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【対談】JICAと三菱UFJモルガン・スタンレー証券、起債を通じたジェンダー課題におけるインパクト創出

【対談】JICAと三菱UFJモルガン・スタンレー証券、起債を通じたジェンダー課題におけるインパクト創出 1

 日本の政府開発援助(ODA)の実施機関である国際協力機構(JICA)では、開発途上国に低利で長期返済が可能な資金を融資する「有償資金協力」、所得水準の低い開発途上国を対象に返済義務のない資金を贈与する「無償資金協力」、日本の技術・知識・経験を活かし、開発途上国の人材育成や政策制度作り等を支援する「技術協力」等を通じ、開発途上国の経済・社会の発展を支援している。

 有償資金協力事業では、インドの交通インフラ整備や、タンザニアの農業生産性向上等を実施しており、2023年度の承諾実績は、23か国・1機関に対し計56件、2兆4,643億円に達した。国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標9(レジリエントなインフラ構築)、11(レジリエントで持続可能な都市および人間居住を実現)、13(気候変動対策)に関する事業が多くを占めている。

 またJICAでは、人間の安全保障の視点に基づく公正で持続可能な開発の実現に向けて取り組むべき重要な課題としてジェンダー問題を位置づけ、ジェンダー平等と女性のエンパワメントにも注力。2021年9月には、新型コロナウイルスの感染拡大により、開発途上国において女性の所得機会や教育機会の減少・喪失、家庭内暴力の増加等の問題が深刻化していることを背景に、国内初のジェンダーボンドも発行した。その後2024年1月には調達資金に係る充当事業や事業効果等を取り纏めたインパクトレポートを公表し、2024年11月には、第2回となるジェンダーボンドを発行した。

 そこで今回、ジェンダー課題解決に向けた発信として、JICAのこれまでの取り組みやジェンダーボンド発行によるインパクト評価等について、同ジェンダーボンド発行で主幹事を務めた三菱UFJモルガン・スタンレー証券とともに振り返るべく、JICAの平田上級審議役、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のESGファイナンス&新商品室の田村室長、当社CEOの夫馬賢治との間で鼎談が実施された。

【対談】JICAと三菱UFJモルガン・スタンレー証券、起債を通じたジェンダー課題におけるインパクト創出 2
(右) 平田 仁 国際協力機構(JICA) 上級審議役
(左) 田村 良介 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 ESGファイナンス&新商品室長
(中央)夫馬 賢治 ニューラル代表取締役CEO

ジェンダー平等に関する問題意識

夫馬
 JICAが発行する財投機関債及び政府保証外債は、すべて貴機構の「JICA ソーシャル/サステナビリティボンドフレームワーク」に基づくESG債(ソーシャルボンド/サステナビリティボンド)として発行されていますが、財投機関債では毎年1回「テーマ債」という形でさらに特定のテーマを掲げた債券を発行されていますね。そして、今回のジェンダーボンドは2021年9月に続いて2回目の発行となります。なぜ再度ジェンダーというテーマを選んだのか、その背景やジェンダーに対する問題意識について教えてください。

国際協力機構(JICA) 平田氏
【対談】JICAと三菱UFJモルガン・スタンレー証券、起債を通じたジェンダー課題におけるインパクト創出 3 JICAでは、女性のエンパワメントを推進し、ジェンダー問題を解決することが、開発途上国の経済・社会に大きなインパクトをもたらすと考えています。2018年6月には、G7各国の開発金融機関が主導し、ジェンダー平等に資する民間投資を促進する「2Xチャレンジ」(女性のためのファイナンス)が設立され、2Xチャレンジに該当する複数の案件を承諾する等、これまで開発途上国の女性をサポートする様々なプロジェクトを手懸けてきました。

 そうした中、新型コロナウイルス・パンデミックが発生。特に女性には、サービス業や小売業従事者が多かったため、仕事を失い貧困に陥るケースがありました。さらに家庭での家事負担や介護負担の増加、ドメスティック・バイオレンスの増加も見られました。そこで「コロナ危機とは、実は女性の危機」だということをメッセージとして伝えるべくジェンダーボンド発行を決定しました。

 1回目のジェンダーボンドは2023年度に充当を完了しましたが、その後もコロナ禍に拡大したジェンダー格差は継続しています。また、近年ウクライナやガザ等、世界中で紛争が増えていますが、武力紛争の下で最も影響を受けるのもやはり女性等です。女性のエンパワメントに加え、紛争下の女性に対するサポートの重要性を改めて発信したいという思いから、今回2回目のジェンダーボンドを発行するに至りました。「女性・平和・安全保障(WPS)」 の観点からも、ジェンダーの問題は、注目すべきだと考えています。

前回起債のジェンダーボンドとの変化

夫馬
 ジェンダーのような長期課題でインパクトを出すためには、長期的なファイナンスが重要になります。JICAでは、2021年の第1回に10年債と20年債、今回2024年の第2回に5年債と10年債としてジェンダーボンドを発行されていますね。前回と今回の起債で進化させたことや工夫されたことはありますか。

JICA 平田氏
 資金使途や目指していくインパクトに大きな変化はありませんが、今回は世界中の紛争や災害に対して脆弱な層に女性が多いという課題意識を改めて喚起するようメッセージを出していることが工夫した点だと考えています。

 類似するテーマとして、JICAは2022年に「ピースビルディングボンド」、2023年に「防災・復興ボンド」を発行していますが、今回はジェンダーという視点の中で紛争や平和、災害を捉えました。これは、第1回ジェンダーボンドが投資家だけでなく他の債券発行体からも高い関心を持っていただけたことや、近年、日本政府含め「女性・平和・安全保障(WPS)」といった、女性やジェンダーの視点に立った取り組み推進に関する議論が活発化していることが背景にあります。

 JICAでは元々、バングラデシュでの地下鉄や都市交通の整備等、30年や40年の超長期の貸付となる大規模インフラ融資が多くあります。一方、第1回ジェンダーボンドで資金充当した事業は2Xチャレンジ案件が多く、JICAが開発途上国の金融機関に貸付を行い、その金融機関を通じて実際に女性起業家が融資を受けるまでの期間が比較的短いという特徴がありました。その意味では、JICAにおいてジェンダーというテーマは相対的に5年債との相性が良いという見方もできます。前回のジェンダーボンドは10年債と20年債での発行となりましたが、上記のような2Xチャレンジの特徴の他、JICAジェンダーボンドへの投資を通じてジェンダー問題に目を向ける投資家の門戸を拡げる観点からも、今回新たな年限として5年債を加えることを決定しました。

 もちろん実際には2Xチャレンジに参加する開発途上国の金融機関は、返済後も繰り返しリボルビングするため、女性起業家への支援は続いていきます。また比較的短く融資が終わる場合も、実際のインパクトが創出されるまでには長い時間を要しますので、JICAとしては貸付後の事後評価を大切にしています。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 田村氏
【対談】JICAと三菱UFJモルガン・スタンレー証券、起債を通じたジェンダー課題におけるインパクト創出 4 今回は、前回と比べ機関投資家以外の投資家からも参加いただいており、テーマ債を通じて、JICAの発信やジェンダー課題の解決に対する社会的意義が浸透している実感があります。また前回のジェンダーボンドから連続して参加いただいている投資家もおり、継続して起債いただくことの重要性を感じています。

JICA 平田氏
 JICAとしても良い反応が得られたと感じています。特に、開発途上国の文化を尊重しつつ、テクノロジーの力でジェンダー問題の解決に貢献した経験は、投資家の皆さまから好意的なフィードバックをいただきました。具体的には、国民の90%以上がイスラム教徒であるバングラデシュでMRT(大量高速輸送システム)を整備した際に、女性の民族衣装であるサリー巻き込み防止装置を設置したり、女性専用車両を導入したり、女性にも安心して公共交通機関を利用いただけるよう工夫しました。その他にも、男性の車掌に直接現金を渡すことが好まれないという事情があったことから、交通系ICカードの「ラピッドパス」を導入し、タッチだけで乗降できるようにしました。投資家の皆さまからは、「ジェンダーの観点で実現できる資金使途の裾野はかなり幅広いね」という評価もいただいています。

 このように起債を通じて市場とのコミュニケーションができることがありがたいですし、市場からの反応が良ければJICA内での担当事業部のモチベーション向上にも繋がります。外部発信だけでなくJICA内部向けのコミュニケーションという意味でもテーマ債発行の意義を感じています。

インパクトレポート発行の成果

夫馬
 第1回ジェンダーボンドの発行に紐づけ、2024年1月にはインパクトレポートも公表されていますよね。このレポートの中で、インパクト指標や目標については一律ではなくプロジェクト毎に設定されていることに気がつきました。指標や目標の設計ではどのような議論がありましたか。

JICA 平田氏
 まさに指標については、工夫が必要な部分です。例えば、効果測定に最適な指標をJICAから提案しても、相手国側で指標に関するデータを収集できない場合があります。相手国が元々データを保有していれば良いですが、効果測定のためだけにデータを作る必要がある場合、それはサステナブルではありません。そのため案件採択の際には、相手国と指標に関する議論を行うようにしています。結果として、同じジェンダーを対象にした案件であっても指標がそれぞれ異なっています。

夫馬
 ジェンダー分野での目標は、社内で設定するだけでも難易度の高い作業です。さらにJICAでは、開発途上国の社会に対するインパクト指標を設定し、融資先である相手国政府や関係する機関と合意しなければならない難しさがあるのではないでしょうか。

JICA 平田氏
 仰る通り、各事業のインパクト指標や目標は、事業実施前に妥当性や効果を分析する調査の中で検証しますが、指標に合意するまでの期間は、1年程度かそれ以上を要します。相手国政府と指標や目標に合意しても、実際にデータを収集してくれるかは、動き始めるまでわからない場合もあります。そこで事業によっては、データ収集を支援するコンサルティング・サービスを付帯することもあります。ただし、コンサルティングありきの支援にしてしまうとそれもサステナブルではなくなってしまうため、相手国との指標の議論の際に、できる限り相手国政府・機関で取得可能なデータを選定していくことが重要です。

 JICAは、開発途上国に多くの拠点を持っていることを強みの一つとしていますので、駐在員が相手国政府や機関と緊密に連絡を取り、融資先案件の状況や問題を確認することで、開発途上国でのインパクト創出に取り組んでいます。また複数の有償資金協力では、様々な分野の専門家が現地に駐在しており、技術指導を行うことができる体制を整えています。こうした備えもあり、ジェンダー目標は当初約束したものを前提に現在も進めることができています。

 昨今マイクロファイナンスの分野では、受益者のファイナンスダイアリーを取得・モニタリングする企業も出てきていますよね。デジタル化が進むことで、より効果的なデータ取得ができるようになることに期待しています。例えばJICAであれば、融資先の相手国の女性起業家が行う事業がどの程度大きくなり、融資を受けた女性の福祉や収入がどの程度改善したかまでモニタリングできるのが理想です。

夫馬
 レポーティングでは、JICA内でプロジェクトを見ている事業部門と財務部門との間でのコミュニケーションも重要となりますが、どのような工夫をされていますか。

JICA 平田氏
 日常的にコミュニケーションの機会があるわけではないですが、JICAが機構全体でインパクトを大事にしていることや、活発な部門間異動があることで、財務部門が事業側の考えを理解した上でコミュニケーションできていると感じています。財務部門で起債・充当した案件について、事業部門への異動後に自身で担当する場合もあります。これにより、例えばジェンダーボンドを発行する際にも、調達資金を充当可能な案件がどの程度あるか、当該国で取得可能な指標か等を、財務部門側でもイメージしやすくなっています。

 ソーシャルインパクトに関する指標は、気候変動における温室効果ガス排出量削減と比べて定量的な指標を取得することが難しく、分野別に最適な指標が異なるという特徴があります。だからこそ事業部門の現場での経験や、事業担当者の声を聞くことが重要です。

 一方、終了した事業に対し、その後も効果が発現しているか等を検証する「事後評価」は、原則として案件終了3年後までに実施しますが、3年経過後に実施することもあり、配置人員の異動等がコミュニケーションの弊害となることがあります。事業形成から事後評価まで上手く繋いでいく仕組みが重要です。どこの組織でも事業形成に注力する傾向がありますが、実際には当初想定通りにいかないケースが少なくないため、途中段階でのモニタリングやその効率化に努めていかなければならないと考えています。

夫馬
 インパクトレポートに対する投資家からの反応はいかがでしょうか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 田村氏
 JICAのインパクトレポートでは、資金充当プロジェクトに関する説明や充当金額に加え、定量的・定性的インパクトが今後どのように示されるかが視覚的に理解できるため、投資家から評価されています。機関投資家側でも、ソーシャルボンド購入後にその投資のインパクトを報告するフローができつつあるため、予見性を持てる点には安心感があります。

 またインパクトレポートに高い評価を得たことで、今回の第2回のジェンダーボンドにも再度投資をしていただくなど、ポジティブな影響が出ていると考えています。

JICA 平田氏
 投資家の方々にインパクトレポートを受け入れていただき、ありがたいです。一方で、インパクト測定やモニタリング、レポーティングは進化し続けており、現状維持ではいられない良い意味でのプレッシャーも感じています。プロジェクトやインパクトの説明が抽象的では、投資家の皆さまにJICAと協働しようとは思ってもらえません。世界銀行など、様々な国際機関でもインパクト評価の手法は試行錯誤されながら磨かれているため、それらも学びながらインパクト評価やレポーティングの仕方を進化させなければならないと考えています。

 現状では、ジェンダーというテーマの中で、取得できる指標がなかなか統一できていません。しかし、JICAが創出したインパクトについて案件単位でなく、機構全体として投資家や国民の皆さまに説明できるよう、インパクトをアグリゲート(統合)できる指標を開発していくということも今後の挑戦だと感じています。

ジェンダー課題解決に向けた今後の展望と期待

夫馬
【対談】JICAと三菱UFJモルガン・スタンレー証券、起債を通じたジェンダー課題におけるインパクト創出 5 ソーシャルインパクトといえば、「ロジックツリー」がよく挙がりますよね。ロジックツリーは扱う難しさがあるものの、ロジックツリーに慣れていくと、インパクトも測定しやすいと考えています。次回インパクトレポートを発行する際には、インパクト指標の結果だけでなく、なぜその指標を選定したのかという背景にあるロジックツリーも是非併せて開示いただくことを期待したいです。ロジックツリーそのものを共有していくことも、よいナレッジシェアになると思いますよ。

JICA 平田氏
 ありがとうございます。JICA自身では気が付かないため、そういったフィードバックをいただけると、JICAが貢献できる箇所を知ることができてありがたいです。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 田村氏
 ソーシャルインパクトについて、企業の間でも、ロジックツリーを用いて説明していこうという流れが生まれています。2024年あたりからは国内の評価機関のオピニオンの中にもロジックツリーの考え方が反映されてきていますので、資本市場でもロジックツリーの認識は年々高まってきています。

国際協力機構(JICA) 平田氏
 JICAでは、案件選定の際にインプット、アウトプット、アウトカムをロジックツリーで整理しています。それをもとに文書を作成しますし、事後評価もそれに基づきアウトプットやアウトカムが出ているかを判断しています。それだけロジックツリーはJICAに根付いていますし、ロジックツリーという言葉がこんなにも社会に広がったことを嬉しく感じています。

 JICAでは、開発途上国で事業を行いたい中堅中小企業の皆さまに対して、JICAがインパクトの整理を支援したりもしていますが、JICAの持つこうしたノウハウを活用する機会をより拡大していきたいと考えています。

夫馬
 最近では、開発協力の分野で培われてきた「変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ:TOC)」という言葉も、海外の機関投資家を中心に頻繁に使われ始めています。変化の理論は、望ましい変化の実現に向け、プロジェクト、プログラム、政策等の介入から目標達成までの介入の道筋の全体像を包括的に検討するフレームワークですが、JICAではどのように全体像を描いているのでしょうか。

JICA 平田氏
 TOCも踏まえて、JICAでは、将来解決したい課題に対する目標を明示し、どういったインプット、論理に基づくとその目標が達成できるかをセクター別に示した「JICAグローバル・アジェンダ:開発途上国の課題に取り組む20の事業構想」という指針を策定しています。さらにそのグローバル・アジェンダに紐づけ、地域や国の実情に合わせたより具体的なクラスター戦略も公表し始めています。

 セクター別に優先課題を特定し、開発途上国の優先度と照らし合わせた上で、日本として何ができるかを整理しているのですが、世界の開発ニーズは膨大である一方、JICAだけで実現できる範囲は限られています。例えば国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けては、年間4兆米ドル(約600兆円)もの資金が不足していますが、政府開発援助(ODA)等の公的な資金は0.2兆米ドル(約30兆円)程度で、必要な金額の5%しかカバーできていません。残りの95%の達成に向けては、民間のファイナンスをいかに動員していけるかが重要になります。

 2023年に日本政府が改定した開発協力大綱でも、まさにCo-creation(共創)がキーワードとなっていますが、社会課題解決を目標とする民間セクターと協働しながら、共にインパクトを作っていきたいと考えています。

夫馬
 まさにファイナンスCOPと呼ばれた2024年の国連気候変動枠組条約第29回バクー締約国会議(COP29)でも注目されたポイントですよね。合意に至った気候変動資金協力目標「新規合同数値目標(NCQG)」では、先進国政府から開発途上国に対してコミットした資金動員額は3,000億米ドル(約45兆円)、さらに民間を含めて1.3兆米ドル(約195兆円)という金額目標が設定されました。このようにいかに民間を巻き込んでいけるかが鍵になっていますし、この民間セクターの資金動員で中心的な役割が期待されているのが証券会社だと考えています。JICAが描く全体像が多くの市場関係者に理解されるといいですね。

 その一方で、米国を中心に反ESG政治運動が始まっていたり、日本のマスコミ等でもこういったニュースを取り上げたりすることも増えています。証券会社が幅広い投資家と向き合う中での気付きの他、改めてJICAとしてジェンダーの課題が今度どう位置づけられていくか、機関投資家や政府等の周辺ステークホルダーに期待することは何かをお聞かせください。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 田村氏
 JICAがESGマーケットを国内で切り開いたことで、環境・社会面のインパクトにつながるESG債の規模は2023年度で5.2兆円にまで広がっており、足下ではインパクト投資についても注目の高まりを感じています。一言にインパクト投資と言っても、社会課題の解決に向けて将来像を見据えて投資先を選定するものや、寄付で成り立っている事業を自走できるように支援するもの等、市場関係者の中で定義にばらつきがあります。しかし、そういった模索の中でも社会課題の特定と優先度の整理を行っている点は共通しています。

 インパクト投資の次の段階は、債券以外の金融技術も駆使して、世界中の社会課題を解決していくことだと考えています。特に日本では少子高齢化も進み、労働の担い手としての女性の役割や女性活躍を啓発していく必要があります。インパクト投資を通じて高まった社会課題への関心を、次の新たなインパクト投資に繋げていくことが重要であり、特に一部の国にて反ESG的な動きがある中でも、そのループを止めないよう、証券会社としての責任を果たしていきたいです。

JICA 平田氏
 反ESG的な動きがある中でも、世界全体としてジェンダー課題を解決していこうという動きは、大きくは変わらないと考えています。むしろジェンダーは、日本においてもまだまだ伸びしろがあります。例えば女性のSTEM教育(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学))は、先進国と開発途上国いずれでも男女差が非常に大きくなっています。STEM教育なしにこれからの産業で求められる人材を作ってはいけないため、この課題を解決するだけでも、社会と経済に対するより良いインパクトが作れると思っています。

 ステークホルダーに期待することとしては、幅広い方々にジェンダー課題の解決に参加いただきたいです。大学で現在の途上国開発の問題等に関する講義をすると、若い方々のサステナビリティやESGに対する関心の高まりを強く感じます。また日本でのインパクト投資の規模も一昨年と去年で2倍程度まで拡大しています。しかし、日本でのインパクト投資の行き先は国内向けがメインで、海外向けのインパクト投資はまだまだ限定的です。開発途上国の社会課題は、地続きで日本にも繋がっていますので、多くの方に開発途上国の社会課題にもっと関心を持っていただけたらと思います。JICAではリテール債も発行していますが、個人の方が気軽に参加できる仕組みが広がることも期待しています。

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Sponsored by: 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 聞き手: 夫馬 賢治(株式会社ニューラル 代表取締役CEO) 執筆: 菊池 尚人(株式会社ニューラル 事業開発室長)

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