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【国際】北極の氷面積は過去最小にまで減少。南極でも深層部で急速な氷溶解が発生。最新測定結果より

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 米航空宇宙局(NASA)の活動のためカリフォルニア工科大学(Caltech)に置かれているジェット推進研究所(JPL)は10月26日、南極大陸の氷溶解が著しい速度で進んでいるという研究結果を学術誌Nature Communicationsに発表した。論文を発表したのはJPLに所属するアラ・カゼンダー(Ala Khazendar)研究員が率いるチーム。

 南極の氷溶解については、気候変動との関連性が指摘されつつも科学者の間でまだ実態が掴みきれていない分野。昨年10月には、NASAのゴダード宇宙飛行センターのジェイ・ズワリー主任雪氷圏学者率いるチームが、衛星が取得したデータを活用し南極の氷層の厚さを測定する分析を行ったところ、南極東部の氷は減少している一方、東部では氷が増加しており、南極全体としてはむしろ氷は増えているという論文を発表。従来の定説は、気候変動によって南極の氷は減少し海面上昇につながるというものであったため、大きな物議を醸した。

 しかし、ズワリー主任らの調査に対しては、衛星からの氷層測定は非常に精度が荒く測定誤差が大きく出るという問題が研究者からも指摘されており、さらなる調査が期待されていた。今回発表のカゼンダー研究員率いるチームは、より厳密な調査を行うためレーダー探索装置を使い、南極氷層の深層部で起こっている状況を解明する方法を採った。やや専門的な話になるが、南極の氷と言っても実態は様々な地理的状態がある。まず、南極は大陸であるため氷の下に岩盤層があり、その上に積層している氷を「氷床(Ice Sheet)」と呼ぶ。氷床は氷河と同様、徐々に大陸の外側に押し出さていき、最後は大陸を超えて海上に飛び出していく。この陸地を超えて海上面の上に浮遊している氷を「氷棚(Ice Shelf)」と呼ぶ。陸地で長時間かけて氷結した氷は分厚いのが特徴で氷棚は浮遊していると言っても数十mから200mもありかなり分厚い。そのため、流氷のように海上面の水が寒さで氷結しただけの「海氷(Sea Ice)」とは区別されている。また、氷床と氷棚の境界は「グランディング・ライン」と呼ばれている。

 このグランディング・ラインは、氷層と岩盤との接地境界であるため、海水温度が上がりグランディング・ライン付近の氷層深層部が溶解し液体となることによりこの境界はどんどん内側に後退していく。ガゼンダー氏らは、このグランディング・ラインがどのように移動しているかをレーダーを使い、南極東部アムンゼン海近くのグランディング・ライン付近を探索したところ、このグランディング・ラインは2002年から2009年の間に300mから490mも後退していた。この速度はグランディング・ラインを自然に維持するためには早すぎるスピードであり、南極の深層部の氷が急速に溶けていることがわかった。

 大陸のない北極での氷減少については、さらに明らかになってきている。日本の気象庁地球環境・海洋部は10月20日、「海氷域面積の長期変化傾向(北極海)」の最新状況を発表。北極の海氷域面積は分析を開始した1979年以来年々減少しており、今年2016年は、年最大値・年最小値ともに2番目に小さかったことを明らかにした。気象庁は「海氷域面積の年最小値が減少傾向を示している要因の一つとして、海氷が融解することで開放水面が増えた分、太陽放射をより吸収し、 更に海氷の融解をもたらす正のフィードバック効果が働いている可能性があり、海氷がより融解しやすい状態になっているものと考えられ」るとし、海氷溶解の速度は上がっていく見解を示している。

 また、コロラド大学ボルダー校の環境科学共同研究所(CIRES)の一部門、米国雪氷データセンター(NSIDC)のJulienne Stroeve上席研究員と、ドイツ・ハンブルクにあるMax Planck Institute for MeteorologyのDirk Notz上席研究員は11月3日、二酸化炭素排出量と北極海海氷域面積減少の相関関係を示す論文を学術誌「Science」に発表した。Stroeve上席研究員らは、二酸化炭素排出量と北極海海氷域面積減少の過去の観測データをもとに気候モデルと呼ばれる統計アルゴリズムを開発し、相関関係を分析したところ、地球上のどこでも人間が排出する二酸化炭素1tは、北極海の夏の海氷域面積を3m3減少されるという結果が得られた。

 冒頭で紹介したように、昨年10月にズワリー氏が「南極の氷は増えている」という論文を発表した時、日本ではいつになくたくさんのオンラインメディアがその内容を報じ、コメントを寄せる人も多かった。確かに、世界は温暖化しており北極や南極の氷は溶解し海水面は上昇し人間社会にダメージを与えるというストーリーは、できるならばそうなってほしくはないし、信じたくなる気持ちもわかる。だが、現実は私たちの希望的観測を無にするほど残酷に進んでいる。

【Nature誌論文】Rapid submarine ice melting in the grounding zones of ice shelves in West Antarctica
【Science誌論文】Observed Arctic sea-ice loss directly follows anthropogenic CO2 emission
【参考ページ】海氷域面積の長期変化傾向(北極域)
【参考ページ】NASA Study: Mass Gains of Antarctic Ice Sheet Greater than Losses
【参考ページ】U.S. and German researchers calculate individual contribution to climate change

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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