関西経済連合会(関経連)は9月11日、コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する提案「マルチステークホルダー資本主義に基づくコーポレートガバナンス・コードの提案」を発表した。北海道経済連合会、北陸経済連合会、中部経済連合会、中国経済連合会、四国経済連合会、九州経済連合会も賛同した。
各団体は今回、「過度な株主重視や短視眼的な経営が広がらないかという懸念を抱いてきた」と伝え、株主を重視することが短期思考経営につながっているとの見方を伝えた。
また、米ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が2019年に「マルチステークホルダー資本主義」を提唱したことに触れ、株主重視からマルチステークホルダー重視に転換する必要があるとした。しかし、米国ではマルチステークホルダー資本主義の提唱が、株主資本主義とは矛盾しない見方で議論が決着したことについては、今回の声明では触れていない。
【参考】【アメリカ】大手CEO181人、幅広いステークホルダー重視の共同声明発表。株主重視から従業員重視ではない(2019年8月21日)
今回の提言では、コーポレートガバナンスの要件を一律的に整備することではなく、各ステークホルダーとの対話を通じ、自主性を重視した柔軟性のある制度設計とすることを強く要求。それにより、コンプライ・オア・エクスプレイン原則の中で、コンプライとエクスプレインを同価値として扱うことを明確化すべきと主張した。
また、政策保有株式について、「銘柄ごとに意義が異なるにも関わらず一律に縮減させる方向性を明記することは、それぞれの企業における事業戦略の幅を狭め、結果として持続的な企業価値向上の妨げとなる懸念がある」と明記。政策保有株式の売却に消極的な姿勢を示した。その代わりに、長期保有株主を優遇すべく、議決権や税制(キャピタルゲインの税制優遇措置)等の面で優遇措置を設けるべきとした。
同様に、企業買収の際に、「買収提案者は、買収が成立した後、従業員、取引先に対してどのように対応するのか、顧客や地域社会に対してどう責任を果たしていくのかについても説明すべき」とし、M&Aにも消極的な姿勢を示した。具体的には、買収提案者に対する情報提供請求権を企業に付与することと、買収提案者に対して社会的責任に関する情報の提出を求めることを、コーポレートガバナンス・コードに追加すべきとした。
独立社外取締役の選任についても消極的な立場をとった。「独立社外取締役の候補者が少なく、一人の兼務数が過度に増えると、独立社外取締役が適切に機能発揮することができず、必ずしも十分な企業価値向上につながっていないのではないかとの懸念が持たれている」とし、「少なくとも3分の1以上選任」としている現行のコーポレートガバナンス・コードのルールを廃し、「3分の1を目安として」に改めるべきとした。現在のコーポレートガバナンス・コードは、独立社外取締役が、経営の視座を中長期的に誘導する要の役割としているが、そのことには触れなかった。
以上、政策保有株式、企業買収、独立社外取締役の3つについては、海外のコーポレートガバナンス・コードでは、企業経営を中長期的な目線に転換することを狙っているが、日本ではこれら3つにより企業経営が短期的になると捉えられている風潮があり、国際的な議論と大きな乖離がある。
一方、今回の提言では、国際的な議論と符合する内容も盛り込まれた。まず、四半期開示の義務付けの廃止。次に、議決権行使助言会社に対し、推奨内容の事後開示や策定体制に関する開示要求の強化。そして、一定の規律を設ける形で自社株買いの抑制。
また、情報開示については、「対話を行うためには、積極的な情報開示を行うことが前提となる。近年重要性が増している非財務情報の開示にも、工夫を凝らしつつ前向きな姿勢を持って取り組む必要がある」とし肯定的な立場を採った。
日本の上場企業に関しては、PBRが低いことが問題視されており、中長期的経営が弱いことが理由の一つとして挙げられている。しかし今回の提言では、PBRが低いことの原因の分析については触れなかった。今回の提案のどれが、PBR向上や、提言でも掲げられている「持続的な成長」に資するか、精査が必要だ。
【参照ページ】意見書『コーポレートガバナンスに関する提言』『マルチステークホルダー資本主義に基づくコーポレートガバナンス・コードの提案』の取りまとめについて
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