サプライチェーンのグローバル化・複雑化に伴い食料品の衛生リスクが高まり、食料を原因とする感染症や健康被害が世界各地で発生している昨今においては、「食の安全」は世界が解決するべき主要なサステナビリティ課題の一つとなりつつある。
この課題へ挑戦するために、IBM Researchと食品大手のMarsは1月29日、食の安全に対する理解を深める上で鍵を握るゲノム研究の進展に向けた協働プラットフォーム、"Consortium for Sequencing the Food Supply Chain"を設立したと発表した。
現在米国では毎年6人に1人が食料品を原因とする疾患に感染しており、その結果として128,000人が入院し3,000人が死亡、90億ドルの医療費が費やされている。また、750億USドル相当の食料品が汚染によりリコールまたは廃棄されているという現状もある。このように、今世界では食の安全に対する重要性が急激に高まりつつあり、遺伝情報の活用など最先端の研究に基づくより革新的なアプローチが求められている。
今回IBM ResearchおよびMarsが設立したコンソーシアムは、これまでにない革新的な研究方法に基づいて微生物の相互作用や食のサプライチェーン全体の理解を深め、食の安全性に関する新たな基準を構築することを目指している。具体的には、食品に影響を与えている微生物、また工場の環境がそれらの微生物の活動に影響を与える要因などを分類し、理解を深めるために、過去最大規模となるゲノム解析研究を実施する予定だ。
第一段階としてはバクテリア・菌類・ウイルスといった微生物の遺伝的な特徴を研究し、それらがどのように調理場や工場、生の食材といった異なる環境において成長するのかを調査する。それらのデータはバクテリアの相互作用に関する調査に利用され、食料サプライチェーンの安全管理を実現する全く新しい方法を生み出すことが期待されている。
MarsでR&D部門の副責任者を務めるDave Crean氏は「このコンソーシアムは食の安全を改革する可能性を秘めており、かつてない規模で新たな脅威を特定し、解決するための強力なツールを提供することで世界の食の安全に重要なブレークスルーを引き起こすだろう」と語った。また、同氏は「我々はIBMの研究チームと共に働けることを嬉しく思うと同時に、ゲノム研究や食料、農業分野におけるグローバルなイノベーションの実現に向け、将来的には新たなパートナーを迎えることも楽しみにしている」と付け加えた。
また、IBM Researchの副社長を務めるJeff Welser氏は「ゲノム配列は新しいタイプの顕微鏡として機能する。その顕微鏡は我々がこれまで理解できなかった考察の発見に向け、自然環境を深くまで透すためにデータを活用するものだ。ゲノムのデータからの考察を掘り下げることで、我々は食料サプライチェーンにおける健康的で安全な微生物の管理システムを特定し、理解し、作り出すことを望んでいる」と語った。
研究の当初は原材料の収集や工場の環境に焦点が絞られ、最終的には農家の取り組みを含むフードサプライチェーン全体に拡張される予定だ。土壌の微生物を理解することは、農家がどうすれば作物を健康に成長させ、病原菌から守ることができるかを理解する上で役に立つ。
グローバルの食料サプライチェーンにおける食の安全確保に向け、どのような成果を生み出すことができるのか、IBMとMarsという異業種2社の協働による革新的な研究に期待が集まる。なお、今後コンソーシアムには更に学術界、企業、政府などから新たなメンバーが加わる予定だ。
【参考サイト】Sequence the Food Supply Chain
【企業サイト】IBM Research
【企業サイト】Mars, Incorporated
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