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【環境】オゾン層保護のモントリオール議定書「キガリ改正」〜代替フロンからノンフロンへ〜 2016/12/31 体系的に学ぶ

ozone

 オゾン層を保護するための条約として1989年に発効した「モントリオール議定書」。オゾン層保護のためフロンガスなどオゾン層破壊物質の生産や消費を規制することに大きく寄与したこの条約は、世界で最も成功している国際環境条約とも呼ばれています。この成功の背景には、先進国だけでなく途上国も含めて規制を実施していることや、先進国の拠出による途上国支援の仕組みがあることがあると言われています。

 そして2016年10月15日、第28回モントリオール議定書締約国会合がルワンダの首都キガリで開催され、オゾン層破壊効果が低いと製造業で使用が普及していた通称「代替フロン」、HFC(ハイドロフルオロカーボン)が温室効果ガスとして気候変動に悪影響を与えることから段階的に規制することを採択しました。この「キガリ改正」により、冷蔵庫、エアコン、スプレー缶、洗浄剤などのメーカーには新たな対応が迫られることとなりました。

 今回はモントリオール議定書のこれまで経緯とともに、キガリ改正の内容を見ていきます。

モントリオール議定書とは

 モントリオール議定書は、オゾン層の保護を目的に1987年に採択されました。現在197ヶ国が加盟しています。オゾン層破壊物質の全廃という目標に向け締約国会合(MOP)が開催され、規制内容の更新・強化(規制対象や措置の追加など)が行われています。今回のキガリ改正では、新たにHFCが規制対象として加えられました。

モントリオール議定書の経緯と目的

 モントリオール議定書は、オゾン層破壊物質の生産・消費を削減し、オゾン層を保護することを目的としています。背景には、1970年頃から米国を中心ににオゾン層の破壊とそれに伴う地球温暖化への懸念が表明されるよったことがあります。この懸念は、徐々に国際的な支持を集めるようになり、1985年に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」、1987年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択されました。

ウィーン条約・モントリオール議定書

 ウィーン条約は、オゾン層保護のための基本的な概念や締約国の義務などが規定されています。ウィーン条約の主な内容は、

  • オゾン層の変化により生じる悪影響から人の健康及び環境を保護するために適当な措置をとること(一般的義務、第2条)
  • 研究及び組織的観測に協力すること(第3条)
  • 法律、科学及び技術分野で協力し、情報交換をすること(第4条)

 このウィーン条約に基づき2年後に採択されたのが、モントリオール議定書です。モントリオール議定書では具体的な規制内容や規制対象物質などが規定されています。当初は議定書の署名国は先進国を中心にわずか29ヶ国でしたが、現在は197ヶ国が批准しています。日本も発効間もない1988年に批准し、国内では「オゾン層保護法」を制定、フロン類の生産・輸入規制を定めました。モントリオール議定書の主な内容は、

  • 各オゾン層破壊物質の全廃計画の設定(第2条)
  • 非締約国との貿易の規制(第4条)
  • 規制措置の評価及び再検討(第6条)

モントリオール議定書とその後の改正

 このモントリオール議定は、制定後から毎年の締約国会合(MOP)で幾多の改訂を経て、現在に至っています。改訂では主に規制対象物質が追加されています。科学技術の発展等により随時に現状に合わせた改正を行ってきたのがモントリオール議定書の特徴の一つとも言えます。モントリオール議定書の改正では、正式には「改正」と「調整」という2つの手法が採用されています。改正は規制対象物質の追加や規制措置の追加などを、調整は既存の規制対象物質の削減スケジュール変更などを行い、それぞれ変更の手続きがことなるのですが、詳細はここでは割愛します。

規制対象物質の変化

◯モントリオール議定書初期(1989年)

  • 規制対象:附属書A 「特定フロン(CFC)」5種類(フロン11・12・113・114・115)とハロン3種(ハロン1301・1301・2402)

 発効当時の規制対象は、冷媒、洗浄剤、エアロゾル噴射剤、発泡剤等に使用されていた「特定フロン」5種類(フロン11・12・113・114・115)と消火剤として使用されていたハロン3種(ハロン1301・1301・2402)でした。モントリオール議定書第2条では、対象物質ごとに期間と削減量が規定されています。規制対象物質は附属書と言うかたちで列挙されていきます。議定書初期に対象とされた特定フロンとハロンは附属書Aとして記載されました。

◯ロンドン改正・調整(1990年)

  • 削減スケジュール前倒し:附属書A
  • 規制対象追加:附属書B その他フロン(CFC)、四塩化炭素、1・1・1-トリクロロエタン

◯コペンハーゲン改正・調整(1992年)

  • 削減スケジュール前倒し:附属書A、附属書B
  • 規制対象追加:附属書C グループ1※消費規制のみ(HCFC)、グループ2(HBFCs)、附属書E 臭化メチル

◯ウィーン調整(1995年)

  • 削減スケジュール前倒し:附属書C、附属書E

〇モントリオール改正(1997年)

  • 貿易規制の強化
  • 削減スケジュール前倒し:附属書E

〇北京改正(1999年)

  • 規制強化:附属書Cグループ1の生産規制開始。
  • 規制対象追加:附属書Cグループ3(ブロモクロロメタン)

〇モントリオール調整(2007年)

  • 削減スケジュール前倒し:附属書Cグループ1の生産削減規制

〇キガリ改正(2016年)

  • 規制対象追加:附属書F HFC(ハイドロフルオロカーボン)

 このようにモントリオール議定書は改正を繰り返し、規制対象物質を追加するとともに、削減スケジュールも前倒しをすることを繰り返しています。今回のキガリ改正については後ほど内容を詳述します。ちなみに「フロン」という単語は日本で生まれた俗称で、英語ではCFCやハロン、HCFC、HFCなどを含めた呼び名がありません。

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(出所)環境省

規制措置の内容

 モントリオールで定める規制措置の内容は、主に生産規制、消費規制(ともに第2条)、貿易規制(第4条)の3つに分かれます。

・生産規制

 生産量は、

 (規制物質の生産量)-(締約国が承認した技術で破壊した量)-(原料として使用された量)

 と算出され、この生産量を削減することが求められます。また再利用されたものは生産量に含まれません。

・消費規制

 消費量は、

 (生産量)+(輸入量)-(輸出量) 

 と算出され、この消費量を削減することが求められます。

・貿易規制

 貿易規制では、モントリオール議定書の非締約国に対する規制物質の輸出入の禁止や制限が設けられています。物質そのものの輸出入だけでなく、生産・利用技術の輸出も制限されています。

キガリ改正の内容

HFCが規制対象に追加

 前述の通り、キガリ改正では、HFCが規制対象に追加されました。すなわち今後、生産と消費が制限され、全廃させることが求められます。オゾン層を破壊しないHFCは従来はモントリオール議定書の規制対象でなく、むしろ同議定書が特定フロンやハロン、HCFCを規制対象としたことを受け、代替素材だともてはやされていました。HFCが規制対象となった背景には、HFCが温室効果ガスだということがあります。今年11月に発効した気候変動枠組条約パリ協定では、削減対象の温室効果ガス7種の総量について削減していく考えを表明していますが、特定のガス削減量については規定がありません。しかし今回のキガリ改正では、HFCという特定の温室効果ガスに関して、先進国・開発途上国のグループそれぞれに一律の目標が設定されました。これは、パリ協定で合意された削減目標に対し、より実質的な意味をもたらしているといえます。この改正議定書に沿って各国がHFCの削減を実行すれば、モントリオール議定書だけでなくパリ協定に関しても大きなプラスの効果があります。

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(出所)環境省

 キガリ改正では、締約国を「開発途上国第1グループ」「開発途上国第2グループ」「先進国」の3つのグループに分け、グループ毎に段階的なHFCの生産・消費削減目標を定めました。

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(出所)環境省「モントリオール議定書第28回締約国会合の結果」

 基準値は各年のHFC量の平均に加え、開発途上国がHCFCの基準値の65%、先進国が15%となっています。開発途上国の期限が約10年遅くなっているのは、途上国の基礎的な国内需要を満たすためです。国内の一人当たりの消費量が一定値より低い場合に、このような特例が認められています。

非締約国へのHFCの輸出入禁止

 この削減規定に加え、今回からはHFCについても、既に規制対象となっているオゾン層破壊物質と同様の貿易規制が適用されます。締約国は改正議定書の発効から一年以内に、附属書Fで対象となっているHFCの非締約国への輸出入を禁止しなければなりません。また、生産・輸出入量に関する定期報告などについても、既存の規制物質と同様に実施されることとなります。

HFC23の破壊措置

 以上のHFCに関する新規定に加え、HCFCの生産過程で発生するHFC23(HFCの一種)を、2020年1月以降、締約国会合で承認された技術を用いて破壊するという規定も設けられました。

改正の発効条件

 モントリオール議定書は、改正規定の発効条件を「締約国20ヶ国以上の批准」と定めています。今回のキガリ改正も同様に、20カ国以上が批准することを条件とするとともに、どれだけ早くても2019年1月1日以降に発効すると定めています。そのため、締約国は最少でも約2年間の改正対応期間があることになります。

期待される効果

 モントリオール議定書事務局(オゾン事務局)によると、この改正議定書が着実に実施された場合、HFCによる地球全体の平均気温上昇を、今世紀末までに従来の約0.5℃分から0.06℃分まで抑制することができると推計されています。

キガリ改正によって必要となる対応

 商用利用されてきたフロン類は、モントリオール議定書の規制強化の動きとともに、変遷してきました。

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(出所)経済産業省「冷媒フロンの現状と今後の課題について」

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(出所)経済産業省「2015年における産業界の自主行動計画の取組状況について」

 CFCなど特定フロンが対象となるとHCFCが、HCFCも規制対象となるとHFCへと移っていきました。結果、2004年から日本のHFC排出量は右肩上がりです。そしてキガリ改正で新たにHFCが規制対象となりました。これを受けて今後は「ノンフロン」へと移行していくことが迫られています。ノンフロンは、自然界に存在する炭化水素、水、二酸化炭素、アンモニア、空気などを冷媒として用いるため「自然触媒」とも呼ばれています。すでに、ノンフロン冷蔵庫と言われる冷蔵庫には、冷媒として、炭化水素の一種であるイソブタン、断熱材の発泡剤には同じく炭化水素のシクロペンタンなどが持ちられています。

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(出所)一般社団法人日本電子回路工業会

 他にも「MH(水素吸蔵合金)冷凍システム」という手段が模索されています。水素を吸収すると熱を放出し、水素を放出すると熱を吸収するという性質をもつ金属水素化物を活用し、熱の移動を行い、空調に活用するという技術です。また、2種類の金属の接合部に電気を流すと、一方から他方の金属に熱が移動する「ベルチェ効果」を用いた技術もすでに導入され始めています。

 一方、経済産業省は、「現行のフロン排出抑制法に基づく取組を着実に進めれば、2025年までの削減目標の達成は可能であり、2025年以降の削減目標についても、研究開発を進めて行けば、十分に達成可能」と表明。さらに、「新たな冷媒の活用を進めている、我が国の冷凍・空調産業にとっては、むしろ、競争力強化のチャンス」と期待感を伝えています。しかし日本政府は、気候変動対策としてHFCの中でも地球温暖化係数が相対的に低いHFC32(R32)の利用促進を推奨していることから、環境NGOの気候ネットワークやストップ・フロン全国連絡会からは、「R32ではなくノンフロンを促進すべきだ」との声が上がっています。

【参照ページ】EIA Briefing to the 22nd Conference of the Parties (CoP22) to the United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), “Kigali amendment to the montreal Protocol: A Crucial Step in the Fight Against Catastrophic Climate Change,” November 7-18, 2016.
【参照ページ】Full text of the Kigali Agreement in “Special MOP-28 Issue,” Ozonews, vol.16, October 15, 2016.
【参照ページ】UNEP “THE MONTREAL PROTOCOL ON SUBSTANCES THAT DEPLETE THE OZONE LAYER”
【参照ページ】環境省「モントリオール議定書第28回締約国会合の結果」
【参照ページ】環境省「オゾン層破壊物質と温室効果ガスの関係」
【参照ページ】環境省「オゾン層の保護のためのウィーン条約」
【参照ページ】環境省「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」
【参照ページ】外務省「オゾン層保護(ウィーン条約:Vienna Convention for the Protection of the Ozone Layerモントリオール議定書:Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer)」(2015年11月12日)
【参照ページ】経済産業省「MOP28の報告及び今後の検討方針」
【参照ページ】経済産業省「冷媒フロンの現状と今後の課題について」
【参照ページ】経済産業省「オゾン層破壊物質の規制に関する国際枠組み(ウィーン条約・モントリオール議定書)」
【参照ページ】経済産業省「2015年における産業界の自主行動計画の取組状況について」
【参照ページ】国立環境研究所「主なフロンの種類と用途」
【参照ページ】村山隆雄「オゾン層保護の歴史から地球温暖化を考える―「モントリオール議定書」20周年、「京都議定書」10周年に寄せて―」
【参照ページ】一般社団法人日本電子回路工業会「【No.62】代替フロンのHFCとは?
【参照ページ】NPO法人ストップ・フロン全国連絡会「<声明>モントリオール議定書でHFCの削減採択~新たなFガスではなくノンフロン・自然冷媒への転換を!~」
【参照ページ】気候ネットワーク「【プレスリリース】モントリオール議定書「キガリ改正」採択 ~HFCの段階的削減で自然冷媒への転換を加速化するべき~(2016/10/17)」

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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