【戦略】中国の「第13次5カ年計画(2016〜2020年)」、設定された社会・環境の定量目標 2016/03/23 体系的に学ぶ

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 2016年3月に中国で開催された「両会」。この場で第13次5カ年計画が正式に可決され、中国共産党および中国政府の公式政策となりました。しかしながら、日本や欧米とは大きく異なる政治制度を採っている中国の話は、なかなかピンと来るものではありません。中国は、世界最大の人口、世界第2位のGDP、国連安全保障理事会常任理事国、通貨人民元は国際通貨基金の準備通貨SDRに採用、二酸化炭素排出量世界一など国際的に大きな存在感を示す大国である一方、その国家統治機構が独特であるがゆえに、中国が取り組んでいることはあまり認知されていません。そのため、Sustainable Japanでは中国の情報を出来る限り多く伝えるようにしています。それは良くも悪くも世界全体のサステナビリティを考える上で中国は無視し得ない存在だからです。

中国の政治機構図

 今や世界の常識となった立法・行政・司法の三権分立体制。西欧的国家統治の基本となっているこの考え方を中国は採用していません。中学校の教科書で学習する米国を代表とする大統領制や日本や英国が採用している議員内閣制についても、中国はどちらでもない体制を採用しています。さらに言うと中国は、中国共産党が国家の上に存在するというとても特異な統治構造を採用しています。このように中国は私たちが慣れ親しんでいる概念とは全く違う国家運営を行っています。そのため、日本の国会や内閣などの概念から一度離れ、あらためて統治構造を理解する必要があります。

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(出所)ニューラル作成

 中国の最高意思決定機関は、中国共産党全国代表大会です。これは議会ですが、いわゆる国会ではなく、共産党の会議体です。この議会の議員は2,000人以上おり全員が中国共産党の党員です。が、5年に1度しか開かれません。そのため日常的なことを検討することはできず、この議会の主な役割は、中国共産党の章程(最高法規)を改正すること、中国共産党の重大事項を決議すること、中国共産党中央委員会委員(中央委員)を選出すること、中国共産党中央紀律検査委員会委員を選出することです。中央委員会は、中共中央とも略され、1年に1回開催される会議体です。全国代表大会が開催されていない期間中、この会議体が党運営(すなわち国家運営)を担当します。議員数は中央委員205名、候補委員171名の合計376名、日本の衆議院議員と数のイメージが近づいてきましたね。この中央委員会はさらに中央委員会政治局委員約25名と中央委員会政治局常務委員7名を選出します。政治局委員会は月に1回、政治局常務委員会は週に1回開催され、中国共産党章程には「中央委員会の閉幕中は中央委員会政治局が職権を代行する」「中央委員会政治局の閉幕中は中央委員会政治局常務委員会が職権を代行する」と規定されています。結果、高い頻度で開催され最終的に政治を担うこととなる中央委員会政治局常務委員が中国の最高権力者となります。政治局常務委員の定数は現在7名であるため、チャイナ・セブンとも呼ばれています。

 チャイナ・セブンには序列があります。序列1位は当然、習近平氏です。習近平氏は、中国共産党中央委員会から「中央委員会総書記」「党中央軍事委員会主席」に選出されており、さらに国会である全国人民代表大会から「国家主席」「国家中央軍事委員会主席」に選出されています。序列2位は李克強・国務院総理(国家行政府トップ)です。上の表で◯で囲まれた数字は、その他第7位の常務委員までの職責を表しています。このように、チャイナ・セブンのメンバーが各重要組織のトップを兼任し、7名全員が毎週常務委員会で顔を合わせて議論をすることで、中国の政治運営は行われているのです。

 国家としての中国には、中国共産党の指導のもと、立法府、行政府、司法府などが設置されています。立法府は全国人民代表大会、通称「全人代」で毎年3月に開会されます。全人代の議員も約2,000名います。行政府と司法府は全人代の下に置かれており、行政府が「国務院」、司法府が「最高人民法院」と検察組織である「最高人民検察院」です。同じく全人代の下には「国家中央軍事委員会」が置かれています。また、全人代そのものの事務局を務める「全人代常務委員会」もあります。行政府である国務院のトップが国務院総理です。国務院内部の序列は、国務院総理、国務院常務副総理、国務院副総理、国務委員、そして各部・委員のトップ(大臣に相当)の順です。このように日本の大臣とは異なり、中国では大臣級の地位は高くはありません。国務院常務会議と呼ばれる最高閣議のメンバーは国務院総理、国務院常務副総理、国務院副総理、国務委員、秘書長(内閣官房長官に相当)までで、大臣級はメンバーではありません。副総理の中でもひとつ格上の常務副総理はチャイナセブンのメンバーが務め、「財政・金融・発展改革」分野の部・委員会(府省に相当)を職掌しています。今回のテーマである「5ヵ年計画」は、委員会の一つである「国家発展改革委員会」が起草を担当しています。

 軍事部門についても触れておきましょう。中国の軍部統治は極めて複雑な体制をとっています。軍部の最高意思決定機関として、「党中央軍事委員会」と「国家中央軍事委員会」が並列で置かれています。ヘッドが2つに分かれているというのは、軍部の意思決定を統一できない可能性を持つという極めて脆弱な体制です。このような事態は中国の歴史的な経緯に原因があるのですが、現在は「党中央軍事委員会」と「国家中央軍事委員会」の委員に全く同一の人物を選ぶという人事運用を行っており、実質的に意思決定が分裂しないようにするという工夫がなされています。行政府である国防部の部長(防衛大臣に相当)は国務院副総理が兼任するとともに、党中央軍事委員会と国家中央軍委員会の委員にも就いています。

 最後に一番理解の難しい「統一戦線組織」を見ていきましょう。この組織を理解するには、中国には実は中国共産党以外の政党が合法的に存在しているということを知っておく必要があります。中国には、中国国民党革命委員会、中国民主同盟、中国民主建国会など8つの合法政党(「民主党派」と呼ばれています)があります。これらの政党は中国共産党と歩を共にすることを決めている友党です。民主党派の存在は、1949年の中華人民共和国建国にまで遡ります。当時の中国は日本軍と戦うため様々な党の統一戦線組織が誕生しており、戦後も国民党と闘い新たな中国を立ち上げるために複数政党が集う会議体が必要とされていました。そこで創設されたのが「中国人民政治協商会議」で、その全国会議が「中国人民政治協商会議全国委員会(通称、全国政治協商会議)」です。全国政治協商会議には、政策や法律を決定する権限はなくただの諮問会議ですが、国会である全人代と常に同時に開催されます。そのため、全国協商会議と全人代は合わせて「両会」と呼ばれています。

第13次5カ年計画(2016〜2020年)の決定

 中国は1949年の建国以来、5年おきに「5ヵ年計画」を定めて、経済・社会の政策目標としてきました。すなわち「5ヵ年計画」には、中国政治における5年間の国家戦略が記されています。2010年から2015年までが「第12次5ヵ年計画」、そして2016年から2020年までが「第13次5ヵ年計画」の期間です。中国では「第13次5ヵ年計画」は「十三五」と略されて表現されています。

 「第13次5ヵ年計画」草案の起草は、2014年4月にスタートしました。起草を担当するのは、省庁のひとつである「国家発展改革委員会」です。国家発展改革委員会は、中国の内閣府、経済産業省、国土交通省などの多くの機能を併せ持つ巨大な官庁です。企業における経営企画部のような役割を担っており、内閣の様々な計画・企画を担当します。2015年の上期には国家発展改革委員会から上位組織の国務院に提出され、今度は国務院全体で揉まれます。揉まれた草案は今度は中国共産党中央委員会に持ち込まれます。2015年10月に開催された第18期中央委員会第5回全体会議(通称、「五中全会」)で「第13次5ヵ年計画」草案は承認され、方針骨子が確定します。そして最終的に具体的な数値目標にまで詰まったものが、2016年3月に開催された全人代と全国政治協商会議に持ち込まれて決議され、公式なものとなりました。冒頭で説明したとおり中国は複雑な分散統治構造を採っていますが、5ヵ年計画は、中央委員会の承認、全人代と全国政治協商会議の決議を得ているため、実質的に中国の最高戦略となることができるのです。

第13次5カ年計画(2016〜2020年)で決定した内容

 「第13次5ヵ年計画」の中身は全80章で構成されておりかなりの長文です。また、中国の行政文書は、思想背景や原則など「お題目」を重視するのが特徴で、一般的な日本人が中国語の読解に挑もうとすると「中身がない」言葉が羅列されているように感じてしまいます。しかしながら、この手法は、長年の中国の文化が関係しているように思います。中国の為政者達は代々、大切なことをはっきりと断言せず、婉曲的に表現し、相手に「察する」ことを求めることで巨大国家の舵取りとリスク回避を成し遂げてきたからというのが私自身の私的な見解です。そのため、中国政府の政策を読み解くには、かなりの想像力を必要とし、多くの情報や背景知識を動員して、言わんとするところをとらえなければならない難しさがあります。西欧文化とは大きな違いですね。

 そんな中国政府も近年は、積極的に具体的数値目標を立てるようになりました。数値目標を明確にする欧米流のマネジメントが受け入れられてきていると言うことができます。そして、「第13次5ヵ年計画」には、GDPから二酸化炭素排出量まで幅広い数値目標が設定されています。

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(出所)新華社ネットをもとにニューラル作成
(注)目標性質の欄で「預期性」は将来ターゲット数値が変更する可能性のある目標、「約束性」は必達目標。
 
 注目に値するのは、中国が対外的に懸念されている二酸化炭素排出量の削減率や大気の質、水質について数値目標を定めている点、そして持続可能な発展に絡む都市化問題についても扱っている点です。中国での「5ヵ年計画」は、日本や欧米の政府が掲げる政策目標よりも大きな拘束力があります。民主主義国家のもとでは政策の達成・未達成はメディア等で取り上げられますが、最終的に政権の成否を決めるのは選挙です。一方、中国政治においては選挙による評価はありません。政治家や官僚の成績は具体的な政策目標の達成状況で判断され、未達成の場合には左遷されることもあります。

 もちろんそれに伴う課題もあります。拘束力が強い目標であるからこそ情報の隠蔽や捏造の温床ともなっており、政府は常に正しい情報収集を如何に行うかという根本的な問題に悩まされています。中国では、個別の課題解決もさることながら、データ計測や情報収集の面でもNGOなどの活躍が期待されていますが、やはり成績の良くない地方政府は隠蔽したい気持ちもあるため、どの当局の誰とコミュニケーションをとるかは慎重にならざるを得ません。

 「第13次5ヵ年計画」が定める2016年から2020年は、今後のサステナビリティにとって重大な試金石となる期間です。2020年以降の新たな気候変動対策を取り決めたCOP21パリ協定。2016年から2030年までの世界的目標を定めた持続可能な開発目標(SDGs)。世界的に不安定化している経済。難民問題やテロが横行する政治環境。大国中国がどのように世界と関わるのか。また、体内的な動きも見せるのか。これからも中国の動向に注視していきます。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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