【ランキング】サステナビリティ戦略はブランドを強化する 〜BrandZランキングの価値計算手法〜 2015/06/23 体系的に学ぶ

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サステナビリティ戦略でブランドを強化できるのか?

 マーケティング関係者やCSR関係者の間には、以前から流布しているひとつの大きな命題があります。「CSRは消費者購買意欲につながるのか?」—オーガニック商品やエコ商品など市場価格より高い価格での商品帯を投入したとして、本当に消費者は社会的に好ましい商品を選択するのか。この問いには「消費者はCSRなど意識せず安いものを選択するのだ」と従来から懐疑的な見方が少なからずなされてきました。この命題は日本だけでなく欧米でも盛んになされ、英語でWillingness to pay (WTP)という名称で経済学者の間でも議論されています。

 一方、前回の「【ランキング】BrandZ 「最も価値のあるグローバルブランド トップ100」に学ぶ 業界別代表ブランドのサステナビリティ」では、グローバル大手企業が盛んにサステナビリティ戦略に取り組む様子をご紹介しました。彼らの思惑は何でしょうか。CSRに懐疑的な人々の中には、「一部の資金力のある企業が社会的批判を交わすために取り組んでいるにすぎない」と捉える人もいます。ですが、BrandZの評価手法を読み解くと、サステナビリティ戦略がブランド強化に大きく貢献していることが見えてきます。今回はあらためてBrandZそのものにスポットライトを当て、企業ブランドとは何かを見ていきたいと思います。

世界ブランド価値ランキング “BrandZ”とは

 BrandZとは、Millward Brown社が毎年発表している消費者ブランドのランキングです。ランキングの正式名称は、「BrandZ Top 100 Most Valuable Global Brands」(最も価値のあるグローバルブランドトップ100)、ブランド価値を図る尺度として世界中のマーケティング関係者から注目を集めています。ちなみに、ランキングを発表しているのはMillward Brown社、この企業は日本ではあまり知られていないかもしれません。同社は、世界のマーケティングリサーチ業界で米国ニールセン社に次いで世界第2位の規模を誇り、世界の二大広告代理店の一角を成すWPPグループ(もう1社はPublicis Omnicomグループ)にも属しており、海外では権威的な存在です。

 BrandZの大きな特徴は、調査対象の範囲が非常に大きいことです。同社が持つ世界的なネットワークを武器に、調査対象となるブランドは、50ヶ国以上の約10万ブランドで、世界300万人以上の消費者の声を反映しています。また、調査対象のブランドは、フェイスブックのように企業名と同一の商品ブランドだけでなく、例えばトヨタ自動車の「レクサス」のように個別の商品ブランドも対象とされています。

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 BrandZの上位には、誰もが知る有名ブランドが並んでいます。ブランドとは本来、主観的で極めて無形なもの。そのため、一見すると、消費者が抱いている漠然とした「人気」ブランドのランキングかと思いがちですが、そうではありません。BrandZの真骨頂は、ブランド価値を明確なルールに基づき金額換算しているところにあります。では具体的にBrandZのブランド価値算出方法を見ていきましょう。

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 BrandZでは、ブランド価値算出に当たり上記の式を用いており、「ブランド価値=税・資本コスト後ブランド毎価値×ブランド貢献度×ブランド倍率」となっています。これだけ書くと、非常に複雑なもののように感じてしまうかもしれませんが、実態は非常にシンプルです。

STEP 1 –ブランドが生み出す財務的利益の算出—

 STEP1は、各ブランドが昨年利益をどれだけ生み出したかです。その計算の出発点はブランド保有企業の全体のEBITA(Corporate Earnings)です。EBITAとは、Earnings before Interest, Tax and Amortizationのことで、金利・税・償却前利益と言うファイナンスの概念です。理解しづらい方は単純に「利益」と考えてください。

 続いて、企業全体の利益から、各ブランドが生み出す利益に分けていきます。これがBranded Earningsで、1企業1ブランドしか持たない企業ではCorporate EarningsとBranded Earningsは同一になります。

 そのブランド毎利益から、税金と事業運営に要した資本コストを引いたものが、Intangible Branded Earnings(税・資本コスト後ブランド毎利益)です。

 余談ですが、利益額は全て米ドルで算出されています。ですので、算出においては外国為替の影響を受けます。米ドルに対して価値が低下している通貨での算出利益は米ドル基準では額が低下しますので、円安トレンドで日本国内市場での利益は米ドル基準では低下しています。

STEP2 —ブランド貢献割合を算出する−

 STEP2は、税・資本コスト後ブランド毎利益から、実際にブランドそのものが貢献している割合(Brand Contribution)を計算し、掛け合わせていきます。ブランドが生み出した利益には、ブランド以外のものも寄与しています。例えば、価格や販売チャネル、立地などです。マーケティング要素の中でブランド以外が貢献している割合とブランドそのものが貢献している割合を分け、「ブランドそのものによって消費者から選択して頂けた」ことによる利益がいくらかを計算していくというわけです。

 そのブランド貢献度を計算するにあたり、前述した世界300万人のデータが使われます。詳細は公開されていませんが、調査アンケートからブランド貢献度の割合が計算されているようです。実際には%で算出されますが、簡単な尺度が上記のランキング表の一番右「ブランド貢献度」の欄に記されています。

STEP3 —未来のブランド利益創出力の現在価値を算出する−

 STEP2では、昨年各ブランドがブランドの力でどれだけ利益を生み出したかを算出しました。しかし本当に私たちが知りたいのは、昨年の実績ではなく未来の価値です。そこで、STEP3では、再びファイナンス分野の常套手段、現在価値の計算が用いられています。まず、アナリストにより今後の利益の増加率が予測され、現在価値に割り引かれた後に得られるのが、最終的な「ブランド価値」です。

 このように、BrandZの定める「ブランド価値」とは、漠然とした消費者人気の尺度ではなく、より具体的にブランドが持つ未来の利益創出力を指しています。すなわち、上位ランクしている企業は、消費者の観点から中長期的に「稼ぐ力がある」と評価されているということです。したがって、BrandZは、マーケティング部門だけでなく、財務部門やCEOにとっても軽視することはできないものです。そして、同様にサステナビリティ部門にとってもBrandZは重要な意味を持っているのですが、その点を次に見ていきましょう。

サステナビリティ戦略でブランド価値を上げる

 BrandZの評価手法がわかれば、なぜ上位ランク企業が、サステナビリティ戦略に注力しているのかが見えてきますし、それ以外の企業にとっても対策が見えてきます。そして、BrandZが「消費者人気」ではなく利益創出力を意味している以上、サステナビリティ戦略は単なる「社会貢献企業という認知施策」にとどまらず、どのようにブランド価値に対して定量的に貢献していくかということを考えられるようになります。サステナビリティ戦略がブランド価値に与える影響は、Branded Earningsに対する貢献と、Brand Contributionに対する貢献に分けることができます。

Branded Earningsを上げる

 サステナビリティ戦略は2つの方法でBranded Earningsを上げることができます。ひとつはコスト削減に寄与すること、もうひとつは売上を増やすことです。サステナビリティ改善でコスト削減ができる代表的な例は、消費エネルギーや水消費量の削減、廃棄物ゼロに向けた取組などが挙げられます。これらは短期的には設備導入や製品設計の見直しなどでコストを伴いますが、長期的にコスト削減できる手法をグローバル大手は見出しています。同様に、長期的なコストを削減するためのリスク管理もこの分野に含まれます。法令違反リスク、工場操業停止リスクなどは、大幅に利益を減らす要因になります。これらのために、上流・下流のサプライチェーンをしっかり管理していくことがますます重要になっています。

 もう一つの「サステナビリティ改善で売上を増やす」は、コスト削減よりも難易度の高い取組です。これを実現するための方策は、次のBrand Contributionと合わせて説明していきましょう。

Brand Contributionを上げる

 BrandZでは、ブランド貢献度(Brand Contribution)を3つの軸で評価しています。Meaningful(愛されているか)、Different(差別化できているか)、Salient(他を圧倒しているか)です。これらをまとめると、ブランド貢献度を上げるには、「他の製品より圧倒的に好意的に差別化できているか」ということになります。当然ながら、これが実現できれば、売上も向上することになります。

 ではどうすれば「他の製品より圧倒的に好意的に差別化」できるのでしょうか。BrandZを発表しているMillward Brown社のチーフグローバルアナリスト、Nigel Hollis氏は、“How Strong Brands Can Lead to a More Sustainable Future”というレポートの中で、社会・環境への配慮の重要性を明らかにしつつも、まず製品そのものの機能的価値を向上させることが肝要だと訴えています。Hollis氏は米国のおむつ業界を例として挙げ、消費者は、ユーザーである赤ちゃんが心地良いと感じる製品を第一に選び、その上で環境への配慮は付加価値となる、環境に配慮していても機能的価値が低い製品は選ばれにくいと述べています。グローバル大手の企業は、製品機能面で消費者のニーズを満たし、さらに環境・社会に対する価値を向上させることで消費者の心を掴む段階へと入ってきています。

サステナビリティ部門のミッション

 では、サステナビリティ部門は商品ブランド価値向上のために何ができるでしょうか。まず、サステナビリティ戦略でBranded Earningsを増やすために、生産部門・物流部門・購買部門と協働して、コストを削減しつつ社会・環境価値を上げられる施策を探していくことです。特に、自社だけでなくサプライチェーンにまで対象範囲を拡大し、中長期的達成するためのゴール設定をサステナビリティ部門が支援していく必要があります。

 次に、ブランド売上とブランド貢献度を向上させるために、機能的価値以外の面で商品が社会・環境へ貢献するポイントを、マーケティング部門とともに探していくことができます。もちろん、消費者に選んでもらうためには、商品機能そのものをニーズと合致するようにすることが最優先ですし、それはサステナビリティ部門の業務範囲ではないかもしれませんが、付加価値となる社会・環境への価値はサステナビリティ部門が側方支援できます。

 サステナビリティ部門にとってBrandZのランキングは今まで重視されてこなかったかもしれません。BrandZにはサステナビリティ部門が実施するKPIが直接的な評価軸となっておらず、むしろCorporate Knights社がダボス会議で発表するGlobal 100(世界で最も持続可能な企業100)のほうがわかりやすいと言えます。しかしながら、BrandZはGlobal100よりも顧客からの支持や財務的な持続可能性を反映しており、社会・環境・経済すべてのサステナビリティの評価が表れています。日本企業のグローバル化対応が叫ばれる中、サステナビリティ部門もBrandZでの評価に目を向ける必要があると感じています。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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