【イギリス】国民投票でのEU離脱、サステナビリティ政策は停滞か維持か 2016/06/27 最新ニュース

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 6月23日に行われたEU離脱を問う英国の国民投票。EU離脱の道を行く結果は、政治、経済を中心とする多様な側面で国際社会に衝撃を与えている。20年以上にわたり離脱へのキャンペーンを展開してきた英国独立党のナイジェル・ファラージ党首は、今回の結果を「英国の独立記念日として歴史に刻まれる」と喜びを露わにした。今回の国民投票に関する報道ではあまり触れらていないが、EU離脱を決めた英国は、サステナビリティ・環境問題について、EUとは違う独自路線を歩むこととなる。サステナビリティや環境関連分野に対する離脱派陣営のスタンスについては不透明なままだ。多くの環境活動家や環境問題に積極的に取り組んできた政治家、そしてEU残留派の人々は、今後の方針やグリーンエコノミーの行方について危惧も表している。

 世界で15,000名以上の会員を抱えるサステナビリティ・プロフェッショナルのグローバル ネットワークIEMA(The Institute of Environmental Management & Assessment)が国民投票の事前に同国の会員を対象に実施した調査によると、1,200人の回答者の内、87%(1,044人)が、EUから離脱か残留かを決めるに当たって、サステナビリティや環境問題について投票までの期間に積極的に議論すべきだと回答したという。しかしそれが実現されることのないまま投票が行われた。

 サステナビリティで世界を牽引すると言われるEUは、これまで多数の戦略や方針を発表してきた。今後、これらの政策を英国が維持するかは、英国政府と英国議会の判断に委ねられる。

 環境・社会問題についての関心の高い英紙ガーディアン6月25日報道は、環境関連NGO、Friends of EarthのGraig Bennett最高責任者が寄稿し、英国の環境保全対策や環境関連規制の約70%はEUが策定したものであり、離脱により同国の環境が以前のような劣悪な状況に戻ることのないよう警告している。同氏は今回の結果を「極めて残念」としつつ、これまでのEUと連携してきた環境対策は、多くの時間を科学や政治を論じるのに費やされ、多様な階級や背景をもつ人々の話を聞くことが相対的に少なかったと述べている。多くの貧しい人々は自然環境へのアクセスが少なく、大気汚染にさらされる度合いが多く、洪水を含む気候変動の被害も大きいことから、今後は「人々を中心とした」環境対策が必要だと主張している。

 本サイトの英国関連ニュースで繰り返し取り上げてきたように、英国は再生可能エネルギーや化石燃料関連企業からのダイベストメント等、エネルギー対策には積極的な取り組みを多数展開してきており、英国の独自路線が必ずしもEU路線に比べ劣るとは言えない。ESG投資などでは英国のほうが先陣を切ってきた。オズボーン財相は、ソフトドリンクへの「砂糖税」、租税回避を阻止する「グーグル税」など世界的にも画期的な税制を発表してきた。だが、これらは残留派であった現キャメロン内閣の意向が大きく反映されてきたことも事実であり、離脱派がこれまでの政策を継続していくかは依然未知数。ロンドンなど大都市では、ディーゼル車による大気汚染や洪水対策(本サイト2016年4月26日記事参照)等の喫緊の課題を多数抱える。

 ESG投資の分野では、これまで展開をリードしてきた英国金融機関の動向にも関心が集まる。英国がEUから離脱すると、EU加盟国として享受してきた「シングルパスポート・ルール(EU域内における単一免許制度)」を失うことになる。その結果、投資銀行や商業銀行は本社をEU域内に移転する可能性も出てくる。だが、2017年から施行予定の「EU第2次金融商品市場指令(MiFID Ⅱ,MiFIR)」では、第三国の投資銀行に対して、EU域内銀行(より正確にはEEA域内銀行)と同様の権限を認める制度も盛り込まれており、英国の金融機関が英国にいるままこの制度を活用する可能性もある。一方、商業銀行についてはそのような規定がなく、EU域内でサービス提供するためには、EEA域内(EEA協定を結ぶEU、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランド)に支店を置き免許を取得しなければならなくなる。また、離脱後の英国とEUの間で締結される協定の中で、あらためて現制度の維持を定めることも考えられる。そのため、英国の金融機関が本社を移転するかは、今後の英国とEUの対応次第とも言えるが、仮に投資銀行や商業銀行が本社をEU域内に移転させた場合、それに引きずられて運用会社も本社を英国からEU域内に移転させる動きもありうる。

 英国とEUの間での政策調整に関する司法でも混乱が生じるかもしれない。これまでは、英国法とEU法の規定が一致しない場合は、英国裁判所から欧州司法裁判所に判断が委ねられる措置が取られてきたが、今後はこの司法チャネルがなくなる。そもそもEU離脱後の英国にはEU法が及ばなくなるため、司法的調整の必要性がなくなるとも言えるが、経済的なつながりが密な両者の間での政策調整の場がなくなる意味は大きい。

 これまで、英国はサステナビリティ・環境関連分野でEU加盟国間、そしてグローバルなレベルでも主導的な立場にあった。ロンドンには、国連責任投資原則(PRI)や国際統合報告委員会(IIRC)の本部もある。今回の離脱・残留をめぐるキャンペーンでは、同分野に関する議論はほとんど行われていなかったが、18歳から24歳の73%は残留派に投票した。彼らの思いはどのようなものなのだろうか。極めて限定された地域的な問題以外は、環境問題には国境がない。それだけに、これまでの蓄積を生かし、次世代に向けた取り組みの進展が期待される。英国政府の動向と英国国民の行動、そしてEUの判断を注視したい。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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