今回ご紹介するのは、アメリカのカルフォルニア州に本拠を置くOracle Corporation(オラクル・コーポレーション)のサステナビリティに関する取り組み。オラクルは言わずと知れた世界のIT業界を牽引するグローバルカンパニーで、DBMS(データベース管理システム)を中心に主に企業向けソフトウェアの開発・販売を展開している。オラクルの代名詞とも言える"Oracle Database(オラクル・データベース)"は世界トップシェアを占めるデータベース管理システムソフトで、ソフトウェア会社としてもマイクロソフトに次ぎ世界第2位の規模を誇る。
オラクルのサステナビリティ活動は、同社でCSO(Chief Sustainability Officer)およびVice President Product Strategy(製品戦略部長)を務めるJon Chorley氏の指揮のもと、同社のビジネス戦略に統合された形で推進されている。同社ではサステナビリティの取り組み領域として下記の7つを掲げている。
- Products(製品):顧客のビジネスのサステナビリティを推進するソフトウェア、ハードウェアソリューションの開発・提供
- Leadership(リーダーシップ):産業・貿易・政府など各分野の組織や団体との協力によるサステナブルなITソリューションの基準・ベストプラクティスの制定
- Supply Chain(サプライチェーン):サプライチェーン全体を通じた社会・環境への責任あるビジネス慣行の採用
- Facilities(施設):世界中の自社施設におけるエネルギー消費、温室効果ガス排出、水使用量、廃棄物の削減
- Data Centers(データセンター):データセンターにおけるエネルギー節約の先進的な取り組み
- Events(イベント):顧客、パートナー、開発者、従業員向けの世界規模のイベントにおけるサステナビリティへの配慮
- Procurement(調達):調達する製品やサービスに対するサステナビリティのコミットメント
オラクルは上記の各分野において具体的な数値目標や行動プランを持っており、2年に1度発行されるCorporate Citizen Reportの中で報告している。同社のサステナビリティ活動の特徴は、自社内における取り組みだけにフォーカスするのではなく、自社の製品やソリューション、各業界団体との連携などを通じて自社の顧客のサステナビリティ向上にインパクトをもたらそうと考えている点だ。
オラクルのような巨大企業でも、自社だけでできることには限界がある。しかし、オラクルの製品やソリューションを通じて世界147ヶ国以上にまたがる約390,000もの同社の顧客のサステナビリティを支援することで、同社は大きな目標を達成しようとしている。
実際にオラクルが発行しているCorporate Citizen Reportでは、自社設備におけるエネルギー効率上昇や水消費量削減といったテーマに加えて、オラクルの顧客企業が自社のビジネスにサステナビリティを統合するにあたってどのようにオラクル製品やソリューションが役に立つかという点についても触れており、他社のサステナビリティレポートと一線を画している。
上記のビデオでは、CSOのJon Chorley氏を筆頭に、各分野の責任者がOracleのサステナビリティへの取り組みについて簡単に紹介している。ここでは、ビデオの内容に沿って同社の取り組みのポイントをご紹介していく。
オラクルのコミットメント
"Oracle is committed to developing practices and products that help protect the environment."というメッセージにある通り、オラクルは、環境保全に貢献する行動や製品の開発に対して強くコミットしている。また、CSO(Chief Sustainability Officer)というサステナビリティ専任のマネジメントポジションを用意し、確固たるガバナンス体制を構築したうえで、"At Oracle, sustainability is everyone's job.(オラクルでは、サステナビリティは全員の仕事。)"を合言葉に全社を挙げてサステナビリティ戦略を推進している。
オラクルでCSOを務めるJon Chorley氏によれば、先進的な企業は環境への責任を果たすことは優れたビジネスであるということを理解しており、しっかりと構成された環境への取り組みはPeople、Planet、Profitsというトリプルボトムラインに利益をもたらすという。
自社施設における取り組み
自社保有施設の環境インパクト最小化に取り組んでいるのは、Global real estate & facilities部門でVice presidentを務めるRandy Smith氏。同氏によれば、オラクルの施設面に関するサステナビリティプログラムは、エネルギー、水、廃棄物、プロセス改善という4つのグローバルタスクフォースを構築しており、各チームが目標の設定、改善活動を行っているという。そしてこれらの目標到達状況を測定するためのツールが、Oracle Environmental Accounting and Reportingだという。
Environmental Accounting and Reportingとは?(製品における取り組み)
オラクルのEnvironmental Accounting and Reportingは、企業のエネルギー消費や廃棄物の状況をモニタリングすることで、オペレーション効率の改善やコスト削減だけではなく、温室効果ガス排出量の削減など環境負荷の低減を実現する製品。設定した削減目標に対する達成度合いをデータとして可視化することで企業の実際の行動変容を可能にし、環境会計および報告を支援している。
また、オラクルは同社の製品を活用してサステナビリティ目標を達成した顧客や、その目標達成に貢献したパートナー企業の表彰なども実施しており、自社製品を通じて顧客のサステナビリティへも大きな影響を及ぼしている。
データセンターにおける取り組み
そして、オラクルのCIO兼Senior Vice Presidentを務めるMark Sunday氏は、同社のデータセンターにおける取り組みについて紹介している。同氏によれば、オラクルの主要なデータセンターでは業界平均よりも70%以上高い効率性を目指しているという。
実際に同社の主要なデータセンターであるUtah Compute Facility(UCF)とAustin Data Center(ADC)はEPA(US Environmental Protection Agency)からENERGY STAR評価を受けており、Utahでは業界平均を70%以上上回るエネルギー効率、Austinも業界平均より60%低いエネルギーレベルでの冷却電力設備運営を実現している。
サプライチェーンにおける取り組み
オラクルでSupply Chain Project Managerを務めるTom Calderwood氏は、Oracleのプロダクトライフサイクル全体におけるサステナビリティへの配慮について触れている。同氏によれば、顧客の視点から見ても同社は魅力的な製品を提供しており、自分たちの仕事は、Oracleの製品はリサイクル可能で環境に配慮されたものかどうかを確かめることだという。
オラクルでは製品の設計・製造・包装材にいたるまで基準を設けており、サプライヤーに対しては"Oracle's Supplier Code of Ethics and Business Conduct"というサプライヤーコードを設け、順守を求めている。また、EICC(Electronic Industry Citizenship Coalition)が定めた行動規範に基づくサプライチェーンの監査プログラムも用意しているなど、製品ライフサイクル全体におけるサステナビリティ推進が徹底している。
イベントにおける取り組み
同社のVice President、Paul Saninger氏は、オラクルが世界中で開催しているイベントにおける環境配慮への取り組みとして、Rethinking、Reducing、Reusing、Recyclingの4つのRを挙げている。
- Rethink:イベントがサステナブル経営目標に沿ったものか再考する
- Reduce: エネルギー、水、物資の使用量を削減する
- Reuse: 物資をできる限り再利用する
- Recycle: イベント終了後に残った物資をリサイクルする
オラクルでは顧客やパートナー企業、開発者、社員向けの世界的な大規模イベントを数多く運営しているため、その開催のたびに人や物資の移動なども含めて多くのエネルギーが消費される。そのため、こうしたイベントのサステナビリティ配慮への取り組みも重要な課題の一つに設定している。
本業を通じたサステナビリティ
上記のようにオラクルはあらゆる分野で統合的なサステナビリティ活動を展開しているが、ビデオの最後でJon Chorley氏が”With 390,000 customers in 147 countries, Oracle's gratest positive impact is through concrete practical solutions that help our customers deliver on their own sustainability initiatives.(世界147ヶ国、39万以上の顧客を持つオラクルがもたらす最もポジティブなインパクトは、我々の顧客が自身のサステナビリティ推進を実現するのを支援する、具体的で実践的なソリューションを通じて生まれる)”と述べているように、同社の最大の強みは自社の製品・ソリューションを通じて顧客のサステナビリティを支援するという方針を貫いていることだ。
ITは、エネルギー効率上昇やデータ可視化など様々な観点でいまやサステナビリティの推進には欠かせない要素の一つとなっている。オラクルは自社のコアビジネスであるITソリューションを通じて、顧客のビジネス運営の効率化だけではなくサステナビリティも支援することで、高まるサステナビリティへのニーズを自社のビジネス機会に転換した。
単にサステナブルな製品ソリューションを提供するというだけではなく、自社のファシリティやサプライチェーン、製品ライフサイクルにおけるサステナビリティ改善に取り組む中で得られたノウハウや技術革新を、顧客への製品として展開していくというモデルは非常に理想的だ。
同社のように、自社のサステナビリティ向上のための技術革新が、顧客への提供価値に転換できるケースは業界を問わず数多くあるはずだ。その意味で、自社だけではなく「顧客のサステナビリティを支援する」という観点は、どんな企業の製品・サービス開発にも役立つ優れた視点だと言える。
【企業サイト】Oracle
【サステナビリティページ】Corporate Citizenship Report - Sustainability: Letter from CSO
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