ドイツ化学大手のバイエルは、広く使用されている同社の殺虫剤がミツバチやマルハナバチなど花蜂を含む花粉媒介昆虫に対して悪影響を及ぼしているとした米環境保護庁(EPA)の発表を過大評価だとして非難していたが、方針を改め、EPAの発表は科学的根拠に基づくとして花蜂保護の強化に向けて対処すると発表した。1月12日付英紙ガーディアンが報じている。
今回バイエルの方針転換の契機となったのは、EPAが1月初旬に公表した予備リスクアセスメントの内容だ。EPAは、世界中で多用されている殺虫剤の「イミダクロプリド」が一定の環境下ではミツバチを害しうるというアセスメント結果を公表した。花の蜜にイミダクロプリドが含まれており、昨年のミツバチコロニー(蜂群)の危機的減少に繋がった可能性があるとの結論を出している。
同アセスメントでは、柑橘類および綿花にもこれ以上のレベルでイミダクロプリドが含有されているのが確認されたが、じゃがいも、米、とうもろこしに関してはそれ程大きなリスクとはなっていなかった。そのため今後の課題としては、イミダクロプリドによって害された花蜂が他の植物と触れ合うことによるリスクの評価が行われることだ。
なお、EAPはイミダクロプリドの他にもクロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフランの3種のネオニコチノイド系が持つ影響に加えて、殺虫剤が花蜂だけでなく蝶や水棲昆虫等の生物に及ぼす影響について調査を始めており、結果は今年12月に公表予定だという。
しかし、環境活動家からは殺虫剤による花蜂への危害に関するEPAの対処は遅すぎるという非難の声も挙がっている。安全な食料確保に向けて活動している米国NPOの Center for Food Safetyは、養蜂業者や農業者と共にEAPに対して訴訟を起こしている。環境への影響に関する正確なアセスメントを実施しないまま、同国の1億5000万エーカーもの土地にネオニコチノイド系殺虫剤をまぶした種子(種子粉衣)を植えることをEPAが許可しているのがその理由だ。なお、この種子粉衣については、今回調査が行われておらず、EAPの対応が注目される。
米農務省が昨年公表した調査結果によると、2014年~2015年の1年間で、殺虫剤、生息地の消失、寄生虫や病害などが原因で蜂群は42%減少しているというデータもある。我々が口にする全ての食料品の3分の1が花粉 媒介昆虫に依存しているということを考えると、これは重要かつ危機的なサステナビリティ課題の一つだ。
昨年5月に科学雑誌Natureに発表された2本の論文でも、殺虫剤の使い過ぎで花蜂の数が減っていることが指摘されている。そのうち1本の論文では、花蜂はニコチンを含有するネオニコチノイド系殺虫剤に引き寄せられ、神経系に害を及ぼす食べ物を好む可能性があるとしている。
もう1本の論文では、ネオニコチノイド系クロチアニジンと非浸透性ピレスロイド系ベータシフルトリンの合成物であるEladoによるアブラナ種子の粉衣は、圃場の条件により、野生の花蜂の密度低下や個別の営巣活動の減少、マルハナバチのコロニー増殖と繁殖の抑制を引き起こすことが解明されたと記述している。
今回のEAPの発表そしてNatureの論文の他にも、近年、米国での花蜂の急速な減少に関する報告や論文が多数発表されている。求められているのは、殺虫剤をはじめとする化学物質の多様な環境下における生態系への影響を精査する、広範で詳細なデータの収集と開示だ。
【参照記事】Bayer revises position to propose extra protections for bees from pesticides
【参照記事】Wild bees on the decline in key US agricultural ecosystems – study
【参照記事】Bees prefer foods containing neonicotinoid pesticides
Nature 521,74-76 07 May 2015
【参照記事】Seed coating with a neonicotinoid insecticide negatively affects wild bees
Nature 521,77-80 07 May 2015
【参照記事】Colony Loss 2014-2015: Preliminary Results
【機関サイト】Environmental Protection Agency
【企業サイト】bayer
(※写真提供:360b / Shutterstock.com)
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