Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜 2014/09/19 体系的に学ぶ

日本におけるダイバーシティ問題

日本のダイバーシティの特徴

前回の「ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜」では、欧米と日本との間で大きく異なるダイバーシティ概念の背景として、そもそも日本と欧米では社会の多様性が違っているということを説明しました。欧米には様々な人種、民族が住んでおり、そのもとで能力・パフォーマンスを重視して採用をすると自然と社内が多様化します。そして、自然と集まる多様な人々に働きやすい環境を作るという目的で、ダイバーシティ・マネジメントという概念が生まれてきました。

一方日本は、欧米に比べ多様性が小さく、欧米で生まれたダイバーシティの必要性があまり認識されてきませんでした。過去日本でダイバーシティがホットな話題になったのは、1985年の男女雇用機会均等法の制定時です。1981年に発行した女性差別撤廃条約や、当時相次いで最高裁の違憲判決が出た日産自動車事件、住友セメント事件、伊豆シャボテン公園事件が契機となり、日本でも倫理的な側面から職場で男性と女性を同等に扱う機運が高まり、それ以降ダイバーシティといえば「女性」という風潮が現在まで続いています。

ところが、その日本でも、ダイバーシティの経済的必要性がここ数年で著しく高まっています。変化をもたらしている大きな要因は、?グローバル企業の海外進出の活発化、?ローカル企業の労働力不足です。

グローバル企業の真のグローバル化

グローバル企業が属しているビジネス環境とは、人材獲得力が競争の勝敗を左右する世界です。進出先で事業活動を遂行するには、現地の従業員やマネージャーを採用しなければなりません。そのため採用活動は、現地企業や他のグローバル企業との人材の取り合いが必至となるのです。国籍・民族の多様化は、グローバル企業本社にも及びます。グローバルなビジネス環境で真に勝っていくためには、国籍を問わず世界中の優秀な人材を本社組織の中にも呼び込まなければなりません。欧米のグローバル企業はいち早くこの競争に先手を打っており、本社経営陣の国籍多様化や現地採用人材の本社登用を促進し、国籍を問わない人事制度を構築してきています。

テレビやビジネス雑誌など多くのメディアでも報じられているように、日本のグローバル企業が海外市場でまだまだ苦戦しています。人材採用においても、日本企業は苦しい状況です。アジアの経済発展の中心の一つであるシンガポールでは、働きたい企業の上位に日本企業は1社も入ってこないというリサーチ結果も報告されています。理由としては、日本企業が外国人にとって働きやすい環境ではないということが挙げられてもいます。グローバル企業が真のグローバル化を果たすためには、国籍・民族のダイバーシティ・マネジメント、すなわち日本人以外の人々にとって働きやすい環境を整備して行く必要があります。

大きな影を落とすローカル企業の労働力不足

日本経済が活気を取り戻すためには、これらのグローバル企業が海外市場で成功を収めていくことが必要と言われていますが、グローバルなビジネス環境で事業をしている日本企業のインパクトは実は日本経済の約3割に過ぎません。それ以外の多くの日本企業は、日本国内で小売や運輸、医療福祉や飲食店を営んでいるローカル企業です。では、このローカル企業は、ダイバーシティ・マネジメントとは無縁でいられるかというととんでもありません。実は、グローバル企業以上に日本のローカル企業はダイバーシティ・マネジメントが事業継続の根管を握る時代へと突入しています。

ここ数年で大きくクローズアップされてきた日本のローカル企業の課題は、労働力不足です。日本で労働力不足が課題となってきたというとピンとこない方も多いと思います。例えばこの十数年間「日本企業は国際競争力を高めるために、海外移転を進めている」「日本は人口が減少し、市場が縮小している」「かつて賑わいを見せた商店街は今やシャッター通りと化している」「事業撤退により大量のリストラが行わることになった」と説明が随所でなされてきたためです。その結果、多くの人びとの頭のなかでは、「日本は人余りで、働く場所が少なくなっている」と理解してしまっています。ところが、日本は今、明らかな労働力不足の時代を迎え始めているのです。

突然降って湧いたような「労働力不足」問題について、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏は著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』の中で解説をしてくれています。冨山氏はまず、日本には、グローバル経済圏とローカル経済圏を明確にわけて理解する必要があると説きます。日本のグローバル経済圏では依然として人余りの状況が続いており、海外進出や海外市場での苦戦、新興国企業のキャッチアップなどにより、日本企業はスリム化を実行に移し、迅速な意思決定と資本効率の向上のために人件費生産性を向上させなくてはいけなくなっています。一方、日本のローカル経済圏では深刻な人不足が発生するという真逆の事態が生じています。背景にあるのは、?少子化、?若者の都市への移住、?団塊の世代の大量退職。
特に?団塊の世代の大量退職により、5年前ほどから労働力不足がより深刻化しました。結果、人口減少社会や過疎化などでローカル経済圏は市場がどんどん小さくなっていますが、それ以上に労働力が減少するという状況が起こっています。冨山氏は前述の著書の中で、事態を下記のように分析しています。

「1947年から1949年に生まれた団塊の世代が、2012年から65歳以上の高齢者になり始めた2013年10月の人口推計では、高齢者の比率が初めて25%を超えた。彼らが平均寿命を迎えるまでのおよそ20年間は、高齢者の数が圧倒的に多くなる。段階の世代以後の数は急激に少なくなっているとともに、少子化が深刻化しているので、人手不足に関しては最も逼迫が大きい時期を迎える。

ただ、この20年間を過ぎて段階の世代が寿命を迎えると、高齢者の絶対数も減少に転じる。それでも、真に有効な少子化対策が実施されない限り子どもの数は増えないと予測されるので、生産年齢人口が増加に転じることは考えられない。結局、人手不足の構図は解消しないのである。深刻な人手不足の状態がこれから20年は続くという事実は、決して一過性とは言えない。加えてその先も好転が予測できないのであれば、構造的な問題として対処していかないとこの状況はしのげない。」

実際にローカル経済圏に属するサービス業では、人不足から年々時給が高まっています。

データでも裏打ちされるサービス分野の人手不足

冨山氏が指摘するサービス分野の人手不足は、様々なデータにも表れています。

日本のアルバイト・パートの賃金上昇
(出所:リクルートジョブズ「2014年7月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査」)

上記のリクルートジョブズ社の調査では、飲食店や物流、清掃職のアルバイト・パートの時給が急速に上がっています。今日、企業は人手不足を解消するために、賃金をあげて採用をしようとしていますが、それでも人手不足が解消できないほど、ローカル経済圏の人手不足は深刻化しています。

同様に、ローカル経済圏が人手不足の様子は、厚生労働省の有効求人倍率からも確認できます。

有効求人倍率
(出所:厚生労働省「一般職業紹介状況7月分」)

上記は2014年7月時の有効求人倍率のデータです。倍率が2倍以上の職種を赤くしましたが、東日本大震災からの復興や2020年オリンピックで需要の多い建設分野を除けば、医療・福祉サービス、飲食・小売、運輸、保安などサービス分野で人手不足が発生している様子がわかります。

ローカル経済圏の鍵をにぎる女性のダイバーシティ

繰り返しになりますが、日本経済の約7割はグローバル市場環境とは無縁なローカル経済圏でのビジネスです。そして、このローカル経済圏を支えているのは女性です。

性別別職種別就業者数
(出所:総務省「平成22年労働力調査」)

こちらは2010年の日本の性別別の職種別就業者数の状況を示したものです。男性が建設、製造、運輸、卸売・小売での就業者が多いのに対し、女性は卸売・小売、飲食、医療・福祉の分野に労働力を提供していることがわかります。日本経済の多数を占めるローカル経済圏では、すでに女性によって業界が支えられています。日本では「ダイバーシティ=女性」という考え方がなんとなく定着してきた背景には、このようにすでに日本が女性の経済力を当てにしなければ成立しえないところまできているという事情があるのです。

このように、「女性の活用」「女性の働き方」という日本のダイバーシティ推進は、すでに倫理的必要性という次元から、経済的必要性という次元にまで展開してきています。最近では、労働力を確保できないという理由で、閉店を余儀なくされる飲食チェーンやスーパーも出てきているほどです。もちろん、この「女性」という中にも求める働き方は多様です。育児をしながら短期で仕事をしたいという方もいますし、仕事のやりがいを求めて責任のあるポジションに就きたいという方もいます。労働力が枯渇している、この分野では、様々な働き方を求める女性がいるという事実に向き合い、それぞれのタイプの女性をうまく活用していく制度づくりや環境づくりが求められています。

女性だけのダイバーシティを越えて

ローカル経済圏におけるダイバーシティの推進は、女性だけに留まりません。すでに、多くの女性が仕事を求め、労働力を提供していても、まだまだ労働力は不足しています。少子化で若者の数はさらに減っていきます。そこで、期待される労働力の提供者は、外国人と高齢者です。東京都内でも最近、外国人の方がコンビニエンスストアや飲食店で勤務している様子を目にする機会が増えてきました。背景には、外国人にとって働きやすい国になるというお題目以上に、外国人従業員に支えてもらわなければ、事業が継続できなくなっているという現状があります。しかしながら、日本の地方都市や農村部では、外国人に対する理解がまだまだ進みません。すると、今後高齢者をどのように活用していけるかが事業継続に関わってきます。高齢者に対するダイバーシティはますますホットなテーマになっていきます。

今回は、ダイバーシティをいかにして推進していくかという点については触れることができませんでしたが、ダイバーシティの重要性は以前とは比較できないほど大きくなっています。グローバル企業における外国人従業員の位置づけ、そしてローカル企業における女性、外国人、高齢者労働力の確保。どちらもが、以前は日本が直面していなかった新たなテーマです。1985年に男女雇用機会均等法が成立してから、間もなく30年。ダイバーシティの意義は大きな変化のときを迎えています。

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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