2050年までの運用ポートフォリオのカーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)にコミットするアセットオーナーのイニシアチブ「Net-Zero Asset Owner Alliance(NZAOA)」は12月10日、気温上昇を1.5℃に抑えるために必要なエネルギー資源、電力、鉄鋼、セメント、交通・輸送の5業種での変革をまとめたレポートを発表。政府と企業の双方に対し、実行すべきアクションを示した形。
【参考】【国際】NZAOA、3機関が加盟。2050年運用ポートフォリオCO2ゼロに向け合計530兆円に(2020年11月21日)
NZAOAは、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)が展開する金融イニシアチブの一つ。同レポートは、NZAOAが、豪シドニー工科大学(UTS)の持続可能な未来研究所に作成を依頼したもの。12月12日から開催された国連気候野心サミットに向けた重要情報として位置づける狙いが合った。UTSは2019年に「One Earth Climate Model(OECM)」モデルを発表しており、それに基づき今回、5業界での1.5℃ロードマップを作成した。
NZAOAは、炭素回収・利用・貯留(CCUS)や、CCSにバイオエネルギーを組み合わせる(BECCS)の実現の不透明さを考慮し、CCUSやBECCSに過度に頼りすぎないロードマップを重視している。UTSが開発したOECMモデルは、それとの整合性もあり、業種毎の推定をモデルに投入できるため、NZAOAはOECMモデルを有力なツールと判断した。
同レポートは、社会経済的な今後の変化や、技術動向も見据えながら、5業種についての排出量の推計値を算出。その上で、1.5℃目標に到達するための、削減量を計算した。
その結果、2021年から2025年までの間でも、世界のスコープ1とスコープ2の排出量を約28%(業種により上下5%幅)削減しなければならず、その中でも特に、重要なエネルギー源となる電力については、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めなければいけないことがわかった。
とりわけ、石炭火力発電と石炭燃焼熱エネルギーについては、欧州と北米の経済協力開発機構(OECD)加盟国では2030年までに、いかなる例外もなく、廃止することが必須と言明。廃止が遅れるほど、パリ協定の目標達成は遠のくと厳しく指摘した。その他の電力エネルギーと熱エネルギーでも、再生可能型に早急に転換しなければならないため、2050年までに全ての化石燃料を段階的に全廃することを見据えた5年毎の削減目標を定めるよう求めた。
さらに再生可能エネルギー普及のために、障壁となっている法規制の手続の煩雑さを解消するとともに、再生可能エネルギー電力については、全量買取義務を持たせる法規制の導入を推奨した。
セメントと鉄鋼については、自前の再生可能エネルギー発電建設や、電力購入契約(PPA)での再生可能エネルギー電源の確保が必要となるとし、交通・輸送では、自動車、バス、トラック、船舶、航空機のエネルギー源としての再生可能エネルギー、バイオ燃料、合成燃料が大量に必要となると指摘した。これらの電力と熱に関する新たな設備投資へは、2021年から2050年の間に合計で60兆米ドル(約6,200兆円)が必要となると試算。年平均では2兆米ドルと、世界のGDPの約1.5%を投入する必要があるとした。
その上で、自動車、バス、トラックについては、2030年までに内燃機関エンジンを段階的に全廃することが必要と断定。その結果、ハイブリッド車についても全廃が求められることとなる。また船舶と航空機でも、2030年から2040年の間に脱化石燃料を完了し、再生可能エネルギー電力や再生可能な燃料へ転換することが避けられないと分析した。
また鉄鋼では、2035年までに電炉と水素還元方式への転換が必要となる。セメントでは、セメント生産での排出量削減努力だけでなく、セメント需要そのものの抑制と、セメントの再利用・リサイクルを可能にする素材・建材設計が必要とした。その上でネガティブ・エミッション策として植林をセットで進める必要性を訴えた。
同レポートは、これらの産業変革を起こすための政府の政策についても今回、提言をまとめた。1つ目は、カーボンプライシング制度の導入で、さらに鉄鋼に対しては電炉や水素還元方式の製鉄を促すための経済インセンティブを付ける「鉄鋼税」の導入も推奨した。2つ目は、化石燃料に対する全ての補助金の撤廃。3つ目は、森林再生政策の導入。
【参照ページ】ONE EARTH CLIMATE MODEL PLOTS POSSIBLE COURSE FOR REAL ECONOMY TO MEET PARIS 1.5 °C SCENARIO
【レポート】SECTORAL PATHWAYS TO NET ZERO EMISSIONS
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