【インタビュー】JICAと投資家のSDGsパートナーシップ 〜JICA債・ソーシャルボンド〜(JICA特集第2回) 2017/12/13 事例を見る

 国際協力機構(JICA)インタビュー第2弾のテーマは「JICA債(国際協力機関債券)」。金融業界では、株や債券を発行する企業や機関のことを「発行体」と呼びますが、今回は発行体としてのJICAに着目していきます。日本政府の国際協力機関であるJICAは、2008年からJICA債という国内財投機関債、すなわち債券を発行することで、JICAの活動に必要な資金の一部を市場から調達しています。

 2008年に開始したJICA債発行は、すでに43回を数え、一番最近では今年12月1日に、第43回JICA債の発行条件が決定されました(発行額200億円、発行期間20年、利率は0.625%)。今回の発行も合わせると、JICA債発行額は、国内市場で合計5,500億円、海外市場で合計15億米ドル、総計7,000億円以上となります。

 JICA債の特徴の一つは、昨年9月の国内発行分から、「ソーシャルボンド」というラベルが付けられていること。日本では「社会貢献債」と訳されることもありますが、ソーシャルボンドはいわゆる慈善事業を指すのでありません。債券発行で調達した資金を社会に良いインパクトを生み出す特定の使途のみに用いるものが、国際的に「ソーシャルボンド」と呼ばれています。JICAはこの「ソーシャルボンド」の国内発行体第1号です。

 一般的にJICAは、海外ボランティア事業「青年海外協力隊」のイメージが強いですが、実際には様々な援助手法を用いて事業を展開しています。その中でも柱となるのが「有償資金協力」「無償資金協力」「技術協力」の3つの援助手法で、とりわけ動く資金が大きいのが、JICA債発行で調達した資金が充当される「有償資金協力」です。有償資金協力では、資金のほとんどが途上国政府への貸付である「円借款」に投じられており、残りが海外投融資として民間セクターへの投融資に充てられています。有償資金協力は、その名の通り有償ですので、貸付先や出資先の政府や民間セクターからの元利金、配当金等が、JICA債の金利支払の原資となっています。

 目下、ソーシャルボンドやグリーンボンドは、ESG投資の潮流が大きくなるとともに重要な存在となっています。ESG投資の対象には、上場株式、非上場株式、債券、不動産など様々なものがありますが、そのうちソーシャルボンドやグリーンボンドは債券分野のESG投資の一端を担っています。JICAのソーシャルボンドとはどのようなものか。JICAがソーシャルボンドを発行する意義は何か。JICAのソーシャルボンドはどのようなインパクトを起こすことができるのか。JICA財務部市場資金課に話を伺いました。

(左)田中賢子 財務部市場資金課 課長
(右)長倉沙紀 財務部市場資金課 副調査役

JICA債の概要について教えてください

田中賢子氏

 JICA債には3つの特性があります。まずJICAという組織と日本政府との一体性。JICAは日本政府の全額出資による独立行政法人で、民間には代替できないODAという領域を一元的に実施しています。

 2つ目の特性は健全な財務体質です。JICAは、日本政府全額出資の独立行政法人で、JICA法によって、有償資金協力を管理する会計勘定と、それ以外を管理する会計勘定を分けて資産を管理しています。JICA債の対象となる有償資金協力勘定では、政府からの出資が8兆円、過去の利益の積立である剰余金が1.5兆円、残りの2.4兆円が負債となっています。負債のうち1.6兆円は財務省の財政融資資金からの借入で、残り0.7兆円を債券発行により市場から調達しています。

 そして3つ目の特性は、JICA債で調達した資金は、ODAの「有償資金協力」に全額投じられることです。有償資金協力の大部分は、途上国政府が実施する公共事業への貸付ですので、持続的な経済、社会につながるという点でESG投資の考え方にフィットすると考えています。

政府からの資金拠出が大きいJICAが債券を発行する理由はなんでしょうか?

田中氏

 JICAが市場からの資金調達を開始した背景には、2001年度に当時の小泉内閣のもとで進められた財政投融資改革があります。その中で、政府への財政依存度を減らし、自助努力で市場から資金調達を進めるという方針が打ち出され、JICAも検討を開始。2008年の組織統合を経て、同年のJICA債発行に至りました。

 また、JICA債の発行を開始したことで、JICAのディスクロージャーが強化されるという効果もありました。投資家向け説明会等で投資家にしっかりと情報開示させていただくことを通し、JICAの取組を対外的に伝えていくというマインドが醸成されてきたと思います。

 最近では、2016年12月に首相官邸の持続可能な開発目標(SDGs)推進本部で決定された「SDGs実施指針」において、SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の具体的施策として、JICA債発行を通じて、日本の民間資金をSDGsに動員していくことが掲げられました(「JICA債の発行を通じて国内の民間資金を成長市場である開発途上国のために動員する」)。私たちは、JICA債へ投資する投資家も、一つのパートナーだと考えており、JICA債への投資を通じて、SDGsに貢献していきたいと考えています。

JICA債の使途である有償資金協力とは?

田中氏

 有償資金協力の99%以上は、途上国政府向けに譲許的な条件で融資を行う「円借款」です。途上国政府の国家事業、公共事業である地下鉄、発電所、港湾、治水・灌漑等の案件に資金が使われています。とりわけ近年は、運輸セクターへの協力がもっとも多く、全体の約4割を占めています(2014年度~2016年度融資契約締結ベース)。国別では、インド、ベトナム、バングラデシュが融資上位3ヶ国です(2016年度融資契約締結ベース)。

 近年、有償資金協力として開発途上国から要請される案件には、途上国自身の発展を踏まえ、日本が持つ高い技術力を活かすことができ、多額の資金が必要となる案件が増えてきています。そのため、道路であれば高速道路、鉄道であれば都市地下鉄等、より高度な案件を積極的に支援しています。

 また、有償資金協力には、円借款の他に、海外投融資があります。

その中でもJICAとしての注力分野はありますか?

田中氏

 SDGsとの関連では、JICAは、「飢餓・栄養」「健康」「教育」「水・衛生」「エネルギー」「経済成長・雇用」「インフラ・産業」「都市」「気候変動」「森林・生物多様性」の10のゴールに、特に力を入れています。

 また、JICAの協力においては、日本政府の国家戦略等も大きく位置づけられています。具体的には、開発協力大綱、国家安全保障戦略、質の高いインフラパートナーシップ、同輸出拡大イニシアチブ、未来投資戦略等が関連しています。新規の有償資金協力提供の約束である「有償資金協力承諾額」は、従来1兆円前後であったのが、2015年度に初めて2兆円を超え、2016年度も1.5兆円と高水準となりました。これには、安倍内閣のインフラ輸出戦略等が大きく反映されています。

JICA債が「ソーシャルボンド」の名称を使い始めた背景は?

田中氏

 2008年にJICA債を初めて発行して以来、JICA債の投資意義に共感して投資くださる投資家の方は多くいらっしゃいましたが、そうした投資家の方々から「わかりやすい名称を付けてほしい」という声を頂いていました。そんな中、2016年のJICA債の発行準備をしている際に、ちょうど国際資本市場協会(ICMA)からソーシャルボンド・ガイドライン(現ソーシャルボンド原則)が発行されました。その内容を調べたところ、JICA債とは非常に親和性が高いことがわかり、その流れを踏まえて「ソーシャルボンド」というラベルを付けることとし、JICA債はソーシャルボンドの特性に従っているというセカンドオピニオンを第三者機関からいただきました。

 ソーシャルボンドという名称を用いてからのJICA債発行は、2016年9月からすでに6回(第37回発行から第42回発行)。12月1日に条件決定したもの(第43回発行)が7回目となり、発行額は合計で1,000億円となります。

世界的に発行額の多い「グリーンボンド」ではなく「ソーシャルボンド」を選んだ理由は?

 確かにJICAが支援する案件の中にも、森林管理や気候変動対策等ありますが、全体の一部です。JICAでは現在、グリーンも包含する広い意味で「ソーシャル」を捉えています。グリーン関連の案件だけを切り出して「グリーンボンド」として発行することも理論的にはありえますが、全体の資金量や案件数との比較でいえばグリーン関連のものはそれほど多くはありません。JICA全体では社会全体のためという位置づけで展開している活動が多いため「ソーシャルボンド」を選択しました。

初めてソーシャルボンドを発行した際の苦労はありましたか?

長倉沙紀氏

 実はそれほど苦労はありませんでした。一般的な民間企業とは異なる点かもしれませんが、JICAは独立行政法人として、ソーシャルボンド原則で求められる会計上の勘定分離や、事業評価結果や事業実績等のレポーティングを、以前から行っています。勘定分離では、JICA法により「有償資金協力」と「それ以外」は分けて行うことが決められており、両勘定間の資金流用は認められていません。

 また、レポーティングについても、JICA全体の事業報告、事業評価報告も毎年公表していますし、さらには各事業プロジェクトの評価も細かく行い、評価結果も公開しています。

 ですので、ソーシャルボンド発行にあたって従来のやり方を変えたことはありません。新たに取り組んだことは、セカンドオピニオンを取得したことぐらいです。

ソーシャルボンド発行後の毎年の報告体制や内容はどのようにしていますか?

田中氏

 有償資金協力について、年次報告書の中で、国別・セクター別の案件数、国別貸付金額、国別融資回収金額等を公表しています。また、個別の案件評価では、国際的なODA評価フレームワークである「DAC評価5項目」に基づき、事前評価、事後評価を実施しています。この「DAC評価5項目」は、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(OECD-DAC)が定めたものです。

 DAC評価5項目の視点は、妥当性、有効性、インパクト、効率性、持続性の5つです。各案件は、この5つの視点を基に事前評価の中で効果や指標が設定されており、事後評価ではその達成状況を中心に評価を行っています。

SDGsの観点からインパクトの評価は実施していますか?

田中氏

 インパクトの評価という観点では、JICAはMDGsの時代から、各案件が生み出すクリーンエネルギーの設備容量 、食糧増産、母子手帳普及数、安全な水へのアクセス数等の測定を行い、JICAの協力案件全体での集計も行っています。しかし、現在公表しているものは、MDGsを前提としたものであり、SDGsを前提としたものは今後集計していくことになります。

 SDGsが誕生してからは、それぞれの案件がSDGsのどのゴールに寄与するのかを事前評価で記載するようになりました。ですので、最近JICAが採択した案件については、事前評価の段階からSDGsのゴールに沿うインパクトを念頭におくようになってきています。

※筆者挿入コメント
ここでいう「インパクト」とは、事業により直接的に発現した効果(いわゆる「厳格なインパクト評価」)ではなく、DAC評価5項目が定義する、「開発援助によって直接または間接的に、意図的であるか否かを問わず生じる、肯定的、否定的および一次的、二次的な長期的効果」を指します。

JICA債やソーシャルボンドに対する投資家からの反応の変化は感じますか?

田中氏

 国内でもESG投資の流れが強くなってきたと感じます。生命保険会社等の中央の機関投資家ではESG分野への投資目標額を具体的に定めているところがあると聞きますし、地方の金融機関や自治体からも新たに関心が寄せられるようになりました。そうした世の中の動きの中で、JICA債を購入してくださる投資家層も広がってきています。

 さらにソーシャルボンドという名称を用いてからは、応募が従来以上に集まるようになりました。ソーシャルボンドを初めて発行した2016年9月には、当初は10年債を100億円、30年債を100億円発行する予定でしたが、応募が非常に多く集まったため、最終的に10年債を倍の200億円、30年債も1.5倍の150億円発行することとしました。

長倉氏

 当時、ソーシャルボンドの発行について公表後、中央の機関投資家からすぐに旺盛な需要を寄せていただいたことを覚えています。JICA債はそれまでの数年間、毎回100億円ずつの発行を継続してきたのですが、その際は発行額を大きく増やすという変化がありました。

国内投資家と海外投資家の反応の違いは感じますか?

田中氏

 ESGに対する取組の必要性は、国内投資家の中でも醸成されてきていると思いますが、海外の方がより関心が高いように感じます。特にグリーンボンドでは、年間の投資目標額を決めている投資家も明確に出てきています。通常の投資でも、発行体のESGスコアを投資判断に組み入れている投資家が非常に多くなっていると感じます。

 また、海外での投資家向け説明会では、JICAの財務諸表やリスク管理債権に関するかなり突っ込んだ質問が出てきます。おそらく海外ではJICAのことを知らない投資家が多いため、リスクに関する質問が多いのではないかと理解しています。

最後に今後グリーンボンドやソーシャルボンドを発行される発行体に向けメッセージをお願いします。

田中氏

 特に民間企業では、グリーンボンドやソーシャルボンドを発行することは簡単ではないと思います。JICAは公的機関として、ディスクロージャーや勘定分けを従来実施していますので、発行が比較的容易であると言えると思います。

 一方、発行コストに見合うだけのメリットがあるかという点では、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行条件が、従来型債券に比べて発行体にとって有利となる事例も出始めているようです。以前は、ソーシャルやグリーンボンドを従来型債券と比べると、投資家層の拡充や発行規模の増加というメリットはあっても、利回りには違いがでないと言われていました。しかし海外市場では、例えば新発債の際にはあまり利回りに差がなかったものが、セカンダリー市場では同じ発行体の従来型債券と比べ利回りが低くなってきている様子も伺えます。

 このように発行体にとってのメリットも明確に見えてくれば、ソーシャルボンドやグリーンボンドの市場はより活性化してくると思います。

 まだまだJICAの認知度は国内でも低いと認識しています。JICAの活動やJICA債に関心を持っていただけるよう、様々な機会を通じて積極的に説明していきたいと思います。

インタビューを終えて

 第1回の「SDGsビジネス調査事業」では、JICAと企業のパートナーシップを。そして今回の第2回では、債券投資を通じたJICAと投資家のパートナーシップを紹介しました。グリーンボンドやソーシャルボンドが世界的な盛り上がりを見せる中、JICAを始めたとした日本政府の独立行政法人や政府系金融機関は早くからコンスタントにソーシャルボンドやグリーンボンドを国内外で発行しており、市場の活性化に大きな役割を果たしています。

 インタビューにも登場したように、独立行政法人は勘定分けや報告体制の面で、企業や銀行と比べソーシャルボンドやグリーンボンドを発行しやすい環境にあります。その証左に、今や大きな市場となったグリーンボンドも、2012年までは国際機関や国際開発銀行だけが発行している状況でした。しかし、2013年からは企業や民間銀行からの発行が急増。主幹事証券会社の協力もあり、企業や民間銀行にとっての発行手法も確立されつつあります。インタビューからは、金利面で発行体に有利な状況が生まれつつあるとの話も出ました。これからは、戦略的にグリーンボンドやソーシャルボンドを発行することが求められていきます。

 JICA債は、2011年から2014年まで個人向けにも発行されていましたが、最近は機関投資家向けのみ。そのため個人はJICA債に直接投資するができません。しかし、預貯金先の銀行、保険会社、年金基金等を通じて間接的にJICA債へと資金が流れていきます。ソーシャルボンドやグリーンボンドを機に、預金者や保険加入者が、預け先の資金がどこに運用されているかを考える良いきっかけになればとも思います。

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