【インド】気候変動とコメ農家のサステナビリティ。伝統的コメ品種復興運動が示すもの 2017/10/11 最新ニュース

 コメ生産大国のインドで、伝統的コメ品種への回帰運動が起きている。政府が高収率のハイブリッド米の品種を強力に推し進めてきた一方、インド東部のオーディシャ州コラプット地域では、1,400人以上の農民が「遺伝的資産」としての先祖伝来の米の品種を守るために運動を展開している。インドでは、気候変動がコメの生産にも影響を及ぼしており、不作や借金等による農民の自殺も相次いでいる。その中、地元の生態系に適応している先祖伝来の品種が、害虫や干ばつ等への耐性が高いことが再び注目を集めている。

 インドでは、半世紀前には10万種類以上のコメが栽培されていた。味や栄養素の多様性、害虫耐性を持ち、長い年月をかけて厳しい自然環境へ適応してきた品種たちだ。しかし今日、このような多様な品種の多くは消失している。背景には、政府によるハイブリッド米の水深があり、現在インドの稲作面積の80%以上をハイブリッド米が占めている。農民に高収入をもたらす筈だったハイブリッド米だが、気候変動への耐性は低い。

 その中、生態学者であるDebal Deb博士は、インド東部のオーディシャ州コラプット地域で、伝統的コメ品種の生産運動を展開している。同地域では、かつて1,700種以上のコメ品種が栽培されていたことが記録されており、コメの多様性に富むことで世界的に注目されていた。このことにDeb博士が着目し、コメ品種の遺伝的資産を収集し、保護する活動を開始。収集した種が「絶滅危惧種」にならないよう、農家が種を栽培し流通させるよう取り組んでいる。

 同地域の農民は、政府が推奨したハイブリッド米「sarkari dhaan」に対し、先祖伝来のコメ「desi dhaan」を放棄しない経済的理由についてこう語る。ハイブリッド米では次のシーズンに蒔く種籾(たねもみ)を買い続けなければならない。しかし、desi dhaanの場合は、種を慎重に保管すれば次のシーズンに使用できるという。また、ハイブリッド米を栽培にするには、土壌の質や生物多様性に悪影響を及ぼす農薬を継続的に使い続けなければならない。さらに、試験場や研究室で生育されたハイブリッド米は、機械化による型通りの集中的な農業のために設計されており、大量の化学肥料と水供給を前提としている。しかし、起伏のある土地や予測できない天候といった変化の激しい条件には適していないという。

 一方、昔ながらの「desi dhaan」は、河岸沿いの洪水可能性の高い地域でも育ち、害虫にも強い。数種の伝統的品種が現代品種よりサイクロンに耐えたという報告や、干ばつや降水量の少ない条件でも適応できたという報告もある。また、伝統的品種が持つ長い茎は、家畜のための飼料、土壌の覆い、家の茅葺き屋根等にも使える。ハイブリッド米にはない甘い香りを持ち味も勝る伝統的品種もあるようだ。

 今年7月にカリフォルニア大学バークレイ校の研究者によって発表された論文「Crop-damaging temperatures increase suicide rates in India」によると、インドの過去30年間の稲を含む農作物の生育期に発生した農民の自殺は59,300件。年平均だと約1,977件だが、2014年まで同国では自殺が犯罪扱いだったため、実際の自殺者はもっと多いと同論文は指摘している。生育期の気温が20℃以上となると、1℃の気温上昇により70人の自殺者増加に繋がるという計算も発表されている。同国の農民の自殺に関しては、気候変動との関係が必ずしも明らかでないものも含めると、1995年以来全土で30万人以上に達するという。

 運動を率いるDeb博士は、多数のコメ品種を存続させること自体が運動の最終的な目的ではないという。コメの持続可能性を追求することは、社会の持続可能性を築く方法を自問するきっかけとなる。干ばつ、土壌劣化、温室効果ガス、農民を自殺へと追い込む負債等、インドが直面している問題を改めて捉えなおすことこそが、本来の目的なのだと語る。コラプット地域の農民たちも、種や殺虫剤等の販売業者、政府補助金や銀行融資等、外部機関への依存を減らし、耐性の高い品種を復活させる道を模索している。

【参照ページ】Why India’s farmers want to conserve indigenous heirloom rice
【参照ページ】Suicides of nearly 60,000 Indian farmers linked to climate change, study claims
【論文】Crop-damaging temperatures increase suicide rates in India

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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