のある「ネガティブスクリーニング」が最多。次いで急成長している「ESGインテグレーション」。そして組み合わせで行われることの多い「エンゲージメント・議決権行使型」が3番目です。


(出所)GSIA “2016 Global Sustainable Investment Review”

 前回比では、いずれの手法も伸びていることがわかります。絶対額が小さいため存在感が小さく見えますが、「サステナビリティテーマ投資型」は2.4倍、「インパクト投資型」も2.5倍になりました。背景としては、こちらも私見ですが、グリーンボンド市場の活発化によりサステナビリティテーマ投資が増えてきたこと、また国連持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を意識したインパクト投資型が増えてきたことが影響しているでしょう。

【報告書】Global Sustainable Investment Review 2016
【機関サイト】GISA
【参考】【金融】世界と日本のSRI・ESG投資最前線(2014年6月30日)

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長兼サステナビリティ研究所所長

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