米環境保護庁(EPA)は8月31日、石炭火力発電所の排水規制基準を緩和する改訂案の最終版を公表した。同規制はオバマ政権時に厳格化された内容を緩和するもので、トランプ大統領が掲げるエネルギーの政策の一環として位置づけられる。
今回の改訂は、石炭燃焼を伴う発電所内でのごみの流れにおける取り扱いで、「脱硫排水」と「ボトムアッシュ用の輸送水」が対象。脱硫排水とは、石炭火力発電所などの排ガス中から硫黄酸化物(SOx)を除去する装置から排出される排水のこと。他方の「ボトムアッシュ(BA)用の輸送水」は、ボイラーの底に残った石炭灰を蒸工程から運び去るために使用される水のことを指す。
オバマ政権は2015年、1980年から続いていた規制を厳格化し、発電事業者に対し、地域の水質に関するモニタリングと情報開示を義務付けた。これにより発電事業者が排水浄化を自主的に実施し、水系に排出される鉛、セレン、ヒ素等を年間で約64万t削減することを狙った。一方で、排水浄化装置の導入で石炭火力発電事業者には合計で年間4.8億米ドル(約510億円)のコスト負担になっていた。オバマ政権は、排水規制基準(ELGs)と大気浄化法(CLA)により、石炭火力発電所の競争力を下げ、ガス火力発電や再生可能エネルギーへの転換を狙った。また当時EPAは、新規制により医療費削減等の効果があると正当性を示していた。
これに対し、トランプ政権は今回、排煙脱硫装置とボトムアッシュ水の規制を緩和し、2015年の規制前の水準にまだ戻す。オバマ政が導入したELGsは、石炭火力発電推進州や連邦政府の中小企業庁から撤回の要請を受けており、トランプ政権誕生後にすぐに見直す手続きに着手していた。今回の改訂では、2028年までに廃止予定の石炭火力発電で稼働率の低い一部の発電所に対しては無規制にすることも定めた。
EPAは今回の改訂により、発電事業者は年間で1.4億米ドル(約150億円)のコスト削減が可能となると試算。さらにオバマ政権時の規制よりも汚染物質を年間約450t削減できるとの見通しも示したが、関係者からは水質が悪化すると懸念の声が上がっている。
今回の石炭燃焼を伴う発電所の排水規制基準の改訂発表を受け、米イリノイ州の環境保護団体「Clean Power Lake Country」の共同議長で、米電力会社大手NRG Energyの石炭火力発電所から1.5マイル先の地域に住むダルシー・オルティス氏は、家族や近所の住人は、すでに喘息やその他の呼吸器系の症状を抱えており、こうした症状は地域の汚染問題と関連しているとコメント。今回の規制緩和に対する懸念を示した。
【参考ページ】EPA Finalizes Power Plant Effluent Limitation Guidelines that Save Money and Reduce Pollution
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