【対談】ESG投資に注力する仏金融大手BNPパリバ 〜何が原動力となっているのか〜 2018/09/20 事例を見る

 フランスに本社を置く金融機関BNPパリバ。従業員数19万人以上、2017年度売上約432億ユーロ(約5.6兆円)、総資産1.96兆ユーロ(約254兆円)を誇る世界有数の金融機関です。創業は1848年。日本でよく知られている投資銀行としての顔だけでなく、フランス最大の商業銀行としても君臨。グループ全体には、投資運用部門、ウェルスマネジメント部門も抱え、現在世界70カ国以上で事業展開しています。

 この世界有数の大手金融機関であるBNPパリバは近年、グループ全体を挙げてESG投資やサステナブルファイナンスに大幅にシフトしています。例えば、炭素回収・貯留(CCS)設備を設置しない石炭火力発電プロジェクトへのファイナンス(融資、株式・債券投資、アドバイザリーサービス等全て含む)を世界中で全面禁止。石炭火力発電を行う企業についても、石炭依存を減らす姿勢を示さない場合はコーポレート・ファイナンスも禁止。シェールガス、シェールオイル、オイルサンド関連プロジェクトへのファイナンスも禁止しています。一方、再生可能エネルギー分野へのファイナンスでは、2020年までに150億ユーロ(約2兆円)という目標を設定。また、年間の全融資額に占める国連持続可能な開発目標(SDGs)に資する融資割合についても15%という目標も定めており、「SDGsに資する」の定義も社会的弱者支援や自然保護の分野と厳密に定めています。

 ESG投資やサステナブルファイナンスの潮流が世界的に拡大する中、BNPパリバはその波の先頭集団にいると言えます。一体、何がそこまでBNPパリバを駆り立てるのか。今回、BNPパリバ証券でチーフESGアナリストも務める中空麻奈・投資調査本部長、同社ESGアナリストの木畑大輔氏と、当社CEO夫馬賢治との対談が実現。真相を伺いました。


(中)中空 麻奈 BNPパリバ証券 投資調査本部長 チーフESGアナリスト/チーフクレジットアナリスト
(左)木畑 大輔 BNPパリバ証券 投資調査本部ESGアナリスト
(右)夫馬 賢治 ニューラル CEO

日本の状況

夫馬

 BNPパリバのここ数年のESG投資の動きは、私も非常に注目しており、各地で実施している講演の中でも「BNPパリバは最近すごい」と紹介したりしています。ESG投資が浸透する欧州市場の中でも、BNPパリバは業界をリードしていると言っても過言ではない。ESGアナリストという立場から今、ESG市場をどう見ていますか?

中空氏

 日本の金融市場でも、ESG投資の受け止め方は非常に様々です。銀行、生命保険、年金基金等、業態によっても取組内容が異なっています。有価証券への投資を行う部門では、会社全体としてESG投資を推進する方針となり、ESG投資をある意味仕方なくしているところが多いというのが、日本の実情です。また、投資ファンドを見ても、ESGを一部だけ取り入れて「ESG投資ファンド」と呼んでいるものから、100%ESG投資のファンドまでが、玉石混交の状態です。その意味で、日本の金融市場では、ESGの発想はまだまだ始まったばかり。積極的に取り入れているところと、そうでないところの差が非常に大きい。

 一方、グローバル、特に欧州では、ESG投資の潮流は非常に強く、この流れは後戻りしないと考える人が多い。ESGの内容を的確に見極めて、アルファ(市場平均を上回るリターン)を得ることに力を入れてきています。ESG評価の高い企業は企業価値も高くなるということは、今の段階ではまだ証明しきれていませんが、長期的には証明されてくると思います。

夫馬

 中空さんは長年、クレジット(債券)アナリストして活躍してこられ、2018年7月から新たにESGアナリストという役割も加わったわけですが、ESG投資において、株式と債券での状況の違いは感じますか?

中空氏

 株式の分野では、ESGの分析からアップサイド(株価の上昇)をとる動きが先行して出てきました。一方、債券では状況が異なります。例えば、ESG評価の高い企業や機関の債券だけ集めても、信用リスクが低くなるため、利回りが小さくリターンがとれません。また、ESG評価の高い企業の債券に投資することは、リスクが相対的に少ないものに投資することになり、いわば保険を付与しているようなものととらえる考え方もできますが、コンセンサスを得た考え方はまだなく、現在発展途上の段階です。

 グリーンボンドにしても、日本では現在、利回りが低く設定されているため、現場の債券運用者の間ではリターンが出しづらいと認識されています。同じ利回りであれば、グリーンでないものより、グリーンボンドを買おうという動機はありますが、グリーンボンドが広がるには、しっかりとしたリターンが得られることが重要となってきます。

 このように、株式と債券の間で取り組みに温度差があり、取り組んでいる市場関係者の間でも温度差があるというのが日本の状況です。しかし、海外の情報が日本にも少しずつ入ってきており、また日本にも外資系金融機関が数多くあり海外資金が日本にも入ってきている他、海外の目線で日本企業を選別することも行われだしています。「日本は海外とは事情が違う」という言葉は通用しなくなってきています。

海外の状況

夫馬

 ESG投資の話をすると「日本とは違って海外ではESG投資は大きく進んでいる」と話題が必ず出ます。実際私も言っています(笑)。中空さんは、海外でのESG投資状況をどのように捉えていますか?

中空氏

 日本の機関投資家と話をしても、必ず「どうして欧州はそれほどESG投資に熱心なのか」という話題になります。それへの説明として、欧州には日本とは違う規制がある、宗教的な考え方の違いがある、と言う人もいますが、私はそれだけでなないと感じています。当社の欧州のアナリストに聞くと「(欧州の企業は)自分の会社がダイベストメント(株式売却)されるかもしれないというシナリオを意識している」と言います。すなわち、今後起こりうる変化の中で、自分たちが投資対象として選ばれなくなるという危機感を、事業会社が抱き始めているのです。

 さらに、事業会社の中には、事業環境変化のプレッシャー、NGOからのプレッシャーなど、様々なプレッシャーを浴びています。そして、率先してサステナビリティの観点を強化し、積極的に統合報告書等でディスクロージャー(情報開示)を実施してきています。こうした発行体側の変化がESG投資の機運を盛り上げているとも言えます。

木畑氏

 日本では、ESG評価機関側の課題もあると考えています。日本の機関投資家と話をすると「企業のESG評価はどのように行うものなのか?」という疑問の声が出ます。すでに市場には、ESG評価機関が実施したESGスコアが出回っていますが、評価各社によってスコアにばらつきがあります。また機関投資家は、ESG評価機関のスコアを使わずに、自身で評価を行うという道もありますが、そうすると評価のばらつきがさらに増幅し、資金を預けるアセットオーナーにとっては、評価手法がますますわかりづらいものになってしまいます。ESG評価機関の信頼性を高めるためには、公的機関が評価機関に対して許認可を与えるような仕組みがあってもいいかもしれません。

BNPパリバの考え方

夫馬

 ESG投資に関する考え方は、日本でも海外でもばらつきが多い中、BNPパリバはグループ全体で全面的にESGにシフトしてきている。ジャン=ローラン・ボナフェCEOも、「銀行および金融業界は、低炭素経済の構築において最前線に立たねばなりません」「時間は差し迫っており、まもなく手遅れになるだろう」「我々は、経済を転換させる手段を一人一人が持てるよう、努力を集中すべきです」というメッセージを対外的にも発信している。その背景には、どのような企業としての思惑があるのでしょうか?

中空氏

 欧州の投資銀行は、リーマンショックや欧州債務危機の影響を大きく受け、企業の競争力や収益力を改めて高めていくことが必要となりました。そうした状況において、BNPパリバは、以前からの得意分野であった環境金融と、フランス、ベルギー、イタリア、ルクセンブルクを中心としたリテール分野を競争力の柱として位置づけました。フランスでは、パリ協定が生まれ、金融機関に気候変動関連の情報開示を義務付けた仏エネルギー転換法173条もあり、この地理的アドバンテージを活かすという狙いもあります。

 その方向性の中で行き着いたのが、ESG投資やサステナブルファイナンスの分野です。BNPパリバは、大規模なダイベストメントを発表していますが、縮小均衡を望んでいるわけではなく、新たな産業に資金を提供してくためのものです。

木畑氏

 ESG投資は、とりわけE(環境)が先行して進んでいる面があります。BNPパリバでも、まずは環境面でのリスクを先んじて排除する戦略を採っており、今後はこれまで以上にS(社会)の領域に広げていく考えです。ですので、環境に関するダイベストメントはすでに始まっていますが、今後は社会に関してもより厳しい目が向けられていくのではないでしょうか。

EUのサステナブルファイナンス法制化の動き

夫馬

 先ほど、木畑さんからESGデータやESG評価機関の信用性が課題というお話もありました。いまEUでは、サステナブルファイナンスの法制化の動きの中で、「サステナブル」や「グリーン」のEUとしての公式定義を定めにいこうとしています。日本でも同様の動きを望みますか?

中空氏

 「サステナブル」や「グリーン」を政府が定めるということについては、市場関係者からは2つの見方が出ています。まず、どんなものでも規制は嫌だという意見。資本市場には、元々どんな規制でも忌避する傾向がありますし、またグリーンファイナンスについても定義を定めるのはまだ時期尚早との声もあります。もう一つの見方は、黎明期に不適切な金融商品が登場して損をする投資家が出てくると、グリーンファイナンスやESG投資そのものに悪いイメージがついてしまう。それを防ぐために規制は必要だという意見です。

 欧州や米国では、様々なタイプの発行体が自ずと次々にグリーンボンドを発行している一方、日本では特定の発行体だけに偏っている状況です。私としては、規制を強化することが必ずしも良いとは思いませんが、日本でグリーンボンド市場を盛り上げるためには、制度的な整備も必要かもしれないと考えるようにもなりました。

 グリーンやサステナブルを誰が判断するのか。グリーンだと思われていたものが後でブラウン(グリーンでない)と判断されたときに誰が責任をとるのか。そういうルールが整備されていけば、投資家は今よりも安心してグリーンやサステナブルな金融商品に投資しやすくなるでしょう。私個人としては、グリーンボンドが発行後にグリーンではないと判断されたときには、発行体が買い戻すコベナンツ(契約条項)を付けるべきだとも考えています。
 

フランスのグリーンボンド国債

夫馬

 BNPパリバが本社を置くフランスでは、世界で2番目となるグリーンボンド国債が発行されました。海外の評論家の中には、グリーンボンド国債を発行することで、その国のグリーンボンド市場やESG投資市場を盛り上がると主張している人もいます。フランスも、年金基金や保険の間でESG投資は旺盛になってきていますが、その背景には政府のグリーンボンド国債発行があったと考えますか?

中空氏

 あまりそうは思いません(笑)。むしろフランス政府グリーンボンド国債を発行するニュースが出たとき、私たちの間では「ようやく出るのか」という感じでした。それぐらい欧州では様々なタイプの発行体がグリーンボンドを発行しています。「ついに中央政府が」というよりも、「あぁ。やっと中央政府も出すのね」くらいの受け止め方でしたね。

ESGアナリストの役割は?

夫馬

 世界中に配置されたESGアナリストはどのような役割を担っていくのですか?

中空氏

 私たちはESGをビックデータ・ビジネスだと捉えています。ESGアナリストは、これから起きる事象をデータと結びつけて分析し、シナリオを紡ぎ出すことで、企業に新たな提案ができると考えています。ある事業がサステナブル(持続可能)ではないと判断された場合、ソリューションは2つあり、一つは事業領域を転換すること、もう一つはサステナビリティを損ねる要因を緩和することです。企業を向かうべき方向に導くことが、私たちの役割です。

木畑氏

 データとシナリオという点では、サプライチェーンにも注目しています。サプライヤーや地域毎のリスクエクスポージャーを分析することで、事業の機会とリスクを提言できると考えています。

HFT(高頻度取引)とESG投資

夫馬

 ESGはデータビジネスだという考え方は私も賛成です。それと同時に、金融ビジネスとデータと言うと、高速に超短期売買を繰り返すHFT(高頻度取引)の存在もあります。長期投資を希求するESG投資と超短期投資のHFTでは思想が真逆ですし、私も講演の際に会場からの質問で「金融機関はHFTを増やしていると聞く。本当に長期投資という考え方が浸透しているのか?」という疑問をぶつけられることがあります。この点、市場関係者の一人として中空さんはどのように見ていますか?

中空氏

 現段階ではESG投資とHFTの両方が市場に存在しています。しかし、今後、ESG投資が普及し、短期的な情報に対する市場の反応が少なくなってくると、HFTの機会の源泉である「市場の歪み」が小さくなっていくと考えられます。現段階では長期投資家と超短期投資家の2種類が市場で売買をしているのですが、ESG投資が基底を担うようになっていくと思っています。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役CEO

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