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【環境】石炭火力から木質バイオマスへの燃料転換の可能性~米国産業用木質ペレット協会(USIPA)の視点~

【環境】石炭火力から木質バイオマスへの燃料転換の可能性~米国産業用木質ペレット協会(USIPA)の視点~ 1

 今年7月に経済産業大臣により「非効率石炭火力のフェードアウト」が発表され、これを受けて具体化に向けた議論が開始された。その議論の中で、実行するためには各種課題があることが指摘されている。政策目的にかなう選択肢の中で、既設の石炭火力設備を木質バイオマス専焼に転換する選択肢の検討が抜け落ちているように見受けられるため、ここではその実現可能性と便益に関して説明したい。

火力の調整力を維持し低炭素化

 出力の不安定性、即ち間欠性を特徴とする太陽光や風力などの再エネの導入量が今後増加するにつれ、出力調整が可能で系統を安定化させる火力発電の価値は増していくことになる。(*1)蓄電池の能力向上により再エネの間欠性の問題が解決されるかのような議論があるが、数時間から1日間の調整のみでなく、季節を超えて蓄電が可能な能力を持つ大型蓄電システムの商用化は現状では目処が立っていない。(*2)

 持続可能なバイオマスへの転換であれば、火力の調整力を活かしつつ低炭素化を実現することができる。同時に火力発電の運転のためのノウハウや雇用も維持されることになる。低炭素化を実現するバイオマス発電の特徴に関し、以下2点に留意しておきたい。

(1)ライフサイクルベースで85%以上の温室効果ガスを削減

 米国産木質ペレットを、石炭からバイオマスへ転換した英国の発電所で使用する事例は以下グラフの通りであり、燃料の製造・陸上輸送・海上輸送・消費等のライフサイクルで排出される温室効果ガスを計量したライフサイクルベースで、石炭と比較し85%以上の排出削減につながる。

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(出所)Electricinsights.co.uk

(2)高い炭素投資収益率

 単位あたりの資金を投じてどれだけの炭素排出削減が実現できるかの指標として「炭素投資収益率」(Carbon Return on Investment)がある。既設石炭火力を木質バイオマス転換する場合が最も利回りが高く、従って資金効率よく排出削減できることが分かる。なお、この中では太陽光と陸上風力の利回りが最も低い。

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(出所)Boundless Impact Investing

新設と比べ低コスト

 日本における新設の木質バイオマス発電は、FIT法に基づく固定買取制度により成長してきている。国産材を用いたバイオマス発電(2MW以上)は32円/kWh、輸入材(2016年度認定分まで)は24円/kWhの買取価格であるため、総じて高コストと言われることが多い。(*3)100MW前後までの小型のバイオマス発電所を新設するならば、必要な初期投資額、小型ゆえの低い熱効率、既設発電所に劣後する立地条件等から24円/kWh程度が必要で妥当な水準といえる。(*4)

 これに対し、既設の石炭火力設備を木質バイオマス専焼 に転換すると低コストな発電が可能となる。持続可能なバイオマス利用で先行する欧州では、既設の大型石炭火力を燃料転換し、資本投資を抑えながら低コストで使用する例が数多くある。最大手の英国Drax社は、同社の石炭火力650MWを4基、木質ペレット用に転換済みで、同発電所のみで英国内の電力を約11%供給している。うち一号機に適用される補助制度CfD(Contract for Difference)は、2019年末時点で15~16円/kWh程度であった。(*5)日本でも同様な大型・高効率の石炭火力を燃料転換するならば、同程度の仕上りとなると予想される。但し、それでも系統電力価格並みとはならないため、FITより低額の何らかのコスト補填措置(改修のための資本投資額、燃料費の差額相当)が必要となる。

確立した技術、迅速性、安全性

 上述の通り、英国含む欧州では石炭火力を木質バイオマスへ燃料転換、またはバイオマス混焼率を高めていった例が複数あり、これらの石炭(微粉炭)ボイラーの多くで日本のボイラーメーカーが受注し改修した実績がある。(*6)

 微粉炭ボイラーでの利用に適しているのは木質ペレットであるが、水濡れを防止するための専用の倉庫・サイロ等への投資や、ボイラーの一部改修等が必要となるものの、既存の発電設備と関連インフラをほぼそのまま活用できるため、2~3年で迅速に燃料転換が実現できる。

 また、発電利用が期待される気体の水素やアンモニアと比べ、固体の木質ペレットは輸送・保管を含めた取扱いが容易で、安全性が高い。利用に際し発電所が立地する地元からの理解も得やすいであろう。

木質バイオマスの大規模・安定供給

 では、石炭を代替するだけの充分な木質バイオマス資源量はあるのだろうか。日本の石炭(一般炭)の年間輸入量は1億トン強と膨大である。いわゆる「非効率石炭火力」とされるのは104基・約22GW相当であり、この全量を石炭から木質バイオマスに切り替えるならば、少なくとも年間85百万トン規模の木質バイオマスが必要となる。

 全世界を見渡すと、森林資源が大規模に賦存する地域が幾つかあり、米国南東部、カナダ、ロシア等が代表的である。このうち、石炭代替に適した持続可能な木質ペレットの生産量では米国は年産約800万t、次いでカナダ約300万t等であり、一方全世界の木質ペレット需要は2020年で年間4,000万tの見込みである。(*7)

 米国南東部は、米国内の他地域や他国と比較し、需要の成長を満たしていく条件を備えている。米国南東部の面積のうち森林が57%を被覆しており、1950年代より森林蓄積量は2倍以上にまで成長を続けている。同地域での木材伐採量は全資源量に対し2.5%程度であり、残りの97.5%の森林は様々な再生長段階にある。この2.5%の伐採量のうち、持続可能な木質ペレット用途は3%未満に留まっている(この年間3%が年間8百万トンの生産量に相当する。グラフの青色箇所)。米国南東部で森林蓄積量を増加させつつ、生産規模を拡大し、日本での石炭利用を代替していく余地が充分にあることは明らかである。

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(出所)Forest2Market

 バイオマス燃料の種類は数多いが、世界で統一された規格・仕様が存在するといえるのは木質ペレットのみであり(*8)、海上貿易・貯蔵・交換が容易なエネルギー・コモディティとしての特質を備えつつある。市場の拡大と流動性の向上が進めば、供給安定性は高まっていく。地産地消の持続可能なバイオマス利用を基本としながらも、エネルギー・コモディティ化が進む木質ペレットを併用することにより、相互に補完し供給安定化を図ることができる。(*9)

森林の持続可能性

 木質ペレットの大規模な増産が可能な米国南東部では、健全な森林が存在し、数多くの小規模な森林保有者により林業が継続して行われている。ペーパーレス化の流れを受け、低価値木材の従来の需要先であった紙パルプ用途は伸びておらず、このうちごく一部分を木質ペレット用途が置き換えている状況にある。重要な点は、森林保有者は高価値木材を目的として木を伐採するのであり、低価値の木質ペレットを目的として伐採するのではないということである(高価値木材は低価値のそれより9倍ほど価格が高い)。森林保有者としては高価値の製材用木材からの販売収入が大きいが、低価値部分も含めて収入が最大化されれば、再生長や再植林を通じて森林を維持するインセンティブが働く。

 米国南東部では、過去60年間に亘り、森林蓄積量は一貫して増加を続けており、炭素蓄積が継続して進んでいることがわかる。
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(出所)USDA

 米国南東部全体では森林の成長量の伐採量に対する比率は約1.7であり、これは1トンを収穫するたびに同時に1.7トンの資源量が増加していることを意味する(「負の減耗」と呼ぶ)。林産物への需要が強いと森林が成長するという関係にある。森林保有者にとって高価値から低価値にわたる林産物の健全な市場が存在することが、森林を維持し生長させる上で重要である。

 なお、米国のバイオマス生産者は、FSC、PEFCやSBP等の第三者機関による認証を複数取得しており、サプライチェーン全体の持続可能性に留意し、高い保全価値を持つ地域を保護し、生物多様性や絶滅危惧種の保護を確保している。

おわりに

 石炭から木質バイオマスへの燃料転換の実現可能性とその便益について以上述べてきた。「非効率石炭フェードアウト」の政策目標として、火力発電の調整力と関連の雇用を維持しながら、投じる資金あたりの炭素削減量を最大化し、必要な追加コストを最小化し、技術リスクなく大規模・迅速・安全に系統を低炭素化させることを目指すならば、欧州の先行例に倣い、大規模・高効率な石炭火力に対し必要な制度支援を行って順次、持続可能な木質バイオマスへ転換していくことがこの目標達成に資するといえる。石炭からバイオマス転換した火力発電を再エネと呼ぶならば、系統制約の問題等に悩まされることなく「再エネの主力電源化」の目標にも直ちに貢献することになろう。

————————————————
(*1)火力発電に内在するkW価値と⊿kW価値に値付けを行う仕組みが容量市場と需給調整市場といえる。制度の詳細は電力広域的運営推進機関のウェブサイトを参照。
(*2)FutureMetrics LLC “Power Generation in the Future – Wind, solar and battery need help in the transition to a more decarbonized power generation sector (October 19th, 2020)”によれば、米国最大の蓄電容量を持つ系統PJMでも調整能力は数十分間程度。
(*3)資源エネルギー庁 固定買取価格制度
(*4)一定規模以上の輸入材のバイオマス発電の買取価格は、2017年度は21円/kWh、2018年度より入札に移行したが、21円又は入札価格ベースで投資決定に至った新設案件は本稿執筆時点では存在しない。
(*5)Drax 2019 Annual reportによれば、2019年12月31日時点のStrike Priceは£113.65/MWhとある。£=140円で換算すれば、15.91円/kWhとなる。
(*6)三菱重工技報Vol.56 No.3 (2019)によれば、三菱日立パワーシステムズ(現:三菱パワー)は、イギリス・デンマーク・カナダで大型石炭火力をバイオマス専焼または高混焼に改造した実績がある。
(*7)国別生産量はBioenergy Europe Statistical Report 2019データの正確性に疑問のある中国の生産量20百万トンをここでは除く。2020年の需要見通しについてはHawkins Wright “The Outlook for Wood Pellets – Second Quarter 2020”に基づく。
(*8)EEFT(European Federation of Energy Traders)によるIndividual Biomass Contract – Annex BにIndustrial 1/2/3の仕様が掲載されている。大規模な熱・電力用途であればIndustrial 2が一般に用いられる。
(*9)カリブ海にあるフランス海外県マルティニークでは、国内のサトウキビ残渣であるバガスと輸入木質ペレットを併用しバイオマス発電を行っている。Galion 2 power plant

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宮田 滋央

米国産業用木質ペレット協会(USIPA) 在日代表

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