Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【従業員】プロボノの戦略的活用方法 〜企業×プロボノ セミナー参加レポート〜 2014/10/30 体系的に学ぶ

pro-bono

日本経済界でも関心が高まるプロボノ

「プロボノ」。ラテン語で「公共善のために」を意味する”pro bono publico”を語源とし、英語でpro bonoと呼ばれている言葉です。日本では、専門的なスキルをもとにしたボランティア活動などと紹介され、通常のボランティアと区別する意味合いで使われています。もともとはアメリカで発展してきたこのプロボノという概念、当初は専門的なスキルが内部調達できないNPOなどに対し、ビジネスパーソンがボランティアとして力を貸すという、個人とNPOの直接的な関係性によって成り立ってきました。そのプロボノが今、海外企業によって、積極的に活用されるようになってきています。そして、この流れが日本にも波及しようとしています。

日本の経済界を代表する組織、経団連。今年9月19日、経団連の中で社会貢献担当者が集まる社会貢献担当者懇親会に、プロボノを推進する2つのNPOが招かれ、国内外のプロボノの状況を踏まえ、プロボノの活用方法に関するプレゼンテーションがなされました。

社会貢献担当者懇談会でプレゼンテーションを行ったNPOのひとつがNPO法人サービスグラント(以下、サービスグラント)です。2005年からプロボノ活動家を登録し、NPOに対して紹介する団体としてスタートしました。2009年にはNPO法人となり、企業に対して積極的にプロボノ活動への参加を呼びかけています。10月29日、そのサービスグラントが経団連会館で「企業×プロボノ セミナー」を開催。企業のCSR部門の方々を中心に約100名が集まりました。私もこのセミナー参加してきましたので、セミナーでの報告内容も踏まえ、プロボノの今と明日をご紹介していきます。

社会貢献活動としての日本のプロボノ

セミナーは、日本企業による事例紹介、海外のプロボノ推進団体からの事例紹介、そして日本での普及に向けたパネルディスカッションの3部構成。冒頭の日本企業の事例紹介は、日本のジョンソン・エンド・ジョンソン社と三菱商事社が担当します。ジョンソン・エンド・ジョンソン社がプロボノを開始したのは今年7月、参加するNPO団体から課題を共有し、それに対しジョンソン・エンド・ジョンソンの社員が業務の知見をもとにアドバイスをするという1日限定のイベントをサービスグラントのサポートのもとで開催しました。ジョンソン・エンド・ジョンソン社が会社としてプロボノを始めるきっかけとなったのは、もともと個人的にプロボノ活動に従事していた同社社員からの紹介でした。プロボノ活動の良さを知ってもらいたいと社内に自ら働きかけた結果、社会貢献活動の一環として会社として取り組むようになったと言います。一方、三菱商事社のプロボノは東日本大震災の被災地支援。すでにのべ3,000人以上がボランティアとして現地入りした他、奨学金や復興融資資金としての資金提供もなされています。

このように、現在、プロボノに取り組んでいる日本企業の多くは、プロボノを社会貢献活動として実施しています。社会貢献活動と言えば、従来はNPOや被災者に対する金銭的な支援が主でした。しかしながら、資金提供は比較的手間も少ないのに対し、プロボノは準備やアフターケアなど労力を要します。それでもプロボノが企業内で機運が醸成されたきた背景には、従業員による「社会貢献したい」という思いがあります。特に最近では若い世代から「何か自分で社会の役に立ちたい」と思う人が増えているようで、プロボノを実施していることで自社に対するロイヤリティも高まっているようです。

この社員からの自発的なプロボノ欲求には、取り組んでいる企業自身もメリットを感じているようです。ジョンソン・エンド・ジョンソン社と三菱商事社のプレゼンテーションの中でも、参加した社員が充実感を得、再度参加したいというフィードバックが多いことも共有されました。また、参加した人々から、日頃接点がない他の部署の社員との交流を通じて社内ネットワークが広がった、NPOへのアドバイスを通じて自身のスキル向上にもつながったという、企業の組織力向上にも繋がるという嬉しい声が続々出ていると言います。プロボノには、サービスの受益者であるNPOだけでなく、サービスの提供者であるプロボノ実施者や実施企業にも感謝されるという、ウィン・ウィンの関係が構築できる効果があるようです。

人材開発としての海外のプロボノ

一方で、日本とは桁外れてプロボノが進展しているアメリカの状況はどうでしょうか。アメリカでのプロボノ推進の老舗的な存在であるTaprootから、現況の説明がありました。Taprootは2001年に設立されたNPOで、現在は、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンジェルス、ワシントンDC、シカゴにオフィスを構える全米を代表するプロボノ支援団体です。
Taprootがこれまでに動員したプロボノ活動者は約7,500人で、およそ2,500のプロジェクトが進行しています。この原稿を執筆時点でのサービスグラントの動員数が186プロジェクト、2,200名なので、いかにTaprootが巨大な存在になっているかご理解いただけるかと思います。

pro-bono by taproot

さらに、Taprootはプロボノを狭義で定義しています。上図は、Taprootによる分類ですが、彼らはプロボノは専門知識を有する「Pro bono Professional Expertise」や「Board Service」をプロボノとし、それ以外の単純労働力提供(ゴミ拾いなど)や一般技能提供(日本人による日本語教育など)はプロボノではないとしています。プレゼンの中でも、三菱商事社の被災地支援はプロボノではなくExtra HandsだとTaprootは言明していました。この狭義のプロボノで、常時7,500人規模を動員しているプロボノは本当に大きな存在です。

また、この動員数の多くは企業から提供されています。Taprootにプロボノ人材を提供している企業には、LinkedIn, GAP, Chevron, HP, CITI BANK, American Express, Microsoft, UPSなど錚々たる企業がいます。多くの企業では6ヶ月間〜9ヶ月間という長期のプロボノプロジェクトに参加していたりもします。もちろん、企業には無償で行っているため、ここから収益は得られません。一見すると、業務妨害にもなりかねないこのプロボノ活動に、なぜここまでアメリカの企業は参加しているのでしょうか。

アメリカ企業の多くは、このプロボノを社会貢献活動ではなく人材開発という実利に着目しています。ここが現在の日本企業との大きな相違点です。プレゼンの中でも、「91%のFortune500企業の人事部門の管理職は、NPOに対して知識や専門性をボランティアで提供することは、ビジネススキルやリーダーシップを磨く効果的な方法だと回答している」との報告がありました。私自身、以前、Taprootのサンフランシスコ支社を訪問したことがあるのですが、そこでも「GAPではプロボノに参加しリーダーシップを育成することが管理職昇進への条件となっている」と説明を受けたこともあります。従って、アメリカの企業の中でプロボノ活動を遂行しているのはCSR部門ではなくむしろ人事部。ヘッドカウント(人員の頭数)を意識するアメリカ企業は日本企業以上に人件費に神経を尖らせていると言われますが、それでも人材開発としてプロボノに人員を会社の人事部が送り込んでいたりします。

もちろん、中には「6ヶ月〜9ヶ月間も人員派遣するのは長すぎる」ということで、1日で完結するプロボノプログラムの企業ニーズも多く、Taprootはこの短期間プログラムの実施も進めているようです。

次にはシンガポールの様子を見てみましょう。セミナーではシンガポールのプロボノ推進団体であるEmpactによる現状報告もありました。Empactは2011年に設立された若いNPOく、「アメリカと比べたらシンガポールはまだベイビーです」と謙遜していましたが、共有された活動内容は既に高い次元に行っていました。プレゼンテーションの中での紹介事例には、部署間のコミュニケーション不足に悩んでいた世界的な大手金融機関がプロボノを使ってプロジェクトに取り組むことで社内のコミュニケーション向上に寄与したという事例や、シンガポールにアジア地域統括拠点を置く世界的な消費財メーカーの役員陣がプロボノプロジェクトを使って自身のメンター力を向上させた事例などが紹介されていました。Empactでは、企業側の組織課題とNPO側の経営課題をうまくマッチングするプロジェクトを考案することで双方にとって大きな実利のあるプロボノ案件を生み出しています。

また、Empactは、役員陣が参加した消費財メーカーのプロジェクトからの大きな収穫として、プロボノに役員が参加することで社内全体のCSR意識が大きく向上したことを挙げ、昨今CSRの社内浸透に苦労している企業にとって、プロボノへの経営幹部の参加が大きな打開策になるのではと提言もしていました。これには私もなるほどと納得してしまいました。

企業がプロボノに取り組むための課題とその解決策

最後のセッションは、「企業がプロボノに取り組むための課題とその解決策」と題し、長年プロボノを続けてきているNEC社とパナソニック社のCSR担当の方をパネラーに、経団連社会貢献担当者懇親会の座長を務める、金田晃一・武田薬品工業コーポレート・コミュニケーション部(CSR)シニアマネジャーがモデレーター役となったパネルディスカッションでした。金田氏からは「シンガポールがベイビーだとしたら、日本は一体何なのか」とのコメントもあり、NEC社とパナソニック社からも率直な課題感が飛び出していました。両社から伺えたのは、事業部からの理解と人事部からの理解の双方の面で苦しんできたということです。ディスカッションの中では、「無償でサービス提供したら事業と競業してしまうのではないか」という事業部からの懸念にどのように対処するのかという話題も出、プロボノ推進団体のサービスグラントからは「そもそもサービスを購入できるような団体はプロボノではなくサービスを購入したほうが早いし確実。プロボノを提供する団体とはサービスを有償で受けられないようなところが対象」と説明もありました。一方、人事部からの理解の面では、そもそも社会貢献活動として始まっているため人事部との意見交換もまだ少なく、新人研修としてプロボノを導入しようとしたが人事部の理解が得られず実現できなかった企業の事例も紹介されていました。

このように、日米の間にはプロボノの位置づけに大きな格差が存在しています。アメリカ企業は、人材開発というプロボノの戦略的な活用方法を見出し、多くの企業が積極的に取り組んでいます。また、シンガポールでの事例のようにCSRの社内浸透のため役員クラスのプロボノ動員という戦略的な活用方法も新たに発見されてきています。繰り返しですが、プロボノは受益者であるNPOだけでなく提供者である企業そのものにも使い方次第でプラスの効果を創出できます。プロボノを検討している企業の皆さんも、サービスグラントのようなプロボノ推進団体の協力を得つつ、「どのような組織課題をプロボノを解決するのか」というテーマで一度人事部の方々と話し合ってみると良いように思います。

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る