コカ・コーラがアラブ首長国連邦で展開しているキャンペーン「Hello Happiness」が、現地で大きな話題を呼んでいる。Youtubeでの紹介動画はすでに再生回数200万を突破、1万以上の「Good」をリリース後わずか1ヶ月で集めた。
キャンペーンの舞台はアラブ首長国連邦。このアラブの石油大国には、仕事を求めてインドなど南アジアから大量の移民労働者が到来。建設現場、工場、農場などで働いている。その数なんとインドからの移民だけで約175万人、アラブ首長国連邦の人口の30%を占める。そのほとんどは、妻や子供を母国に残し、日給6ドルという大変過酷な生活環境の中で単身暮らしている。家族をとても大事にする南アジアの人々にとって、家族と離れ離れに過ごすことはとても辛い。毎日電話で話したい。だが、1分0.91ドルもする国際電話は彼らにとって身近な存在ではない。
そんな中、コカコーラが開始した「Hello Happiness」の中身はこうだ。コカコーラはアラブ首長国連邦の各地、移民労働者が多くいる建設現場や寮周辺に特殊な電話ボックスを設置。コカコーラのペットボトルのフタを1つ投入すると、3分間無料で国際電話が掛けられるというサービスを始めたのだ。電話ボックスは、コカコーラのシンボルカラーである赤色に塗られ、ペットボトルについたロゴがコカコーラのものかどうかを画像認識する機能も備わり、残り通話時間を示すサインは、コカコーラがボトルから減っていく様子で表現されている。電話ボックスの外には、コカコーラのペットボトルのフタを握りしめ長蛇の列をつくる人たち。笑顔で順番を待つ人達の様子がYouTubeの映像からは垣間見られる。Hello Happinessは、現地の人から大きな支持を集め、この電話ボックスが設置された今年3月だけで、延べ4万人の人がペットボトルのフタを使って愛する人たちのもとへ電話をかけたという。
コカコーラ自身にとっての「Hello Happiness」キャンペーンとは何だったのだろう。純粋な社会貢献プログラムとしても高く評価されるこのキャンペーン、マーケティング戦略に長けるコカコーラが当然大きな目的を持っていてもおかしくはない。少し俯瞰して中東におけるコカコーラの市場環境を見てみよう。
(出所)New York Times
この図は2006年とやや古いが、世界における「コカコーラ vs ペプシコーラ」のシェア争いの状況を記したもの。赤くなっている国ではコカコーラが優勢、青くなっている国ではペプシコーラが優勢。色の濃さはシェアの大小を表している。世界全体では大きくリードしているコカコーラだが、実は東南アジアから中東にかけてはコカコーラは苦戦している。特にサウジアラビアとアラブ首長国連邦では色が濃い青になっていることがわかる。
(出所)Euromonitor
また、こちらは、アラブ首長国連邦におけるコーラを含む炭酸ドリンク全体のマーケットシェアの推移。コカコーラもマーケットシェアを伸ばしているものの、それ以上にペプシは勢いを増し、コカコーラの窮状が見て取れる。なぜ中東でコカコーラは苦戦しているのだろうか。そこには、飲料業界全体を超えた社会環境要因が働いている。中東地域では、パレスチナ問題や宗教対立などから歴史的に反米意識が根強い。コカコーラはそのアメリカの「象徴」として見られ、逆風が吹いているという。もちろん、ペプシコーラを手がけるペプシコもニューヨークに本社を置くアメリカの会社ではあるが、消費者はコカコーラに特別なイメージを抱いているようだ。中東でペプシにおさえられているコカコーラ。今後消費量の拡大が予想される中東で、コカコーラはイメージを挽回する作戦がどうしても欲しい状況だ。
一方、Hello Happinessのターゲットとなった南アジア移民の本国に目を向けてみよう。インドでも、ペプシが先行して1986年に市場に参入しマーケットを席巻、遅れて1993年に参入したコカコーラは今でも後塵を拝している。しかしながら、その後コカコーラはシェアを奪取し、今ではペプシコーラシェア23.5%に対し、コカコーラ16.5%とその差は着実に縮まっている(残りのシェアは、続々生まれる地元ドリンクメーカーがとっている)。インド人にとってコカコーラに対するイメージを悪くない。むしろ、そのシェア挽回のストーリーからコカコーラがブランド戦略で成功しているとも言えよう。
このように市場環境を眺めてみると、Hello Happinessに寄せるコカコーラの想いが見えてくる。反米意識が強い中東で、社会に善良な企業であるというブランドで支持を集め、ペプシに勝ちたい。そのターゲットを、コカコーラにプラスの印象を持つ南アジアからの移民に定め、同時に社会的課題にも貢献したい。あくまで推察にすぎないが、インパクトインベストメントとして、Hello Happinessは、社会的にも企業経済的にも意義のある取り組みになりそうだ。
実はコカコーラにとって、ペットボトルのフタを使ったキャンペーンは今回が初めてではない。アメリカでは、フタについた記号コードを入力するとポイントがもらえる販促キャンペーン「My Coke Rewards」を2006年に開始し2014年現在も継続されている。また、同様のプログラムは、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、韓国でも実施されている。フタというアイテムをキャンペーンに変えてしまうことはコカコーラにとってはお家芸。Hello Happinessも、世界中のアメリカのプロモーションを支える世界広告代理店ビッグスリーの一角を占めるWPPグループ傘下のヤング・アンド・ルビカムのドバイ現地法人が支援している。従来のキャンペーンアイテムを、現地の市場環境や社会状況にカスタマイズして装いを新たにした好事例とも言える。
CSR担当者にとって、社会的課題の解決と企業経済の向上の両方を結びつけて実現していくことは最大のミッションと言っても過言ではない。ときには社会から非難を浴びる商品「コカコーラ」は、様々な工夫をしながら世界の各地域に認められる存在になろうと奮闘している。Hello Happinessキャンペーンは、中東におけるコカコーラのブランドをどう変えていくのか。今後の変化に目が離せない。
【キャンペーンサイト】Hello Happiness - Coca-Cola
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