ロンドンを拠点とする金融会社グリーンシル・キャピタルが3月8日、裁判所に経営破綻を申請した。同社は、サプライチェーンでの決済を融通するサービス「サプライチェーン・ファイナンス」の世界最大手のひとつだったが、「深刻な財政難」に陥って崩壊した。この問題は一体どのように始まり、そしてどのような影響をもたらしているのか。
グリーンシル・キャピタルとは
グリーンシル・キャピタル(以下グリーンシル)は、オーストラリア人金融家のレックス・グリーンシル氏が2011年に設立。企業の請求書を有料で即時決済するサプライチェーン・ファイナンスを専門としており、流通での支払短縮化の役割を果たしてきた。グリーンシルは、サプライチェーン・ファイナンス(「リバース・ファクタリング」とも呼ばれる)、売掛金ファイナンス(「ファクタリング」とも呼ばれる)、将来売掛金ファイナンス(将来債権ファクタリング)の3つの事業を主な収益源としていた。
従来のファクタリングは、企業が顧客に発行した請求書を第三者に売却し、第三者が顧客から代金を回収するもの。だが、リバース・ファクタリングでは、第三者(ここではグリーンシル)が、企業が取引先に支払うべき債務を、少し割引をした上で、元の企業が支払うよりもはるかに迅速に支払う。後日、そして第三者は企業から代金を受け取る。一方、将来の売上や支払いを期待して、販売前の企業に資金を貸し付けるのが「将来売掛金ファイナンス」。将来売掛金ファイナンスは、将来の売上や支払いの見込みに基づいて、販売前の企業に資金を貸し付けるもので、不確実な支払いを前提としており、リスクが高いと考えられている。
従来、銀行はサプライチェーン・ファイナンスを行ってきたが、銀行を対象とした規制や資本規制により、このような融資は収益性が低くなってきている。リバース・ファクタリングに賛成の人は、債務をより迅速に解決できるため、サプライヤーにも企業にもメリットがあると言う。一方、リバース・ファクタリングに批判的な人は、企業が債務を隠蔽したり、取引関係にある強い側の常習的な支払い遅延を助長したりする可能性があると指摘している。
グリーンシルは、その活動資金を調達するために、クレディ・スイスが運営するサプライチェーン専門の投資ファンドからの融資に依存していた。グリーンシルは定期的に債券を発行し、それをクレディ・スイスの100億米ドル規模のファンドが購入することで、グリーンシルに現金を供給していた。しかし、ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナルによると、クレディ・スイスの投資ファンドは、グリーンシルの「将来売掛金ファイナンス」事業収益を原資産とする債券を購入したとされている。これらのファイナンスは、将来の不確実な売上を担保におり、元来リスクが高かった。
【参照動画】Greensill, Gupta and Cameron: what went wrong | FT Film
サプライチェーン・ファイナンスとは
サプライチェーン・ファイナンスは、一般的な支払い問題を解決する性格をもっている。サプライヤーは通常、顧客に商品やサービスを提供し、請求書を発行して支払いを求める。サプライヤーは売掛金をすぐにでも回収したいと思うかもしれないが、顧客は支払いを遅らせたいと考える可能性もある。特に顧客が大企業で影響力を持っている場合には、2ヶ月以上支払いを待つように要求されることもある。リバースファクタリングでは、金融機関が顧客に代わってサプライヤーへの支払いを早めに行うことを提案し、手数料または手数料の一部として若干の割引を行います。顧客は、合意した後日、多くの場合4〜5ヵ月後に金融機関への支払いを済ませる。
(出所)FTリサーチより翻訳
サプライチェーン・ファイナンスの論点
サプライチェーン・ファイナンスを利用している企業は、金融機関に資金を借りているが、経理担当者はこの資金を負債としては分類しない。その代わり、企業は通常、貸借対照表の「買掛金」または「未払金」の項目に、サプライヤーに支払う他の請求書と一緒に計上する。決算書の脚注には、この項目のうち、どのぐらいがサプライヤーから金融機関に譲り渡された債務であるかが説明されているかもしれないが、一般的にはそれを開示する義務はない。
結果として、開示の不備は、格付会社と米国証券取引委員会を含む規制当局の双方で悩みのタネとなっている。ビッグ4の監査法人も、2019年に米国の会計監視機関であるFASBに連名で書簡を送り、財務情報開示の「透明性と一貫性の向上」を求めている。
グリーンシル問題の経緯と内容
今回のグリーンシル危機は、…
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