国立環境研究所は10月24日、宮崎大学、エディンバラ大学と共同で、地球温暖化が土壌中の生物呼吸を活発化させ、二酸化炭素排出量をさらに増加させるという悪循環が実証されたという研究結果を発表した。研究内容は10月17日に学術誌Scientific Reportsに論文として掲載された。国立環境研究所と宮崎大学は、この悪循環を実証するため6年間をかけて研究に取り組んできた。
土壌呼吸は、土壌中の微生物による有機物分解(微生物呼吸)と、植物の根の新陳代謝(根呼吸)からなる。全地球で土壌呼吸により排出される二酸化炭素は、2008年時点で年間約3593億トン。その7割を占めるのが微生物呼吸であり、人為起源の二酸化炭素排出量の約10倍に相当する。地球温暖化によって温度が上昇すれば微生物や植物の呼吸が活発になり、温暖化をさらに加速させる悪循環に陥る可能性があることは理論的には認められていたが、それを裏付ける実証研究例は限られており、特に湿潤なアジアモンスーン域における研究例は皆無だった。
実験では、2008年から宮崎大学田野フィールド内にある常緑広葉樹二次林に自動開閉式の箱型実験装置を設置。赤外線ヒーターで人工的に地温を2.5℃上昇させる区域とそうでない対照区域に分け、それぞれの二酸化炭素排出速度を6年間かけて測定した。結果、1℃当たりの気温上昇で、土壌有機炭素の分解により発生する二酸化炭素の排出速度が7.1〜17.8%(平均9.4%)増加することが明らかとなった。この結果はこれまでの欧米での研究で示された温暖化効果よりも大きく、簡易な微生物呼吸の温度反応式から導かれる予測値(1℃当たりの昇温で10.1~10.9%増加)と近かった。さらに、各観測年の夏季の降水量と、微生物呼吸による温暖化効果の関係について調べると、降水量が多いほど、温暖化効果が高いことが明らかになった。
今回の研究により、温暖化により温度上昇が生じた場合、湿潤なアジアモンスーン域の森林土壌においてはこれまで欧米の研究によって想定されていたよりも多くの二酸化炭素が微生物呼吸により排出される可能性が示された。実際に温暖化が生じた場合には植物の光合成量も上昇して二酸化炭素の吸収が促進されることも指摘されており、今回の実験ではその効果は検証されておらず、国立環境研究所と宮崎大学は今後の研究課題だとしている。今回の研究結果は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にも報告されるという。
【参照ページ】長期的な温暖化が土壌有機炭素分解による二酸化炭素排出量を増加させることを実験的に検証-6年間におよぶ温暖化操作実験による研究成果-
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