【サウジアラビア】サルマーン国王「ビジョン2030」で石油依存からの脱却を発表 2016/05/16 最新ニュース

riyadh

 サウジアラビアのサルマーン国王は4月25日、原油依存経済からの脱却を目指す野心的な改革案「サウジ・ビジョン2030」を発表した。経済活動の多様化、巨大国営エネルギー企業アラムコを含む国家資産の民営化、増税、補助金削減等が定められた。改革案の策定を主導したのは、サルマーン国王の息子で現在サウジアラビアで最も重要な人物と言われるムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子。この改革発表後にリヤド株式市場の株価は大きく上昇した。

 今回の改革案の最大の要点は、世界最大のエネルギー会社であり、同国の経済を支えるアラムコ社株の売却と現在6,000億米ドルの資産残高を持つ政府系ファンド「公的投資基金(Public Investment Fund)」の2兆円規模への拡大だ。副皇太子は政府が保有する原油世界大手アラムコ株を公的投資基金に移しホールディングス体制へと移行、さらに保有株のうち約5%をIPOを通じて数年内に売却する。IPOの主幹事証券は米JPモルガンが担う。アラムコの潜在的な企業価値は、現在時価総額世界最大の米アップル社を大きく上回ると言われており、公的投資基金は、アラムコ株売却と国有不動産等の売却益で約1兆米ドルを調達できるという。2兆米ドルという国富ファンド(SWF)の規模は、ノルウェーのGPFGを抜き世界最大となる。公的投資基金は資金を海外の幅広い業界に投資し、国内原油以外からのリターンを増やす。副皇太子は、「原油に依存するのは危険を伴う」と話し、「2020年までに同国経済が原油依存から脱却することは可能だ」という認識も示した。2030年までには公的投資基金の資産残高をさらに7兆米ドルにまで増やす。エネルギー政策の面では、太陽光・風力発電の潜在力が高いという認識も示し、今後9.5GWの再生可能エネルギー発電所を設置する計画もあらためて強調した。石油大国のサウジアラビアもついに再生可能エネルギーへと舵を切ることとなる。

 サウジ・ビジョン2030で設定されたゴールは、国家運営から社会課題まえ広範囲に渡る。

社会

  • 世界都市トップ100に同国の3都市をランクインさせる
  • 社会関係資本指数ランキングを26位から10位に上げる
  • 平均寿命を74歳から80歳にする
  • ユネスコ世界遺産の登録数を2倍にする
  • 国内の文化・エンタメ家計支出を2.9%から6.0%に増やす
  • 週1以上の運動人口割合を13%から40%に増やす
  • ウムラ(小巡礼)訪問数を年間800万人から3,000万人に増やす

経済

  • 民間企業のGDP割合を40%から65%に増やす
  • 世界銀行のロジスティクス・パフォーマンス指数を49位から20位に上げる
  • 非石油GDPにおける非石油輸出の割合を16%から50%に増やす
  • 公的投資基金の資産残高を6,000億米ドルから7兆米ドルに増やす
  • WEF国際競争力ランキングを19位から15位に上げる
  • 石油・ガス業界の地方分権化割合を40%から75%に上げる
  • 失業率を11.6%から7%に下げる
  • GDPに占める中小企業の割合を20%から35%に上げる

国家運営

  • 所得に占める貯蓄割合を6%から10%に上げる
  • GDPに占めるNPOの割合を1%未満から5%に上げる
  • 年間ボランティア人数を11,000人から百万人に増やす
  • 政府の非石油歳入を1,630億リヤルから1兆リヤルに増やす
  • 世界銀行の政府有効性指数ランキングを80位から20位に上げる
  • 電子政府開発指数(EGDI)ランキングを36位から5位以内に上げる

 同国は近年、国家予算の約90%を原油からの歳入に頼っており、原油価格が低迷する中、ついに今月、1991年以来初めて借入を実施。海外の大手投資銀行から100億米ドルの5年ローンを調達していた。副皇太子は原油依存経済からの脱却に向け、今回のビジョン2030を策定には世界大手コンサルティング・ファームに対して今年だけで12億5,000万米ドル(約1,400億円)を支払った。国家統治機構の改革にはすでに着手しており、2015年にサルマーン新国王が誕生して以降、各分野ごとに設置されていた最高会議を廃止し、経済開発評議会と政治・安全保障評議会に再編され、この二つの最高評議会で政府の重要意思決定が実施される体制に変わった。この中で権力を一手に集めているのがムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子だ。サルマーン国王着任後の内閣改造で国防相に就任、その3ヶ月後には副皇太子(国家序列3位、王位継承権2位)と副首相を兼任、さらに経済開発評議会の議長にも着任した。

 サルマーン国王はビジョン2030発表後に、早速、組織・人事改革を開始しており、80歳と高齢のヌアイミ石油・鉱物資源相を、4月29日にアラムコ社会長から解任、5月7日には石油・鉱物資源相からも解任し、新たにファーリフ保健相を石油政策に関するこの2つのポストに任命した。石油・鉱物資源省もエネルギー・工業・鉱物資源省に改称された。専ら、従来石油・鉱物資源相が有していた権限の多くはすでに経済開発評議会議長に移されており、副皇太子が実権を掌握している。その他、大臣級ポストの世代交代も進めるなど、ビジョン2030の実施体制に向けた組織布陣を敷いた。

 ビジョン2030の具体的な達成アクションとして、同国に長期滞在するアラブ人、イスラム教徒に対する5年以内のグリーンカード発行や、メッカ巡礼以外の観光事業の促進、軍事産業の持ち株会社設立などの計画も含まれる。副皇太子は今回の改革が1980年代のサッチャー政権の下で国有事業の私有化を促進した経済改革に類似しているとも述べた。

  しかし懸念されるのは社会不安だ。英ガーディアン紙によると、同国世論調査の結果からは、国民はガソリン、水、電気等の価格をこれまで通り安く維持するよう求めるという結果も出ている。また、人口の半数は25歳未満の若年層で、サウジ通貨庁のデータでは、国全体の失業率は11.7%と高く、仕事の創出が当面の課題となりそうだ。国王や副皇太子も今回の改革が社会不安につながり、「アラブの春」のように独裁体制の脅威にならないよう国民の反応に細心の注意を払っていると報じられている。

【政府サイト】Vision 2030
【参照ページ】Saudi Arabia approves ambitious plan to move economy beyond oil

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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